(新しい潮流にチャレンジ)「いじめ」への回避策を身に付ける

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教育創造研究センター所長 髙階玲治

対人関係の知恵と対処を学ぶ

リボンを身に付けた子供たち

最近、ある小学校を訪問したとき、子供たちが「いじめをしない」リボンを全員が身に付けていた。毎朝、服を取り替えても、リボンは忘れない。このリボン運動は近くの中学校でも行っているという。学校の「いじめゼロ」を目指す運動である。成果は上がるであろう。

全国的に「いじめゼロ」を目指す学校は多い。しかし、児童生徒のいじめ認知件数は年間50万件を超えている。学校はいじめをなくすための努力を続けていても、調査結果は芳しくない。

いじめ調査は必要だが、都道府県によっていじめ把握が大きく異なったりして、調査そのものにも疑問が多い。むしろ、これほど増大しているいじめ認知件数について、肝心のいじめ問題への子供の指導はどうなっているのであろうか。

実のところ、小中学校段階で「いじめゼロ」を目指しても、将来的にいじめに遭遇する機会は多いであろう。「いじめはなくならない」とは、例えば脳科学者の中野信子氏の言葉である。「いじめは本来人間に備わった〝機能〟による行為ゆえ、なくすことは難しい」と(『ヒトは「いじめ」をやめられない』小学館、2017)。

そこで必要なのは、子供の場合もいじめはなくならないのだから、いじめの回避策を考えて対処する方法を身に付けることだという。

いじめゼロの純粋培養で学校生活を終えたあとで、いじめに遭遇したとき、どう対処してよいか分からず、社会生活が嫌になり引きこもったり、現実逃避の生活を送るようになったりしないか、ということがある。

「いじめゼロ」を目指しながら、いじめ回避の手だてをどう身に付けるか、が求められる。

道徳教科といじめ実践指導

道徳の時間が教科になって、最も重視されるのは、いじめが課題になることである。いじめを正面から見据え、考え、議論する道徳としての新たなスタートとなった。

その道徳で、いじめはどう学ぶのか。文科省の解説によれば、「いじめは許されない」ことをただ教えることではないという。現実のいじめ問題に対応する資質・能力を育てるには、「あなたならどうするか」と真正面から問い、多面的・多角的に議論することが必要だとしている。その視点は重要である。

道徳解説書などでは、次のような視点を例として挙げることが多い。「どのようなことが、いじめになるのか」「なぜ、いじめが起きるのか」「なぜ、いじめはしてはいけないのか」「なぜ、いじめはいけないと分かっていても、止められないのか」「どうすれば、いじめを防いだり、解決できるか」「いじめを行った結果について、どのような責任を負わなければいけないのか」などである。

「いじめはいけない」と形式的に子供に判断させるだけでは、いじめ対応力は育たない。いじめられる側の陥るさまざまな心理的・肉体的な苦痛を自らも「痛み」として共感できる資質形成が必要である。そのために、実際に起きた臨場感のある事例などで、徹底して議論させたい。そこに、いじめ対応への自分なりの体得が生まれるからである。いじめゼロで満足して無菌培養で育てる結果では、長じていじめに出合ったときの対応力は育たないのである。

ただし、1つの事例で、いじめ問題を網羅的に取り扱うことはできない。したがって、複数の事例などで繰り返し議論の場を設定する必要がある。道徳の時間以外に、いじめ問題に遭遇した場合、積極的にいじめ問題の追究を実施したい。

いじめ回避策を身に付ける

ところで、いじめに関する「議論する道徳」での指導と、いじめ回避策は同じであろうか。

いじめゼロ運動は、そのときの場がそうであるにすぎない。いじめはなくならないのであるから、いじめに遭遇したときの対処の仕方を身に付けている必要がある。それが、いじめ回避策である。

そのことで和久田学氏は『学校を変えるいじめの科学』(日本評論社、2019)で具体的に述べている。この図書はいじめに関して多面的に考察していて極めて参考になるが、その中で注目したいのは、いじめに出合ったときの対処の仕方である。

それを具体的に述べている。いじめ(かもしれないこと)にあったときにとるべき行動。

  • 「やめてほしい」ことをはっきり言う。いじめに被害者は受け身になる場合が多い。周囲の者が、その行動が被害者を傷つけていること、嫌がっていることなどをはっきり告げる。
  • その場から離れる、その場を避ける。周囲の者がその場から逃れるように援助する。いじめが起きやすい場所から避ける。
  • 助けを求める。被害者は助けを求められない状況にあるかもしれない。周囲の者が被害者に代わって、信頼できる大人に助けを求める。
  • 被害者に問題がないことを確認する。被害者は「いじめられるのは自分に問題があるからだ」と考えたりする。「いじめはあくまでも加害者の問題である」ことを被害者に告げ、勇気付ける。
  • 受け流す。加害者は被害者の反応を楽しむ傾向がある。被害者が受け流すようにして、相手をかわす。
  • ユーモアを使う。ユーモア、笑いは深刻な場を和らげる効果がある。その場の雰囲気を変えることでいじめを解消する。

こうしたいじめ対処の方法は被害者本人がよくわきまえている必要があって、そのことを具体的に指導する必要があるが、ただ案外難しいかもしれない。しかし、いじめ回避策を具体的に身に付けるのは将来の成長にとって極めて重要である。大人社会でもいじめは多いのである。

和久田氏は英国のウェブサイトにあった「いじめにあったときの対処スキル」を紹介している。

  • 行動を起こす前に・まず、自分がひとりぼっちでないことに気付く・いじめは加害者側の問題で、自分に落ち度がないことを知る
  • 4つの基本的な行動①誰かにこのことをいう(助けを求める)②加害者にいじめをやめてほしいと伝える③加害者の行動を無視し、その場から離れる④自信のある行動をとる(そのほうがいじめが続きにくい)

中野信子氏は、仲間意識が強すぎるのが問題で、個人と個人との関係はよいが、集団を強く意識する状態がいじめを発生しやすくする可能性が大きいことから、人間関係を薄めて排他感情を緩和するのが大事だという。個性優先の指導が重要なのである。大人についても、メタ認知を高め、60%の間柄になるべきだとする。

対人関係で距離を置く対処の仕方が、いじめ回避に役立つ可能性は大きいのではないか。