読解力の「向上」 考えるべき課題は何か(渡辺敦司)

教育ジャーナリスト 渡辺 敦司

2018年に実施された経済協力開発機構(OECD)の「生徒の学習到達度調査」(PISA)で、日本は読解力が得点、国別順位とも前回15年調査に比べ統計的に有意に低下した。本紙電子版「Edubate」の読者投票でも優先的に取り組むべき課題として、順に①読書活動の改善②各教科の授業改善③読解力の再定義④ICT(情報通信技術)リテラシーの育成――が挙がった。PISAで示されたエビデンス(客観的な証拠)を前に今後、日本の教育は何を考えるべきだろうか。

「V字回復」どこへ

00年から3年ごとに実施されているPISAを巡って国内では近年、03年調査や06年調査で日本は「学力低下」したが09年以降は「V字回復」した、というストーリーが強調されている。確かに03年調査の結果が「PISAショック」を巻き起こし、読解力の向上策が図られた。

だとするなら、なおさら今回「低下」したことの意味を問い直す必要があるだろう。現行学習指導要領でも、各教科などで言語能力の育成が行われてきたはずだからだ。しかも安倍政権は、第2次内閣の発足以来一貫して「世界トップレベルの学力」を目標に掲げてきた。それが果たせなかった原因の追及も欠かせない。

ちなみにOECDの各種調査に関しては、国内の受け止めと当局の分析に若干のギャップがあることも指摘しておきたい。読解力に関しても、アンドレアス・シュライヒャー教育スキル局長は日本向け記者会見で、日本は依然としてOECD加盟国平均を上回っていること、事実と意見を区別できた割合が10.3%あったことを、日本の強みとして評価していた。

教科書が読めている?

その上で、読解力向上の課題として、「旧来型読解力」と「デジタル読解力」に分けて考える必要があるだろう。

まず旧来型読解力だが、PISAの結果を受けて文部科学省が20年度予算案に急きょ「リーディングスキルテスト(RST)等を活用した読解力の向上」を盛り込んだのが示唆的だ。

RSTは、人工知能(AI)が東大合格を目指す「東ロボくん」プロジェクトの副産物として国立情報学研究所の新井紀子教授が開発した。RSTの結果、教科書の文章を正確に読めていない児童生徒が少なくないことが明らかになった。キーワードで読もうとするのは、まさにAIの読み方だ。それではAIに仕事を奪われても文句は言えない。

新井教授は昨年出版した「AIに負けない子どもを育てる」(東洋経済新報社)で、「穴埋めプリント学習」の横行が生徒の読解力を低下させたという仮説を提示している。

いずれにしても、教科書の文章の正確な読み取りを注意深く確認するとともに、言語活動として書かせる指導を授業計画にきちんと組み込むことが、旧来型読解力の向上には不可欠だろう。

09年の教訓はどこへ

一方、デジタル読解力は旧来型読解力とは別に意図的、計画的な育成が必要になる。

主たる教材である検定教科書には、正しい事実が系統的に書かれている。それに対してデジタル世界では、さまざまなテキストから必要な情報を取り出し、比較して真偽を判断することが求められる。

前回からPISAはコンピューター使用型調査(CBT)に移行しており、今回の読解力調査ではデジタルテキストを踏まえた出題が行われた。これも日本の読解力低下の要因となったのだが、09年調査で国際オプションとして行われた「デジタル読解力調査」でも課題とされた指摘を深刻に受け止めなかった結果とも言えるのではないか。

学校でICT導入が遅れる一方、スマートフォン(スマホ)の普及は低年齢化の一途をたどり、しかも利用がチャットやゲームに偏っていることは、文科省も指摘している。全ての子供にAIに負けない読解力を身に付けさせようとするなら、今回の読解力の定義変更を具体的な授業に落とし込み、育成することが不可欠だろう。

カリキュラム再検討も

もちろん、これらの課題を学校現場だけで解決しようとしても限界がある。カリキュラムや授業の在り方自体を再検討すべき時期に来ている気がしてならない。

極端な例を挙げよう。東日本大震災の原発事故を教訓に、文科省は「放射線教育」を強化した。コンテンツ(学習内容)主義の最たるものだろう。放射線の仕組みを理解させたとしても、放射線を「正しく怖がる」(中川恵一「放射線のひみつ」朝日出版社)ことまでできているだろうか。

しかも、社会で必要なコンテンツはますます増えていく。OECDも、各国で「カリキュラムオーバーロード」が起こっていることを懸念する。

むしろ、新聞やネットのあふれる情報から真偽を含めて未知の情報を取り出して考察し、市民として判断し行動するコンピテンシー(資質・能力)育成の切実性が、いっそう高まったと捉えるべきではないか。

「科学者や歴史家のように考える」というのが教育革新に対するOECDのメッセージであることも付け加えておきたい。


関連