年間変形労働時間制 大問題か、杞憂か?

教育新聞特任解説委員 妹尾 昌俊

相次ぐ批判

公立学校の教員に1年単位の変形労働時間制(以下、単に年間変形労働)を導入することを可能にする法案が現在、国会で審議されている。本稿執筆時点では審議は未確定だが、懸念されることなどについて述べたい。

まず、率直に申し上げて、年間変形労働に対する学校現場や識者らからの評判は悪い。導入の見送りを求めて先月には約3万3000人分の署名が文科省に提出されたし、そこには著名な教育学者も多数賛同している。本紙電子版「Edubate」の読者投票でも、91%が反対であった。

反対する意見の論拠にも、なるほどと思えるものが多い。

一部を取り上げると、第一に、現状の長時間勤務を容認、追認、助長することにつながる可能性があること。忙しい時期には勤務時間が現行の7時間45分から最大10時間まで可能だが、小中学校の多くは休憩もろくに取れていない実態があるので、実質11時間近く働いても、時間外はゼロとなってしまい、問題視されない可能性がある。

これでは、働き方改革にはむしろ逆行するのではないか、また、教員の過労死防止などの観点からも望ましくない――という批判が寄せられるのも、もっともだ。

第二に、育児や介護などの人が働きづらくなる懸念だ。労働基準法施行規則でも、年間変形労働を導入する際には、育児などに配慮するようには規定されているが、同調圧力の強い学校という職場で、大丈夫だろうか。今でも、定時で帰りづらいとか、部活動の顧問を断りづらいという声は多々聞く。

第三に、休みのまとめ取りが本当にできるのかという点だ。文科省が説明する年間変形労働導入のねらいは、夏季休業中の休みのまとめ取りである。だが、部活動の大会や研修、補習などがあるなかで、それほど多くの日を休めない――という声は多い。悪用されれば、見かけ上は休暇だが、部活指導などはしているといった運用がなされる可能性も否定できない。

第四に、手続き上の問題である。法案では都道府県などの条例により導入を可能とする。もともとの労基法の規定では労使協定が必要であるが、これを迂回(うかい)する法案になっている。公務員の場合、特殊な法論理があるようだが、教員の声が十分に届かないまま、導入となる可能性が懸念される。

文科省の想定では週3時間増やすだけ

こうした懸念の多くは、文科省もよく理解はしていて、年間変形労働を導入するとしても、業務改善が進んでいることが大前提だと述べているし、中教審答申でも「一年単位の変形労働時間制を導入することで,学期中の勤務が現在より長時間化し,かえって学期中一日一日の疲労が回復せずに蓄積し,教師の健康に深刻な影響を及ぼすようなことがあっては本末転倒である」とくぎを刺している。

また、文科省の説明によると、文科省がイメージする導入後の姿は、学校行事などで業務量の多い時期(例えば4月、6月、10月、11月の一部)の所定の勤務時間を週当たり3時間増やして、3時間×13週=39時間を、8月の休み(5日分)に充当するというものである。

仮に、正規の勤務時間を週3時間増やす程度であるならば、前述した懸念の多くは、それほど深刻であるとは考えにくい(手続き上の4点目の批判は残るが)。

だが、これまでの歴史を振り返るなら、文科省の思惑や中教審の答申の通りに事が運ぶだろうと、楽観視できない。いくら文科省が呼びかけたり、通知を出したりしても、法律上や条例上可能となったら、なし崩し的に年間変形労働が長時間労働の実態を追認するかたちで運用されていく可能性もある。

閉庁日の拡大や年休取得促進でよくないか?

また、仮に文科省の言うように5日の休みを増やすためなら、なぜ、ややこしい年間変形労働でやろうとするのか、疑問が残る。年休の日数には個人差があるので一概には言えないが、教員勤務実態調査(小中学校、2016年)によれば、有休取得は、年10日以下という人が半数以上(中学校)であり、10日も20日も余らせている(捨てている)のである。

また、教員が休みを取ることに世間は冷ややかだが、年間変形労働にすれば堂々と休めるようになる――というのであれば、社会に対してもっとアプローチしていくことが必要な政策ではないか。

仮に法律が通って各県で検討する段階となっても、懸念点や代替案もしっかり検討してほしい。

(教育研究家、学校業務改善アドバイザー)