9月入学 教育課程の編成から考える(松田孝)

合同会社MAZDA Incredible Lab CEO・東京都小金井市立前原小学校前校長 松田 孝

卒業ソングが変わる?

コロナ禍にあって、9月入学がバズワードになっている。自動車を運転しながらFMラジオを聞いていたら、番組のパーソナリティーが「卒業といえば、春、桜のイメージだったけれど、残暑、ヒグラシのイメージに変わるのか。どんなJ-POPが生まれてくるのか楽しみ」と語っていたのを聞いて、一瞬面白いと感じたけれどすぐに「違う」と思った。

猛暑の卒業式?

現行学校制度では、多くの地域で3月の中下旬に卒業式、そして4月の初旬に入学式が行われる。春季休業は長くて2週間だ。しかし9月入学となれば、その直前には夏季の長期休業があり、現行制度をそのままに半年間スライドさせれば、卒業式は7月の中下旬の実施となる。その季節感は東京ならば、梅雨明け、盛夏、ヒマワリ、サルスベリ、アブラゼミなどが思い浮かぶ。

私が校長職最後の年(2018年)の1学期の終業式(7月25日)は、猛暑の影響から体育館で実施できなかった。普通教室にはクーラーは設置されていたが、体育館は未設置だ。式を簡略化して15分程度の実施に変更しても、子供たちの命を考えれば体育館での実施はあり得ない。私が校長職を務めた3校の卒業式は、おおむね1時間半から2時間を要した。

2018年の猛暑は、全国の学校に冷房設備の設置を促したが、多くは普通教室の設置にとどまり体育館は対象外だ。学校の設置者である自治体は冷房設備の設置が終わったと思ったら、今はGIGAスクール構想でICT環境整備に奔走している。そこに加えて体育館の冷房設備設置のためにまた新たな財源を作り出さなければならない。

教育課程の編成

このような内容をつづれば、9月入学という極めて重大な問題をちゃかしているように感じる方もいらっしゃるかもしれないが、それは違う。学校は国が定めた大綱(学習指導要領)を基に、それを具現化するために授業時数との関連において教育計画を作成する。それが教育課程編成という行為であって、単に機械的に教育活動や授業時間などを割り振るものではない。

目の前の子供たちの命を守ることを大前提に心身ともに健やかな成長を願って、それぞれの地域の気候風土や実情を踏まえて校長が責任者となって編成する。コロナ禍にあっても、多くの学校は創意工夫をもって卒業式を実施したが、子供たちの人生の大きな節目となる卒業式を猛暑のために各教室で実施することはできない、と思うのだが…。

9月入学と各種学校行事

9月入学となった時、現行の教育計画を半年スライドさせれば事足りる、と考える人は誰もいない。真っ先に抜本的な見直しを迫られるのが特別活動における各種学校行事であり、その内容と日程が大きな問題となる。まずは運動会。これは新年度が始まって約2カ月後の10月下旬の実施で衆目の一致するところだろうが、その狙いがこれまでとは大きく変わってくる。

筆者が校長を務めた学校では、1学期からの異学年交流(いわゆる縦割り班活動)の集大成として、10月に3色(学級)対抗の運動会を実施してきた。縦割り活動の積み重ねが、子供たち一人一人にそれぞれの色(チーム)への所属感を高め、応援団長をトップに高学年のリーダーシップと低学年のフォロワーシップが相まって、各種競技に緊張感と迫力をもたらす素晴らしい運動会となった。

しかし、新年度開始2カ月の実施ではそれは望むべくもない。学芸的行事についても運動会実施後の準備、練習などを考えれば 11月12月の実施は不可能だ。年明けの1月2月はインフルエンザのまん延が想定され、4月実施に落ち着くのだろうか。そしてゴールデンウイーク明けから進級、進学に向かっての教育活動がさまざまに展開されていく。当然、宿泊行事やそれぞれの学校独自の行事もその狙いと日程の再検討が迫られる。

「人間関係形成」「社会参画」「自己実現」という特別活動の目標は子供たちの成長に極めて重要であり、またその成果を実感できるがゆえに、教員も力を尽くして取り組み保護者の期待も大きい。しかし、このことが自らの働き方に最も大きな影響を及ぼしている一つであることは、現場人であれば誰もが納得する。

9月入学という大きな変革の議論が新年度開始の時期のスライドによるメリットデメリットだけでなく、その根底に教育活動の最前線に立つ教員の働き方改革を実質的に担保する議論となることを切望する。

9月入学の議論は、地方活性化の千載一遇のチャンス

筆者はコロナ禍による9月入学の議論と、次年度以降からの恒久的な9月入学の論議とは切り離して考えるべきものだと思っている。特に恒久的な9月入学の論議にあたっては、教育課程編成の責任者である校長や教頭の団体(全国校長会、教頭会)が積極的に議論に参画し、リードしていってほしいと願う。

今回は自由民権運動期に全国で100以上の私擬憲法が作られたように、具体的な教育課程編成のモデルプランをさまざまに提案して、全面実施に至る移行期間で見えてきた教育内容に関わる課題や教員の働き方改革などの課題解決につなげていきたい。具体的に教育課程を編成するからこそ、9月入学の議論によって、学校教育の本質があぶり出されてくる。

全国各地域がそれぞれに大胆で特色ある教育課程を編成すれば、それは地方活性化にもつながる。地方自治体は総合教育会議で早急に議論を始めよう。幕末から明治期にかけて日本が短期間で近代化をなしえたその基盤に藩校や寺子屋、私塾による「地域の教育力」があった。9月入学の議論は、特色ある教育課程の編成による「地域の教育力」の向上のためのトリガーとすることができる。


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