パソコン1人1台 教師に必要な心構え(鈴木寛)

東大・慶大教授 鈴木 寛

教え子と2050年の世界

全国の児童生徒に1人1台のパソコンが整備される。「公正に個別最適化された学び」を実現しようと思った時、インターネットに接続したパソコンというインフラは不可欠だ。このときに、教師が分かっていなければならないことが2つある。

まず、教え子のことをしっかりと分かっていないといけない。児童生徒には、一人一人に個別に最適な学びがある。どうやって本当に個別に見ていくか。大学入試センター試験の傾向と対策をやるような教え方では通用しない。

次に、世界の流れが分かっていないといけない。今の世界ではない。子供たちが人生の盛りを迎え、社会の一線で活躍している2050年以降の世界を意識しなければ、子供たちを教えられない。

この2つについて、自ら思考し、判断し、表現することに最善を尽くせるかどうか。教育に関わる大人たちには、これが問われていると思う。

それらの問いには、一つの普遍的な答えがあるわけではない。答えは複数あり、個別的で暫定的だ。昨日は正解だと思った答えが、今日は不正解になってしまう。

教師には、こうした答えを見つけるために最善を尽くす心構え(attitude)が求められている。

100通りの学びを用意

公正に個別最適化された最善の学びは、個別にカスタマイズされる必要がある。児童生徒が100人いれば、100通りの学びがあるわけだ。

100通りの学びが必要だと聞くと、即座に「ありえない」と思ってしまう教師が多い。ここが問題だ。学びが100通り必要でも、コンポーネントは10個でいい。

ピザのトッピングを想像してみよう。「生地はどうしますか」と聞いて、3種類か4種類から選ぶ。次にチーズを載せるか、チーズなしか選ぶ。最後に「トッピングはどうしますか」と聞く。これは一人一人に好みがあるだろう。こうやって、100通りのピザができあがる。

個別最適化された学びは、ピザと同じように、コンポーネントを組み合わせて構成される。3の4乗で81通り、4の4乗で256通りの学びができる。その学びの実現に必要なインフラが、インターネットに接続したパソコンだ。

学びの組み合わせを最終的に選ぶのは、児童生徒本人だ。本人が自分でカスタマイズできるように、先生がサポートし、その先生をAIがサポートする。児童生徒が自分の学びを自分でデザインできるようになることが、一つの教育目標だ。

教師の学び直しも必要

個別最適化された学びでは、児童生徒本人が味付けを一番分かっている。最初は「こんなことをやりたい」から始まり、材料を選び、最後は自分で味付けをする。そうした自立した学習者になるよう、教え子をサポートするのが、教師の役割だ。

何を子供たちにやらせ、何を教師が支えるか。何をパソコンに任せ、何を人間に残すか。それが分かっている教師は、教え子の1年間の学びを見通して、ちゃんと授業をデザインできる。

同時に、教師の学び直しも必要だ。改めて、「学ぶ」「分かる」「できる」なども、もう一回突き詰め、それを分析して構造化してみる。「分かる前」と「分かった後」、「分かりそうな時」、「分かった気がするけれどもできない段階」など、メタ認知スキルへのきめ細かい理解と習熟のステップを意識し、授業のデザインに生かしていく能力が求められる。マークシート式の問題を効率よく解くような教え方では、個別最適化された学びには歯が立たないことを知るべきだ。

文科省は小5、小6、中1を先行させ、来年度から全国の児童生徒に1人1台のパソコンを整備していく方針だ。新学習指導要領の完全実施に合わせて、個別最適化された学びに必要なインフラがタイミングよく整備されると考えればいい。

意味をよく理解して使いこなす自治体・学校・教員と、ただ国が予算を付けたから整備する自治体・学校・教員とでは差が付いてしまうだろう。それでも1人1台のパソコンを児童生徒に届けることはあくまで、条件整備にすぎない。そのインフラを使って何をするか、何を変えるかに意味がある。

いよいよ、これまでの一斉一律の形式的で平等な学びを脱し、教師と校長がそれぞれの現場で、それぞれの児童・生徒の個別の状況に応じた最善の学びを実現し、子供たちの目の輝きを取り戻していくことこそが重要だ。(談)


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