いじめを生む構造を変える 取手市再発防止策(藤川大祐)

千葉大学教育学部教授 藤川 大祐

問題点を一つ一つ検討して再発防止策

本紙2月12日電子版に、「いじめ再発防止で全員担任制導入 茨城県取手市が説明会」という見出しの記事が掲載された。2015年に市立中学校3年(当時)の生徒が自死した事案を受けた再発防止策の一環として、茨城県取手市が中学校に「全員担任制」を導入することを決めており、2月8日にPTA役員を対象に説明会が開かれたと報じている。

この取手市の再発防止策は、私も関わっている。この自死事案に関しては、取手市教委が法に反していじめ重大事態とはせずに対応しようとしたことが問題となり、茨城県に調査が委託された。県が設置した調査委員会は昨年3月、調査報告書を取りまとめ、公表した。

取手市教委では常設の付属機関として「取手市いじめ問題専門委員会」を設置し、県調査委員会の調査報告書を受けた再発防止策の検討を専門委員会に委嘱していた。私は、この専門委員会の委員長を務めており、委員の方々と共に再発防止策を作成し、今年1月に公表した。

この再発防止策の作成に当たって、私たち専門委員会は、一般論でいじめ防止策を講じるのでなく、あくまでも15年の自死事案に沿って検討することとした。

すなわち、調査報告書で指摘されている問題点の一つ一つについて、なぜそうした問題が生じてしまったのか、どのような対応がなされるべきであったのか、どうすれば今後理想的な対応ができるようになるのかを検討し、そうした結果を再発防止策としたのである。

言い換えれば、被害者の思いに徹底的に寄り添おうとし、被害者にとってどのような状況が理想だったのかを局面ごとに考えて、再発防止策を作った。そして、再発防止策本体とは別に、検討の経緯を資料として公表し、個々の提言の背景や意図を理解してもらえるようにした。

全員担任制か複数担任制を導入

1月に公表した再発防止策には、全員担任制もしくは複数担任制の導入や、教育相談部会システムの構築などが入っている。15年の自死事案において、学級担任の指導に問題がありながら学校組織の中で方向修正ができなかったこと、生徒の問題行動への指導ばかりが優先され課題を抱えている生徒を心配して対応するような仕組みが機能していなかったことを踏まえてである。

取手市教委では、全員担任制や教育相談部会システムの導入を決め、モデルとなる学校を視察したり、モデルとなる学校から講師を招いて研修したりしてきた。4月からの本格実施に期待したい。

子供たちの間で生じるいじめをゼロにするのは非現実的であるが、いじめが起こりにくくしたり、いったん生じたいじめの被害を小さく抑えたりすることは可能である。

13年に制定されたいじめ防止対策推進法はこうした目的で作られたはずであり、多くの学校でこの法に基づいた対応が進んでいる。こうした対応によって、深刻ないじめが生じやすい学校の構造を、生じにくい構造に変えていくことはできるはずだ。

だが、残念ながら、学校ばかりか教委までもが、いじめ防止対策推進法や関連の法令に違反する例が目立つ。例えば、本紙昨年10月16日付で報じられているように、埼玉県の川口市教委はいじめ被害を巡る裁判において、いじめ防止対策推進法に欠陥があると主張して文科省から指導を受けている。

私に関係するところでも、本紙昨年10月23日付で報じられているように、千葉県の流山市教委がいじめ重大事態に当たる案件を重大事態認定せず放置するなどの法令違反があることを、付属機関の会長を務めていた立場から私が告発した例がある。

多様な関係者が連携するプラットフォームを立ち上げ

こうした中、ストップイットジャパンの谷山大三郎さんと一般社団法人HALOMYの竹之下倫志さんが発起人となり、「いじめ構造変革プラットフォーム」(略称PIT)が発足、2月15日、東京で第1回定例会が開催された。

この定例会では、取手市の再発防止策がテーマとなり、取手市いじめ問題専門委員会委員として再発防止策の取りまとめに貢献してくださった弁護士の鬼澤秀昌さんが登壇して、約30人の参加者とワークショップ型の議論をした。主催者・登壇者以外の情報は外に出さないなどのルールが定められ、一般参加者のプライバシーが尊重されている。

このプラットフォームは、いじめを生み、解決を困難にしてしまう組織の在り方の構造を変えることを目指し、多様な関係者が緩やかに連携して交流できる場を目指すものである。鬼澤さんや私を含め、趣旨に賛同する有識者がアドバイザーとして協力している。

今後も、3カ月に1回程度の定例会が開催され、各回でアドバイザーやゲストが話題提供し、参加者と意見交換する予定である。いじめの問題に真摯(しんし)に向き合う人が立場を超えてつながることで「いじめ構造」が変えられるか。新たな挑戦が始まったところである。

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