(本紙編集局はこう読む 深掘り 教育ニュース)大学入試の民間試験導入

20年度から予定通り実施か見送りか

2020年度から始まる大学入学共通テスト(共通テスト)の英語で導入予定の英語民間資格検定試験(民間試験)の活用を巡って、高校関係者の間で紛糾している。

全国高等学校長協会(全高長)は民間試験の活用開始を延期するよう文部科学省に要請した。一方、日本私立中学高等学校連合会(中高連)は、予定通り民間試験の活用を実施するよう同省に要望した。公立高校と私立高校の意見が対立した形だが、本当にそうなのだろうか。

公私立の意見対立は本当か

全高長は9月10日、英語4技能の測定を目的とする民間試験の活用を延期するよう文科省に申し入れた。これを契機に、一般社会でも実施延期を求める声が高まっている。

一方、中高連は9月19日、20年度の民間試験活用まで約半年に迫った段階で実施を延期すれば、逆に準備を進めてきた高校生に「新たな負担を強いる」として、予定通りの実施を要望。民間試験を巡る高校関係者の意見が、公私で割れた形となった。

ここで一つ注目されるのが、全高長と中高連が要望書をそれぞれ文科省に提出した際の本紙記事の写真だ。全高長要望書を受け取ったのは大学振興課長なのに対して、中高連の要望書は萩生田光一文科相が直接受け取っている。この違いに、文科省の思惑が透けて見える。

そもそも教育団体などが文科省に要望書を出す際、それを受け取るのは、ほとんどが一般職員だ。全高長の場合、幹部である課長が受け取っているので、それなりの配慮を示したともいえる。これに対して、中高連の要望書は萩生田文科相が直接受け取っている。これは異例といってよい。

裏を返せば、民間試験活用の実施延期を求める世論が高まる中で、予定通りの実施を求める関係団体の声が、のどから手が出るほど欲しかったのだろう。

民間試験の実施体制の不十分さを指摘

マスコミの一部には、民間試験の活用を巡る公立高校と私立高校の対立という構図で報道したところもある。全高長には私学も加盟しているものの、実質的には公立関係者が組織の中心を占めている。公立中心にまとめられた要望書に不満があったと見ることもできる。実際、吉田晋中高連会長は、要望書提出後の記者会見で「(全高長の要望書は)私立学校の意見が反映されていない」と不満を漏らしている。

しかし、両団体の要望書を比べてみると、基本的に両団体の主張は驚くほど共通している。つまり、現在の民間試験の実施体制は極めて不十分であるということだ。特に、提出日が遅い分だけ、中高連の要望書の方が実施体制の不備をより詳細に指摘して、改善を求めている。

主な要望は、次のようなものだ。

①私立大学の約3分の1が民間試験の活用方法を具体的に示していないことについて、「遅くとも必ず9月中に公表するよう、強く要請すること」

②民間試験の活用のため大学入試センターが受験生に発行する共通IDの申込開始日である11月1日よりも前に、「実施団体が、確実に試験実施日や会場等の実施要項を公表するよう、強く要請すること」

③民間試験でトラブルがあった場合、「再試験については、無償により確実に実施するよう強く要請すること」

これらは全くその通りだ。逆にいえば、これらが、未解決なのが問題だ。その意味で、中高連要望書は、民間事業者である各実施団体に体制整備を早急に完遂させるべく強く働き掛けるよう文科省に求めている。決して文科省に迎合しているわけではない。

時間不足で対応は不可能

言い換えれば、私立大学や民間事業者に「強権」を発動してでも実施体制を整えることを文科省に求めた上で、既に準備を始めている受験生の負担にならないよう、民間試験の活用自体は予定通り実施すべきだとしているのが中高連。私立大学や民間事業者の体制整備が間に合わないのを見越した上で、受験生が混乱しないよう、民間試験活用を延期すべきだとしているのが全高長である。

最終的結論だけを見ると、両者は正反対のようにも見える。「公立と私立の対立」という見方も理解できる。だが、民間試験活用の実施体制は、いまだに不十分で、さらに高校現場が対応できる時間的限界が迫っているという認識は共通していることが分かる。つまり、両者共に現状のままでは英語の民間試験活用は困難だと考えている。

では、中高連が要請するように、私立大学や民間試験の実施団体が体制を整備できるのだろうか。恐らく、難しい。

まず、民間事業者は経済性を重視する。ビジネス英語検定のTOEICの実施団体が、共通試験参加を取りやめたのも、全国的な試験会場整備の必要性などを勘案して、利益が出ないと判断したからだろう。民間事業者に、文科省の「威光」がどれだけ通用するのか。私立大学については、単純に時間不足だろう。

そうなると、受験生にとって民間試験の活用を予定通り断行するほうがよいのか、ある程度許容できる実施体制が整うまで見送った方がよいのか。答えは、おのずから明らかになろう。