アフターデジタルの社会 探究学習の重要性

教育新聞特任解説委員 小宮山 利恵子

来春、東京・有明に開業予定の世界最大規模の屋内型ミニチュア施設「SMALL WORLDS」。日本を代表するクリエイターやエンジニアたちが紡ぐ精巧な技術と最先端のテクノロジーが融合した総面積8000平方メートルの動くミニチュア世界で、開業に向けて着々と準備が進んでいる。私はその施設をどのように教育で活用できるか企画監修する役割を担っている。これからますます重要となる探究学習の場として最適だと考えているが、今回は「アフターデジタル」の社会における探究学習の重要性について考えていきたい。

アフターデジタルの世界

ベストセラーになっている本がある。藤井保文氏と尾原和啓氏の共著『アフターデジタル』だ。それによれば、今の社会ではリアルが大部分を占め、その一部にデジタルが使われているが、アフターデジタルの世界ではデジタルが全てを覆い尽くし、その一部にリアルなものが存在する形になるという。日常ほぼ全てのシーンでテクノロジーが入り、個々人の活動はデータ化されていく。それが蓄積されていくことでビジネスの様態も変わるという話だ。

これまでは製品やサービスそのものの価値だけが消費者に評価されていたが、消費者とリアルでの接点をどれだけ持てるかという点が非常に大きくなるという。その製品を通じて、もしくはその製品を意識してもらうためにどのような「体験」を組み込んでいくか、それがとても重要だということだ。

これからの教育

アフターデジタルの社会、そこで行われる学びとはどのようなものだろうか。オンライン(デジタル)がオフライン(リアル)を包含すれば、今はできていない学校内外での学習のデータ化と分析が、遅かれ早かれできるようになるだろう。その個々の学習履歴を見ながら、学び方や学ぶことを見極める時代がくる。また、午前中は個別習熟度別学習で時間を効率的に利用して教科を学び、午後は探究学習を行うという学校も出てくるだろう。

AI、テクノロジーを利用した個別習熟度別学習が議論されて久しい。米国では全50州の内39州が既に部分的にでも導入しており、また日本でもスタディサプリなどのオンラインラーニングアプリが学校でも使われている。特に積み上げ型の教科である数学や英語は、一度つまずいてしまうと先に進めずドロップアウトしてしまう可能性が高い。そのため、一人ひとりの習熟度に合った学びが必要とされている。

東京都千代田区立の麹町中学校では数学の授業時間が従来比の1/2の時間で修了、中下位クラスの成績が上位に迫るほど向上を見せたという。その余った時間で別の学びができる。個人的には個別習熟度別学習が進み、余裕が出た分で探究学習をじっくり実施できれば良いと考えている。五感、アナログを通じた体験はネットを使って得た知識とは異なる。

探究学習の必要性

PISAに代表されるような読解力、数学的リテラシー、科学的リテラシーなどの基礎学力は重要だが、これからグローバルでさまざまな人と協働して仕事をしていくには、「生きる力」とも言えるフューチャースキルが必須になる。そのスキルを教科横断型で総合的に実践できるのが探究学習だ。

「SMALL WORLDS」では、さまざまな世界を巡ることで生徒の視野を広げ、多様な社会や文化を感じられるだけではなく、STEAMやSDGsの観点から学習できる内容も含んでいる。

また、プロジェクト型の学習も可能だ。テーマを定めて館内を観察した後は、ワークショップを行う場もある。館内で自動運転、360度カメラ、VRなど最先端のテクノロジーに触れながら、生徒同士で何かを自分の手で創り上げる体験もできる。それは生徒の「エージェンシー」と呼ばれる好奇心や当事者性をかきたて、自己肯定感の醸成やデザイン思考を養うことにもつながる。

地方に行く機会が多いが、その時に必ず先生方や保護者の方に言われるのが「東京は教育の情報、素材がたくさんあって良いですね」という言葉だ。しかし私自身は、探究学習はむしろ地方の方が素材が多いのではと考えている。

例えば私がアドバイザーをしている宮崎県新富町には養鰻(ようまん)がある。東京にいるとウナギを食べる消費者で終わりがちだが、同町では生産から消費までが見られる。生産の苦労を知ることでただ単に食べるということではなく、作り手の気持ちに寄り添いながら食べられる。そして、ウナギをめぐる課題についても深く考える良い機会となる。地元の人が気づいていない「素材」が散在している可能性が高い。

(スタディサプリ教育AI研究所所長/東京学芸大学准教授)