感染症との闘い 教育で後世に何を伝えるか(工藤文三)

教育新聞論説委員 工藤 文三

全世代が直面する事態に

今年に入って中国の武漢市から始まった新型コロナウイルス感染症は、その後世界各国に広がりパンデミック(世界的大流行)の状況となり深刻な事態に発展した。

日本においても4月7日に7都府県を対象に緊急事態宣言が発出され、4月16日には全国に拡大された。日々の報道を通じて、日本各地、世界各国の感染状況や対策の様子が間断なく流されている。学校は休校になるとともに在宅勤務が増え、外出の自粛が行われている。

私たちの世代は、東日本大震災とそれに伴う原発事故という取り返しのつかない経験をした。今回の新型コロナとの闘いは、生物界に存在するウイルスとの闘いという試練を人類に課している。全世代が直面している今回の事態をどのように捉え、これからの教育活動に生かしていけばよいのであろうか。

さまざまな知見に学ぶ

日々の報道や番組には、感染症や疫学、公衆衛生の専門家が登場し、私たちは多くの言葉に接することになった。PCR検査、感染経路、クラスター、オーバーシュート、疫学、疫学調査、免疫、抗体、基本再生産数、エピデミック、パンデミック、WTO、医療崩壊、トリアージ、密閉・密集・密接の3密を避ける、人と人の接触の80%削減、社会的距離、テレワーク……など。

感染症は感染症法によっていくつかに区別され、それぞれ届け出の義務があること。さらに、感染症の種類によって医療機関が地域ごとに指定されていること。保健所の働きや帰国者・接触者外来など、感染症および公衆衛生に関わる関係機関や体制についても、情報を得ることができた。

一方、患者を受け入れて治療を担っている医療関係者の昼夜を問わない献身的な業務、感染症の専門家の日々の活動についても、その姿を知ることができた。

スペシャル番組の中には、感染症の歴史をさかのぼり先人がどのように感染症と闘い、ワクチンや治療薬の開発に貢献してきたかを伝えるものもみられる。ニュートンの万有引力の法則は、ロンドンでペストが流行しケンブリッジ大学が閉鎖したため、故郷に帰っている時に着想されたとのエピソードも知られる。1918年からのスペイン風邪が日本も含め世界中で猛威を振るったこと、SARSやMERSとの闘いも改めて知る機会を得た。

教育を通じて何を学び後世に伝えるか

今回の新型コロナウイルスとの闘いの経験は、子供たちの年齢によっても受け止め方が異なるが、一人一人が未来に伝えていくことになる。学校教育の役割は、このような経験を単なる経験にとどめず、学習を通じて再構成し、その成果を後世に伝えていくことにある。

また、多くの人々や組織・機関が健康と命を守るために懸命に働いていること、先人の努力や専門家の働きを学び、子供たちの将来のキャリア選択のきっかけになることも期待される。

学校が再開され、落ち着いた状態を迎えた時期に、人類と感染症との闘いを各学校段階の特質に応じて教材として取り上げ、学習の機会を設けたいものである。

中学校では、保健体育の保健分野で感染症の要因やその予防について取り扱う。高校の保健では現代の感染症と予防について、社会的な観点も含めて学習する。高校の生物基礎では免疫について取り扱う。また、グローバル化と感染症との関連、感染症対策の在り方などは、公民の公共で取り扱うことができる。医療資源の配分は倫理の課題でもある。歴史学習では、感染症の克服に尽くした先人の足跡を取り上げることができる。

社会に定着している予防接種は、それぞれの感染症を克服してきた先人の歩みの結晶であることにも気付かせたい。

今回の深刻な事態と経験を、健康、医療、生活、社会、歴史などの多面的なアプローチを通じて学び、知識と経験を融合させ、未来に伝えていくことが大切と考える。

いずれにしても、今回の事態を人類が直面した切実で緊要な課題として、多面的かつ総合的に学ぶことを期待したい。


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