テクノロジーの明るい面を考えよう 1人1台時代の「陽」と「陰」(佐藤昌宏)

デジタルハリウッド大学大学院教授 佐藤 昌宏

学校教育の現場で、生徒や児童がパソコンやタブレット端末を「1人1台」ずつ持つ計画が進みはじめました。EdTechの必要性を訴えてきた私たちにとっては「我が意を得たり」なのですが、懸念する声も上がっているようです。

代表的な一つが「危険ではないか」という意見です。SNSなどを通じて子供が犯罪に巻き込まれたりする事例なども確かにありますが、ソフトウェア、コンテンツがない限り、どんな高性能のタブレット端末もただの板です。危険回避のためにセキュリティーを厳しくし過ぎても意味がなくなる。現場では「○○をしてはいけない」という教育ではなく、「こういう使い方をしたら役に立つよ」と教えなくてはいけない。ITリテラシーというのは、テクノロジーを使って自分たちをどうやって幸せにできるかを考えられる能力のことです。

物事には全て「陽」と「陰」の側面があります。たとえば子供たちが、オンラインゲームの世界に入っていって、他人とコミュニケーションを取る。性別も国籍も分からない相手と、外国語を検索したり翻訳したり、いつの間にか仲良くなっている。それを危険と見るか、可能性と見るか。

公の場で議論をすると、陰の部分の話が多くなりがちですが、ぜひ陽の部分を見てもらいたい。例えば、引きこもってしまった子供が、ネットの世界で救われているかもしれない。危険だからスマホを持たせない、というのではなくて、正しく使う方法を学ばせればいい。匿名だと思って、法に触れることやいじめなど、全部誰がやったか分かるんだよと、公共の場と同じなんだよと、そういうことをきちんと教えていく。これは急務です。

ICT教育が進むことで、これまで教育者中心だった教育は、学習者中心の教育に変わっていきます。知識だけを教える先生は不要になる。いまでは、ネットで調べたら大抵のことは分かる。学習者が受けたい教育を選べるようになります。

いま、高校1年生が1人、デジタルハリウッド大学院の私のゼミに来ているんです。彼は中3の時に突然「EdTechについて論文書いたから読んでほしい」って送ってきた。なかなかいいことが書いてあるんで、会って話したんですよ。ゼミに出たいっていって、毎週来てます。

彼がどうして僕のことを知ったかっていうと、ネットでEdTechについて調べていたら名前が出てきたから。そしてフェイスブックでメッセージを送ってきた。それだけです。そうやって誰でも会えてしまう。意欲さえあれば、いろいろなことが可能になる。これはテクノロジーが実現したことです。

AIについての議論でもよく話題になりますが、テクノロジーがやれることと、人間がやれることは違っています。人間がやるべきことはなくなりません。公教育のシーンで、自主的に学ぼうとする感性を持っていない子供がいたら、それを促すのはやはり先生の役目です。背中を押したり、声を掛けたり、叱ったり、そこは人間がやらなくてはいけない。先生方の力が必要なことに変わりはない。

でも、相手によっては、オンラインで声を掛ける方が有効だったりすることもある。面と向かって話さないとダメとか、ネットは危ないとか、そういう硬直した考えから自由になってほしい。オンラインを通じて不登校の子に声を掛けたりとか、いろいろなことが可能になる。いままでできなかったことが可能になる。現場の先生方にはぜひ、学習者を中心に、物事の明るい面を考えるようにしてもらいたいです。


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