(注目の教育時事を読む)第67回 香川県のゲーム依存対策条例案

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藤川大祐千葉大学教育学部教授の視点

安易な制限でなく、実態の把握を

◇依存の事態は悪化し続けている◆

本紙1月15日電子版で報じられているように、香川県が、インターネットやゲームの長時間利用で子供が依存症になるのを防ぐために、スマートフォンやゲーム機の利用の条例を検討している。その後、インターネット一般は制限の対象から外され、コンピューターゲームのみを対象に検討がなされている。

世界保健機関(WHO)が「ゲーム障害」を疾病認定しているように、ゲームに依存し、社会生活に深刻な支障が出る状況に陥る人がいる。病院の専門外来に予約が多いなど、ネットやゲームへの依存に悩む人が多いのは間違いない。自治体がネットやゲームへの依存に関心を持つことは重要なことである。

また、仮に依存的になっていないとしても、青少年が惰性でネットやゲームに多くの時間を費やすのは問題である。長時間のネットやゲーム利用が、学習、睡眠などの時間を奪い、生活習慣の乱れにつながる点については対策が必要だ。スマートフォンの普及以降、青少年のネット利用時間の平均はかなり長くなっており、事態は悪化し続けている。

しかし、これらを全て踏まえたとしても、香川県で検討されている条例案はひどい。実態を踏まえず、不当に個人に制限を加えているようにしか見えない。

一般論として、ゲームの長時間利用について注意を促し、自分の生活を見直すよう指導するということは、必要であろう。しかし、そうしたことが必要であるなら、教育委員会と学校とで申し合わせをするなどして、学校での生活習慣に関する指導を徹底すればよい。県議は、議会で教育委員会に対して質問し、こうした指導を促せば十分だろう。県民の生活に条例で制限を加える必要はない。

◆一律な制限は保護者への不当な介入である◇

条例案では例外なく、保護者に対して、子供のゲーム利用時間を平日1日60分、休日90分に制限することを課している。

だが、保護者の中には、「ゲーム利用時間が長くても他に支障がなければ楽しんでよい」「わが子はゲームで救われているから時間の制限をしたくない」「ゲームを思う存分プレーさせればその経験を生かした仕事につながるかもしれない」と考える人がいるかもしれない。条例案は、こうした保護者についても一律に制限を加えるものであり、保護者に対して不当に介入するものである。

実効性についても問題がある。ゲームを長時間利用する子供に対して、いくらガミガミ言っても、保護者の言うことをきかせられないという状況がある。こうした場合、条例で保護者に義務を課しても、何も解決しない。

さらに言えば、報道を見る限り、条例案は子どもの権利条約に反するものと考えられる。すなわち、子供の生活に対して制約を加えようとしているのに子供自身の意見表明の機会を保障していない上に、子供の「休息及び余暇」に関する権利を侵害しているとも考えられる。

本来は、子供の生活に制約を加えようと考えるのであれば、当事者である子供たちの意見を十分に聞くべきであるし、子供が余暇を好きなように過ごす権利を侵害しないように注意を払うべきである。

国が批准している条約に反するような条例を、地方議会が定めるのは許されない。

結局、県議会はゲームへの依存について、実態を丁寧に把握して対策を検討する努力を怠り、安直に条例による規制をしようとしているのである。

今すぐ条例案を撤回し、地道に実態把握を進め、子供たちをはじめ、関係者や有識者の意見を聞きながら、県としてどのような対応が必要かを丁寧に検討すべきである。

自分たちは汗を流さずに、県民の生活を規制しようとすることなど、許されない。

◇ゲーム、SNSで救われる子供にも理解を◆

県議の方々には、ネットやゲームで救われている子供が少なからずいる可能性を理解していただきたい。学校や家庭でつらい経験をして、やり場のない思いを抱いている子供は多い。そうした子供の中には、趣味を同じくする人とSNSで交流したり、オンラインゲームで遊んだりすることが、救いになっている場合がある。

特にゲームについて言えば、現実生活ではどんなに努力をしても理不尽に攻撃されたり傷つけられたりすることがある一方で、ゲームの世界では一定の確率で確実に報われる。

いじめの被害に遭っていたり発達障害などで周囲との関係に苦しんでいたりする子供がゲームで報われることの意義が、軽視されてはならない。こうしたことを踏まえた上で、依存的な利用についての対策が検討されるべきである。

携帯電話やスマートフォンが普及したこの十数年で、少年犯罪の件数は数分の一に激減している。このことは、ネットやゲームで救われている子供が相当数いることの傍証だ。

ネットやゲームがあることで、犯罪に走らずに済んだ子供が相当数いることが示唆されている。県議会には、安易な規制を決める前に、実態の把握を進めてほしい。