一斉休校で分かったICT整備の課題と教員の役割(鈴木寛)

東大・慶大教授 鈴木 寛

再認識されたGIGAスクールの重要性

全国の小中高と特別支援学校の一斉休校が続いている。

私立の小中高でバーチャルスクールやパソコンをすでに導入していた学校は全く問題なく事態に対応しているようだ。朝8時にバーチャルスクールが始まり、先生と生徒のコミュニケーションや授業がスムーズに行われている。ちゃんとICTに対応をしてきた私立学校と、そうではない公立学校で、はっきりと差が付いてしまった印象だ。

言い換えれば、一斉休校によって、GIGAスクール構想の重要性が再認識された、ということになる。パソコンを学校で使っていくのは当たり前になったが、それを自宅に持って帰れるようにしないと、今回のような事態に対応できないことも分かった。

そういう意味では、GIGAスクール構想は、設計思想を少し変えていく必要が出てきた。いままでは学校のICT環境を整備し、その次に家庭学習との接続を考えるステップ・バイ・ステップのアプローチで進めてきたが、一段飛ばして、最初から学校と家庭学習との接続を織り込んで整備する必要がある。

先生には2つの大切な役割がある

今回の一斉休校で、学校現場はいや応なくICT環境の必要性と向き合うことになった。その結果、ICTで置き換えができることと、できないことが、よく分かった。

進んでいる私立学校では、インターネット経由の教材提供は当たり前に行われている。学習態度や学習意欲が確立し、学ぶ習慣が身に付いている児童生徒にとって、その教材を自分で使うことに問題はない。

しかし、学習態度や学習意欲が不十分な児童生徒は、インターネット経由の教材だけではなかなか難しい。児童生徒が分からないときには、すぐに自然体で聞ける人が必要だ。教員や友達、保護者が周りにいて、いろいろな声かけや、お互いに刺激し合ったり、助け合ったりしていかなければならない。個別最適化学習では、横のコミュニケーションが盛んになることが体感的に明らかになってきたのではないだろうか。

今回起きた事態を考えると、パソコンやインターネットを学校現場で活用するとき、先生には2つの大切な役割があることがはっきりしてきたと思う。

1つは、モチベーションの喚起だ。学ぶ意欲を持たせたり、教材に取り組むよう動機付けしたりするときに、先生の声かけが重要になる。

もう1つは、つまずきへの対応だ。デジタル教材で一方向のレクチャーが提供されると、子供は疑問を持った瞬間に、その流れからこぼれ落ちてしまう。そのときに、どうやって拾って、元に戻してあげられるか。先生の役割は大切だと思う。

家庭学習を含めた対応が必要

一斉休校が続く現状を乗り切るのは大変だ。だが、この機会に、いま何が起きているのか、より注意深く観察しておいたほうがいい。いままでやりもしないで論争になっていたICTの活用方法について、推進派にも慎重派にも、ニュートラルなかたちで答えが出たのではないか。この経験を生かして、学校のICT環境整備に、こまめな修正をかけていくのが大事になってくる。

もはや当たり前になってしまったが、これまでICTを整備していなかった公立学校では、やっぱり導入しておけばよかった、という話になる。

一方で、家庭によってインターネットやパソコン、タブレットを使える環境がない子供が多い現実がある。家庭学習まで含めて、行政がどれだけちゃんとICT環境を整備していくか、もっと考えていかなければならない。家庭のICT環境まで視野に入れないと、公立学校が担う義務教育の内容に格差が出てきてしまうだろう。

詰まるところ、学校のICT環境整備について、市町村の首長の理解度、あるいは予算を付けるという意味での市議会の応援が非常に重要なことが改めて明確になった。

PCスペックの違いが学力格差にも

パソコンのスペックも大事だ。パソコンで学習する子供たちは、指定された教材をみるだけではなく、同時に教師や友達など複数の相手とチャットしたり、動画の視聴やネット検索を組み合わせたりしながら、学習を進めていくことが分かってきた。そうやって、学習のつまずきを乗り越えていくのが、個別最適化学習の姿だ。

そういう使い方をするときに、いまのGIGAスクール構想が想定しているパソコンのスペックで十分なのか、もう一度検証したほうがいいのではないか。パソコンの導入に当たって、安かろう悪かろうにならないように注意しないと、スペックの違いによる学力格差につながってしまう恐れが大きい。

新型コロナウイルス感染症の影響で、GIGAスクールの整備は少し遅れてしまうかもしれない。だが、今回の一斉休校は、学校のICT環境整備を進める上で、絶好のシミュレーションになったと考えることもできる。学校現場で子供たちがICTをどのように使い、どのような局面でどういう必要性が出てくるのか、克明に分かった。現在起きている事態を慌てずに把握し、GIGAスクール構想で改めるべきところがあれば、改めていけばいい。


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