個別最適化された学び 丁寧に吟味して用いるべき

教育新聞論説委員 工藤 文三

新しい時代の学びの形

2019年4月、文科大臣は中教審に対して「新しい時代の初等中等教育の在り方について」諮問した。

これを受けて、10月4日に第123回の初等中等教育分科会が開催され、論点整理案が出された。「新しい時代を見据えた教育の将来像の方向性(イメージ)」と、この方向性を実現するために検討を深める事項が7点示された。

この「教育の将来像(イメージ)」では、「育成を目指すべき資質・能力」と「子供の学び」「子供の学びを支える環境」について述べている。子供の学びは「多様な子供たちを誰一人取り残すことのない、個別最適化された学びが実現」の表題の下、先端技術の有効活用や探究的・協同的学びの実現などをうたっている。

一方、高校WGでは高校教育の在り方について審議がなされ、9月24日のWGでは「議論のための論点メモ」が示された。このメモの「検討に当たって共有すべき視点」の中で「…多様な子供たちを誰一人取り残すことなく一人一人の生徒の能力を最大限伸ばす、『公正に個別最適化された学び』の実現を図ることを前提として考えることとしてはどうか」という視点が示されている。

経産省の研究でも

「個別最適化」は18年6月にまとめられた経済産業省の「未来の教室」とEdTech研究会の第1次提言において示された。

この提言では、「…世界中でEdTechによる教育イノベーションが進み、STEM/STEAMを通じた『経験と教科の融合』や、ビッグデータとAIの助けを得た『学習の個別最適化』を実現できる可能性が高まっている」としている。

また、「未来の教室」の「ラフスケッチ」として、10の項目を挙げその中に「『教科学習』は個別最適化され、『もっと短時間で効率化された学び方』が可能になる」という一節がある。ここではEdTechの活用によって、基礎学力の習得に費やす時間当たりの理解度の向上幅が大きくなるとして、「学びの生産性」が上がると言っている。

ここでの「個別最適化」は、EdTechを活用した教科学習の時間と理解度の間の「効率」「生産性」を向上するという文脈で用いられていることが分かる。

「個別最適化」の用い方はこれでよいのか

「最適化」の意味について『広辞苑』第7版(岩波書店)には「(optimize)特定の目的に最適の計画・システムを設計すること。プログラムを特定の目的に最も効率的なように生成すること」とある。optimizeの意味として、『ジーニアス英和大辞典』(大修館書店、2001)では、経済活動、コンピュータ、工学、数学に区分して意味を記している。

「最適化」の持つ意味合いは、特定の目的に適合するように、さまざまな条件や要素を選択したり組み合わせたり、並べたりすることである。「個別」とは子供一人一人の意味、または個々の条件変数を指していると思われる。

翻って子供の学習は、興味・関心、好奇心、意欲や持続性、学習環境、他の子供たちや教師との関わり、自己に対する捉え方や感情、学習自体への構え、その他さまざまな状況の中で成り立っている。子供が学習していく教科のカリキュラムは必ずしも全てが明確な形、系統的ではなく、要素還元的とも言えない。

EdTechを用いて要素化・断片化の後、一人一人の子供や学習場面に応じた学びのカリキュラムを作成できるのか、また、それが本当に有効なのかは不透明と言わざるを得ない。

さらに、忘れてはならないのは、学習は知識・技能だけでなく、思考力・判断力・表現力、学習態度を統一的に育てることを主旨としている点である。数理モデルや工学モデルの印象を持つ「個別最適化」の用語を、安易に用いるのではなく、子供の学習の姿や教育課程の構造その他に十分配慮して用いてもらいたい。