全国学力・学習状況調査 廃止・見直し論に異議あり

教育新聞論説委員 細谷 美明

自民党の教育再生実行本部は第13次提言に向けての会合で、全国学力・学習状況調査について廃止を含めた見直しを検討することとなったと、本紙10月14日号が報じている。これには、来年度より全面実施となる新学習指導要領が掲げる、カリキュラム・マネジメントの確立に支障をきたす意味から異議を唱えたい。

報道によれば、本部長を務める馳浩元文科相から「年間50億円を掛けて実施しているが、予算の使い方を考える上で他にやりようがあるのではないか。悉皆(しっかい)でそのまま続けていいのかという議論もある。ビッグデータを活用して、教授法をフィードバックさせるなどのやり方もある」との説明があったという。

全国学力・学習状況調査については、これまでも予算削減対象の施策として何度か挙げられてきた過去がある。調査結果が毎年同じような傾向を示し悉皆調査の必要性はないのではないか。都道府県レベルでも同じような調査を実施するところが増えているので必要ないのではないか、調査結果を都道府県別に公表することにより、各自治体の競争意識をあおり、平均正答率を上げ、学校現場へ圧力をかける弊害を生むのではないか。こうした批判が繰り返されてきた。今回の馳本部長の発言にも同じような響きがある。

これらの意見には欠落する視点がある。同調査を管理職が自校の学校経営に生かすという点についてである。

校長が学校経営方針(経営戦略と言ってもよい)を考える際、重要視するのが自校の子供の学力や生活の実態である。各校長は学習指導要領に記述されていることを金太郎あめのごとくそのまま同じように実施しているのではない。学校には能力・適性、興味・関心、性格などそれぞれ違う子供が毎年入学・在籍し、彼らを育てる保護者や地域が存在している。それらの実態を知ることで初めて学校経営方針が生まれ、生きた教育課程が編成できるのである。

また、学年によっても実態は違う。同じ学校であっても毎年子供の実態は違うのである。こうした実態を数値など客観的に示してくれるデータが学力・学習状況調査なのである。

筆者が校長時代に本調査結果をどのように学校経営に生かし学校改善を図ったかは、本紙の8月12日号で触れている。まさに校長にとって本調査は医者におけるカルテのような存在なのである。それを実行本部は校長から取り上げようとしている。目の前の子供の姿を見えなくしようとしているのである。

中教審は今回の学習指導要領の改訂に当たり「教育内容の質の向上に向けて、子供たちの姿や地域の現状等に関する調査や各種データなどに基づき、教育課程を編成し、実施し、評価して改善を図る一連のPDCAサイクルを確立すること」と述べた。いわゆるカリキュラム・マネジメントの確立である。

確かに馳本部長の言うように教員の授業改善は本調査でなくとも行う方法はある。しかし、子供の学力の細部や生活の傾向、そして前年度や過去の年度との比較については、毎年同学年で実施する同調査でなければ十分に分析することはできない。校長の学校経営のチェックもできない。

さらに言えば、国立教育政策研究所が調査結果の分析とともに、成果を上げている学校の取り組み例などの公表もセットで行っており、学校にとって同調査はまさに教育のビッグデータそのものでもあるのだ。

馳本部長は文科相時代、学校現場の声をよく聞いてくれる大臣だと評判が高かった。また、財務省の教職員定数削減の声に対し猛然と反対した。ここは全国の学校現場が一斉に声を挙げ、現場の声をこちらから届けてみたらどうだろうか。