23区設置の児童相談所 退職教員を活用し現場にアドバイスを

教育新聞論説委員 細谷 美明

目黒区で両親から虐待を受け幼児が死亡した事件、あるいは千葉県野田市の小学生が虐待死した事件で、世間の注目を集めたのは、事件に関わった児童相談所の対応であった。いずれも多かったのは、児相が迅速に深く関わっていれば、子供は死亡せずに済んだのではないかという批判である。

これに対し、児相側にも言い分がある。まず、慢性化する職員の不足。日本の児相の場合、1児相が管轄する人口は平均60万人で、野田市を管轄する柏児相は何と130万人以上となる。厚労省によれば、2018年度の全国の児童虐待相談対応件数(速報値)は15万9850件と過去最多となっており、場合によっては早期発見を遅らせる要因にもなっている。

職員不足と並び児相が課題としているのが、専門知識と経験を有する職員の養成だ。現在、児童福祉司の資格を持っている人間が研修の対象だが、これも大学での修学と福祉施設での実務経験をもって任用資格が与えられ、地方公務員選考に合格してようやくその資格が与えられる。現場に出て期待通りの成果を出すには時間が掛かるのである。

必要な人材は児童福祉司だけではない。児童心理司も欠かせないスタッフである。その他、外部からの委嘱という形になるであろうが、児童精神科などの専門医や弁護士もすぐに招集できる体制が必要となる。

そんな中、今年5月に東京都が管轄する児相と各区市町村の担当者による検討会を開き、児相と区市町村間の人事交流や施設活用など連携強化の在り方を議論した。

また、6月には児童福祉法が一部改正され、これまで設置義務のあった都道府県と政令指定都市以外に、20年度以降、東京都の特別区でも児相が設置ができるようになった。これを受け、練馬区を除く22区が児相の開設を表明。さらに荒川区、世田谷区、江戸川区が20年度の開設を決めた。

東京都のような人口の多い地域でこのような対応は高く評価できるが、先の課題をどうクリアしていくかが今後の鍵となる。逆に、この3区の取り組み方によっては、今後の中核都市や他の区における児相設置の新たな展望が開けるだろう。

金沢星稜大学の川並利治教授によれば、特別区ならではの利点と課題があるという。利点としては、特別区には特別区長会・副区長会、各分野の部課長会、特別区人事・厚生事務組合、それらを支える特別区長会事務局があり、「互譲・協調」の精神が根付いている点である。協議が必要な事項は円満な話し合いが行われるであろう。

課題としてはやはり人材養成でである。特別区の職員の研修、とりわけ実施研修となると、現在11ある都の児相で複数の区の職員の受け入れに問題があり、都からの人的支援も難しいという。

この他にも、各区に設置されている子ども家庭支援センターと児相との役割分担や、虐待や家出などの理由で子供を一時保護するための施設の設置という課題も見逃すわけにはいかない。

今後、こうした課題解決に向け、迅速かつ綿密な協議が東京都と特別区の間で行われることを期待する。

一方で提案もある。学校をよく知り児相の職員にアドバイスできる立場で、なおかつ学校に対し緊急対策チームの招集など校長にアドバイスできる人材を児相に常駐させられないだろうか。人材には生徒指導を専門としてきた退職校長や、元指導主事経験者などが考えられる。任用面でクリアしなければならない壁もあろうが、児相の動きを円滑化できるキーマンとなる可能性は大きい。

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