オンライン学習の幻想と可能性 アフターコロナに向けて(佐藤昌宏)

デジタルハリウッド大学大学院教授 佐藤 昌宏

長期間の臨時休校という前例のない事態に対して、オンライン学習用の教材などを民間の教育団体などが無償提供する「マナビを止めるな!」というプロジェクトを発足しました。緊急回避的な試みでしたが、問い合わせやアクセスが激増したことから、一定の効果はあったと思います。

テクノロジーの活用に対して抵抗感を持っていた人たちが使ってみる良い機会にもなりました。ただ、ネガティブな反応もあるようです。やはりこんなものでは授業にならないとか、使いにくい、学習効果が期待できないなど、懐疑的な声も出ているように聞いています。特に大学などの高等教育から。

新型コロナウイルス対策として、中国では2.7億人の子供に向けた学習をオンラインに切り替えました。ロックダウンした米国でも、ハーバード大学やMITなどがオンライン講義に移行し、ハワイ大学も全科目オンラインへ移行しました。

日本の大学でも、やむを得ず新学期から講義をオンライン化するような動きは出てきていますが、学生よりも教える側、特に年配の先生方に心理的な抵抗があるようです。未曽有の事態を乗り越えた「アフターコロナ」の局面で、やっぱりEdTechは使えないじゃないかという、「冬の時代」に突入するのでは、という悲観論さえ聞こえてきました。その理由は、映像が乱れたり、雑音が入ったりするというシステム上の問題だけでなく、先生や学生も不慣れで、うまく授業や学びができないのではということでした。

実はEdTech先進国の中国でも、オンライン学習のハードルは高いという認識があります。強制性が低いので、自立のスイッチが入った学習者にとっては素晴らしいツールなのですが、そうでない人は手を抜く機会にもなる。モチベーションが続かなかったり、当事者意識が薄れてしまったりする。そこをどうするかというのが、学習効果に向けての課題になることも間違いないのです。

そこで、横浜市のあるインターナショナルスクールの事例を、みなさんと共有しておきたい。この学校では、オンライン学習に取り組むにあたって、先生の役割が定義されているだけでなく、親にも役割があることをしっかりと説明しています。

家庭で必要なサポートや「オンラインエチケット」というのも説明されている。「テーブルに座ってやる(寝室はダメ)」「外出する服を着る(パジャマ禁止)」「静かな場所でやるかヘッドホンを使う」など。

そうです。これまで体験したことのない学び方なので、まず当たり前のルールを作っている。なにが必要なのかを、先生と親と子供が理解して進めているのです。

エチケットなど、何を当たり前のことを、と感じるかもしれませんが、実は効果という観点からすごく大事なことなのです。テクノロジーは魔法の薬ではありません。導入すれば、すぐさま、これまでの教室と同じ効果がでると思っていたらそれは幻想です。

最近は大人もテレワークになり、オンライン会議をする機会も増えていますが、大勢の人が入っている会議で平気でマイクを入れっぱなしにする人がいる。それでは雑音も入り、発言者の声が聞こえない。
普段の会議では「ミュート」という概念がないのだから仕方ない。こういったルールやマナーをこれから作っていく。それは、「効果」に向けた、私たちがしなければならない試行錯誤のひとつなのです。

新学習指導要領には、「主体的・対話的で深い学び」が入りました。われわれは答えのない時代を生きるにあたり、自ら問いを立て、その答えを試行錯誤しながら探す、そういう学びが求められている。今回の新型コロナウイルスは、まさに答えのない問題の実体験。試行錯誤を大人がやってみせる良い機会でしょう。

通信環境や教育の質の問題をクリアして、オンライン学習の環境をしっかり整えることができれば、アフターコロナには、これまでの教室以上のことができるようになります。そのためには、いま、私たち、大人が学び、試行錯誤し、その背中を見せないといけないのです。


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