「見える化」と「ねぎらい」で始める働き方改革(中原淳)

立教大学教授 中原 淳

昨年に引き続き、今年も教員の働き方改革は関心度の高いテーマである。私の専門の1つは組織開発であり、2017年度より3年間にわたり、横浜市教育委員・研究室の大学院生、教員とともに、サーベイフィードバックによる働き方改革に取り組んだ経験もある。この取り組みでは、教職員の平均の時間外労働時間が約5時間減少するなどの成果が得られた。

今回は、それらの実践から見えた教員の働き方改革を成功に導くための2つのポイント、「見える化」と「ねぎらい」について紹介したい。

何のための働き方改革か

まず、目的の定義から確認したい。私は、教員の働き方改革の目的を、①教員という職業の魅力を高め、②教員が行っている良い取り組みを持続可能なものにする――ためだと考える。労働時間の削減はその手段の1つであるが、①②の視点を欠いてしまうと、手段が目的化し、ともすれば教員の働きがいを損なうことにつながるリスクをはらむ。

教員の仕事は、元をたどれば全ての業務が「子供のため」という思いから生まれているので、「減らせ」「見直せ」という表現は、教員にとってネガティブに受け取られる可能性がある。実はこのような言葉選びやメッセージは、どんな組織開発においても重要であり、そのために目的を見失わないことは大前提と言える。

サーベイで「見える化」すべき理由

現場の課題は、全体像を「見える化」することがとても重要である。学校に限らず、どんな組織も一枚岩ではないので、口に出して言いにくいこともあるからである。

例えば、職員会議などの会議体やその進め方に対して無駄を感じている教員が8割を超えていても、管理職はそれに気付いていないことも多い。これは、全体調査でしか明らかにできない。

また、働き方改革推進の中心メンバーとなるべき校長や管理職は、長時間労働の時代を生きてきた人である。故に、無意識のうちに、教員が時間を投下して取り組んでいる様子に対して「頑張っているね」と声を掛けることも少なくないだろう。

このように経験的に染み付いてしまっている無意識の価値観を意識化していくために、例えばタイムカードのようなシステムで教員の労働時間の実情を「見える化」することは有効である。

取り組むべき課題を棚卸しするために、全体像をデータで「見える化」することで、本音の対話が生まれやすい状態を作ることができる。

「ねぎらい」のメッセージが極めて重要

一方で、サーベイやデータが正解を示したり、現場を変えたりしてくれるわけではない。サーベイ・データは、よりよく変えるための「対話」につなげる材料にすぎない。

働き方改革の実践法は、どんな学校にも通用するひな形はなく、どこかの学校の成功事例をそのままコピペしてもうまくいかない。それぞれの学校で、取り組む内容を、対話・議論し、取り組むものを一つ一つ決めていく必要があるのだ。

故に、サーベイ・データで明らかになった課題の全体像を、より良い改革に向けての「対話」につなげるために、サーベイ・データのフィードバックは、管理職から教員への「ねぎらいの言葉」から始めることが極めて重要である。フィードバックの始め方が、働き方改革自体の命運を分けると言っても過言ではない。

繰り返しになるが、教員の仕事は「子供のため」という善意から生まれた歴史的背景があるため、個々の教員に対する敬意とねぎらいの気持ちがとても重要になるのだ。

なお、「見える化」と「ねぎらい」から始める学校の働き方改革の進め方詳細は、私の著書『「データと対話」で職場を変える技術 サーベイ・フィードバック入門』(PHP研究所より2020年2月26日発売)をぜひご参照いただきたい。


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