学校再開―分散登校を考える(松田孝)

合同会社MAZDA Incredible Lab CEO・東京都小金井市立前原小学校前校長 松田 孝

学校再開時の危機管理

全国39県の緊急事態宣言が解除された。いよいよWithコロナ下での教育活動が再開される。連休明け以降一部地域では学校が再開され、その様子がメディアで報じられた。

久しぶりの登校に子供たちはマスク越しに笑顔を見せ、うれしそうに教室で教科書を開いたり、休み時間には校庭で思い切り体を動かしたりする様子が映し出されていた。また飛沫(ひまつ)感染を防止するために、教卓と子供たちの机との間に天井からビニールシートを貼って対応する学校もあった。

学校再開にあたっての感染予防対策は、子供たちの学校生活を考えればそう簡単なことではない。「感染リスクを可能な限り低減する」中で、その予防対策を徹底しようとすればするほど、学校再開における危機管理の難しさが浮き彫りになる。

教育と感染症の専門家で構成される文科省の「学校における新型コロナウイルス感染症対策に関する懇談会」の提言(5月1日公表)に示された対策の具体的な取り組みを各種メディアが紹介することは、Withコロナ下の教育活動を展開するにあたって極めて貴重な情報となる。

分散登校の実施

文科省は上記提言を踏まえ、通知として「学校運営上の工夫」を取りまとめた。ICTを最大限に活用しながら感染予防対策を徹底した上で分散登校による段階的な学校教育活動の再開を求め、併せて各教科等の特質に応じてその指導の可否についても言及している。分散登校の実施は、同一地域であっても学校規模によって具体的対応は全く異なってくる。

「学校運営上の工夫」は、登校日の実施の工夫例として事例を3つ紹介している。

筆者は、感染拡大予防の大原則である身体的距離を確保することを考えれば、「①学級を2つのグループ、時間帯により分けた場合」の事例や、「②学年の中で学級ごとに登校曜日を分けた場合 (例えば1つの学級の児童生徒が2教室ずつ使用する場合)」の事例の採用が最善であると考えるが、多くの学校では「③学年ごとに登校曜日を分けた場合」の事例を基にそれぞれの学校・地域の実態を踏まえた工夫によって分散登校を実施するだろう。

仮に事例①を採用すれば、学級の二つのグループに同じ指導を繰り返すことになって教員の負担感は増大するし、何より授業の進度は半分だ。日によって登校時刻が変わることは、小学校低学年を担当する教員からはすぐに心配の声が上がる。事例②は単純に考えれば学年構成が偶数学級であることが前提となる。そして両事例とも、今注目を集めている双方向のオンライン授業の実施方法が簡単には思い浮かばない。

これに比して事例③は、登校日には一斉指導を行うことができ、子供たちへの課題の提示とそれへの取り組み状況も確実に把握できる。家庭学習日にはこれまでの臨時休校時期のノウハウを踏襲できる。双方向のオンライン授業も実施でき、ICTの活用がイメージしやすいとなれば、事例③を前提にした分散登校による学校再開が自然の成り行きとなるのだろう。

事例①で「新しい学びのスタイル」を描く

Withコロナ下で私たちは、新しい生活様式による行動変容を求められている。感染予防の大原則である身体的距離の絶対的確保を考えれば、大都市圏における通勤ラッシュは解消されなければならない。テレワークの拡大、ローテーション勤務、時差通勤といったこれまでとは違った具体的な働き方改革の実現は、企業の存亡に関わる重大な課題である。

今まさに再開された(る)学校の教育活動、授業も同様だ。

今年度から小学校において全面実施となった新学習指導要領の改訂の趣旨であるコンピテンシーベースの学びを創造する絶好のチャンスが、事例①にはある。新しい時代に必要となる資質・能力としての「学びに向かう力・人間性等」を「自己調整」の力として具現化できる。

教員の指導による一律・一斉の授業実施が難しいからこそ、子供たちが自主的に学習する「新しい学び」のスタイルを描き出す必要に迫られる。それは教員にとって、これまでの授業観、指導観の抜本的な見直しを迫ることになるが、Withコロナ下だからこそ、このピンチだからこそチャレンジできるチャンスなのだと思う。

基本、各教科等の内容のインプットは子供たちの自学に任せる。各教科等の指導計画を参照しながら教員が適切な課題を提示して、子供たちはそれを巡ってICTを活用して自学する。WEB上には各教科の内容理解を促す優良コンテンツはいくらでもある。

あらかじめ教員がいくつかのコンテンツを紹介するとともに、子供たちは既に日常友達との情報交換を通じてYouTubeでゲーム攻略などを自主的・意欲的に学んでいることの事実を直視しよう。自分(教員)が丁寧に解説して教えなければ、子供たちは内容理解ができないと思い込んでいる指導観こそが、子供たちの自学する力を奪っているのかもしれない、と自問してみたい。

当然、できない子供がいる。だから登校日に個別指導する。家庭で行った自学に基づき、分からないことを教員に質問したり、さらに学びたいことについて助言を求めたりするのが登校日における「新しい学び」のスタイルだ。同時に子供たちには、各自の学びの状況を振り返らせておき、それを登校日に教員が共感的理解をもって直接的に励ます。

子供の振り返り(メタ認知)から一人一人の個性的な学習方略に共感、時に刺激することが、学びに向かう動機付けとなる。「学びに向かう力・人間性等」を「自己調整」の力として具現化できる。40人学級の半分の20人、事例①による分散登校だからこそ実践できる「学び」だ。

求められる校長のリーダーシップ

これまでの論はアナーキーティブ(ルールに縛られない感覚)過ぎるだろうか。筆者も校長職を経験して、上述したような取り組みをまさに学校組織として一律・一斉に実施できるとは考えていない。しかし小学校であれば高学年や一部教科等で試してみることの価値は、絶対にある。このピンチを「新しい学び」に向かう真のチャンスとするのは、校長の卓越したリーダーシップの発揮にかかっていると言っても過言ではない。


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