深刻な教員採用倍率の低下 合法的青田買いのススメ(鈴木寛)

東大・慶大教授 鈴木 寛

教員採用倍率の低下は、大変深刻な問題だ。特に都会では、民間企業との人材の取り合いになっている。そもそも有望な若者に教員が忌避される傾向もある。大学1年生として入学したときには「教員になろう」と教員免許の取得を志していた学生が、3年生と4年生になるうちに教員志望をやめたり、教育実習や採用試験を受けなかったりする。

この傾向は、当分変わりそうにない。大学生には「学校はブラック職場だ」というイメージが根付いてしまっている。

教員志望者の掘り起こしをやらなければいけない。どうやって教員を再びあこがれの職業にするのかが問われている。

サポートされる教師像を作る

対応策のひとつは、コミュニティー・スクールを通じて、学校ボランティアを増やすことだ。コミュニティー・スクールでもっとも大事なのは、保護者や地域の人が参加して、いわゆるモンスターペアレントと学校との緩衝材の役割を果たしてもらうことにある。心ある保護者や地域の人が学校の窮状を理解し、精神的に応援してくれるというモラルサポートは、学校関係者にとって大きな支えになる。

コミュニティー・スクールをただ増やすだけではなく、それを実質化するために「熟議」も重要だ。熟議は、まず自分たちの学校や児童生徒が持つ課題の発見や再設定から始め、その課題解決をどこから着手するかを議論し実行する。それをしっかりやっていくことで、学校の教員がリスペクトされ、モラルサポートを受けられる存在になってくれば、問題の一部は改善するだろう。

教員志望の学生には、小中高の時にあこがれの教員に出会い、それがロールモデルとなって自分も教員になろうという人がいる。心が折れて疲弊した教員に、子供たちが憧れるわけない。そういう意味でも、周囲からリスペクトされ、サポートされている教員像を作ることは、非常に重要だ。

さらに、スクール・ロイヤー(学校弁護士)も積極導入すべきだ。市町村教委が弁護士と契約して、気軽に学校と弁護士が日常的にコンタクトをとれるだけで、教員の精神的負担は一挙に軽減される。日頃から弁護士にポイントをレクチャーしてもらい、トラブルの予防に努めるとともに、何かあったらこじれる前に初期消火してもらえる。

教育実習の日程前倒しを

就職活動の問題もある。教育実習や採用試験のタイミングが遅すぎるのだ。

教育実習は大学4年生の5、6月に行われる。この段階で民間の優良企業は内々定を、外資系は内定を出している。内々定や内定が出ている学生は、教育実習自体やらなくなってしまう。あるいは、就職活動の日程上の都合でやれなくなってしまう。内定を持ちながら、引き続き教育実習をやるのは、教員の子女ぐらい。なんとか教育実習をやってくれた学生も、採用試験のタイミングではもう完全に内定が出ている。

だから、教育実習と採用試験をもっと前倒しして、民間企業の採用スケジュールと少なくとも同時に、あるいは早めにやらなければ、優秀な学生を確保できない。

採用試験はやめていい

合法的な青田買いくらい検討するべきだ。それほど事態は深刻だ。民間企業では、採用に人手もお金もかけている。教育委員会には、教員志望者が多く倍率が高かったときのふるい落とす専門家はいるけれど、若者をスカウトしてくる人材も予算もほとんどない。発想を180度変えるべきだ。教育委員会のライバルは、民間企業なのだから。

青田買いでいえば、例えば、都道府県の教育委員会が大学2年生や3年生を対象にやっている教師塾を終了すれば、実質的に内々定を得られるようにするのはどうか。すでに事実上、そうなっている県もある。教員志望の学生は、民間企業の採用試験を受ける前に内々定を持つことになる。

教職大学院も活用できる。教職大学院からの教員就職率は極めて高いので、教職大学院での学びを事実上の内々定につながるようにできるだろう。教職大学院の学生は、学部学生からと教員から入学してくるが、これに、一般社会人からの入学枠も作るべきだ。

それに、都道府県がやっている今の一発試験の採用試験をやめたらいいのではないかと、私は考えている。教職大学院からの推薦や、教育実習先からの推薦状など、いろいろと知恵は絞れる。基礎学力や指導力が心配であれば、例えば、医学部を参考にして、途中で試験をしたらどうだろうか。

医学部では、CBT(Computer Based Testing)とOSCE(Objective Structured Clinical Examination 客観的臨床能力試験、オスキー)で、医師になる能力を測る。CBTで基礎的な知識があるかをみて、OSCEでは対面の模擬患者を相手にした臨床試験を行う。それをクリアし、卒業後、医師国家試験に合格すれば、医師になれる。医師国家試験受験前に、だいたい、卒業後の研修先は決まっている。

教職でも、大学ないし教職大学院が提供したプログラムをしっかりこなし、途中段階で何らかの能力評価を課し、それを採用の参考にすればいい。

中途採用の明確化も必要

抜本的な中途採用の拡大も大切だ。民間企業に就職し、ノルマに追われて3年くらいたち、極めて疲弊している若者がいる。

そうした20代後半を対象にした中途採用は効果的だ。さらに、30代後半から40代向けを対象にした管理職向けの中途採用も必要になる。

教員には、教科指導、生徒指導、学校経営、特別支援教育それぞれに専門性がある。それなのに、現在の採用試験では、教科指導力が重視されがちで、専門性をみるバランスが悪い。

そうした中途採用戦略を明確に打ち出さなければならない。これは都道府県の教育委員会がその気になればできる。小論文の課題を「社会人経験を踏まえ、教員の役割を論じなさい」といった内容にすればいいだけだ。

言い換えれば、いまの教員採用試験の担当者はあまりにも生真面目で、基礎学力は大事だが、授業の実践能力に重きを置きすぎている。生徒に寄り添うとか、生徒の心に火をつけるとか、そういう特性をもっとみるべきだ。

結局のところ、教育界が思考停止になっているのではないか。本気で教員の担い手を確保するために、これからの時代に求められる教員の役割と、それに基づく教員としてのコンピテンシー(行動特性)を再定義する必要がある。その上で各教育委員会の採用担当者、人事担当者、研修担当者は、民間や医学界の動向をもっと参考にして、新卒も中途も、一から教員採用の在り方を考え直すことが重要だ。今、手を打たないと、本当に取り返しのつかないことになる。(談)


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