9月入学 デメリットは少ないのではないか(藤川大祐)

千葉大学教育学部教授 藤川 大祐

イメージがばらばらな議論

新型コロナウイルス感染症の国内での感染がようやく落ち着きを見せ、休校措置が取られていた小中高校などで学校再開が進んでいる。とはいえ、今後も感染第2波、第3波の発生が考えられており、予断は許されない。

休校が長期化した中で、一部の都道府県知事などが「9月入学」制の導入を主張しており、本紙電子版5月8日付などでも報じられているように、文科省や政府与党でも検討が進んでいる。他方で、非常に大きな改革となることから、一部知事や有識者、PTA、校長会などは慎重姿勢をとっている。

このように注目されている「9月入学」論であるが、議論がかみ合っていないように思われる。文脈によって「9月入学」の具体的なイメージが大きく異なっており、いわば別々の「9月入学」論について議論がなされている状況に陥っている。

「9月入学」といっても、いつどのように移行するのか、関連する制度をどこまで変えるのか、などのイメージがばらばらなまま、「今年度9月まで何もしなくてよいこととなる」「大学4年生の就職が遅れる」「義務教育開始が7歳5カ月の場合が出てしまう」などの意見が出ているが、こうした点は本来、具体策を踏まえて検討されるべきものだ。

ある政策の是非を議論する際に、推進派が具体策を提示し、慎重派も具体策をもとに論じることは、政策ディベートの基本である。例えば、次のような具体策を想定して議論してはどうだろうか。

2020年度を1年5カ月として
「9月入学」制移行への具体策(藤川私案)
  1. 2020年度末を21年8月とする。21年度より、学校の年度を9月から翌年8月までとする。
  2. 20年度については、すでに休校措置で学習が進んでいない部分があること、今後も分散登校や再度の休校措置が必要となる可能性があり、学習進度を高めるのに限界があることを踏まえ、夏休みの過度な短縮などをせず、21年6月くらいまでかけて教育課程を進める。ただし、高校3年生や大学4年生などについて、教育課程の進行に無理がない場合には、3月に卒業することを認め、4月からの就職が最大限可能であるようにする。
  3. 小学校入学時期は、21年度は4月1日時点で6歳の者、22年度は5月1日時点で6歳の者というように年齢基準時期を1カ月ずつ遅らせ、2026年度より9月1日時点で6歳の者とする。
  4. 入試、公務員試験など、児童生徒学生に関わる試験のスケジュールは、20年度実施のものについては可能な範囲で、21年度以降実施のものについては原則として全て実施時期を現状より4~6カ月程度遅らせる。
  5. 教職員の任期、定年などは基本的に5カ月遅らせる。定年については、今後の公務員の定年延長などがなされる中で、適宜調整する。
  6. 20年度は1年5カ月となるが、授業料などは1年分のままとする。学校が負担すべき5カ月分の人件費などについては政府が必要な補助を行う。
  7. 未就学児が増えることによる保育ニーズの増大に関して、幼稚園・保育園などへの助成拡大、家庭で乳幼児を養育する保護者への支援措置の対応を行う。
  8. この他、社会を挙げて9月入学制に合わせた制度の変更を行う。

このように具体策を想定すれば、かみ合った議論がしやすいであろう。

早い段階で9月入学制への移行を

上記具体策のメリットは、これまで言われているような海外留学の対応のしやすさ、今年度の教育課程の無理の少ない実施や休校期間中に実施できなかった行事の実施がしやすくなることに加え、入試時期がインフルエンザや雪害の時期を避けやすいこと、夏休み明けの不登校や自殺などの問題が生じにくくなると考えられること、なども考えられる。

8月から先行して新任教員の研修や教員間の引き継ぎを行うこととすれば、新任教員が数日のみの準備でいきなり教壇に立つ状況を変えることができる。また、年間計画を抜本的に見直すことを通して、教員の働き方改革を念頭に置いた業務削減の契機にもなり得るだろう。

逆にデメリットは、ほぼ費用と手間の問題しか残らないのではないか。費用については国民的合意によって政府が中心に負担することとし、手間については5カ月長くなった今年度の中で対応するしかない。

このように考えると、議論はかなり焦点化されるように思われる。すなわち、ある程度の費用と手間をかけて9月入学制への大転換を図るか、大きな変更は避けて夏休みの大幅短縮や次年度以降までの教育内容繰り越しといった策でこの難局をなんとか乗り切ることを目指すかという点にこそ、議論の焦点が絞られるべきであろう。

私としては、夏休みの大幅短縮などの無理をするよりは、早い段階で9月入学制への移行を決め、前向きに改革を進めるべきだと主張したい。


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