Withコロナの学校経営 PDCAサイクルは通用しない(松田孝)

合同会社MAZDA Incredible Lab CEO・東京都小金井市立前原小学校前校長 松田 孝

コロナに翻弄された3カ月

誰もが予想だにしなかった学校の臨時休校。2月末に、新型コロナウイルスの感染まん延とその深刻化を食い止めるべく、政府は学校に臨時休校を要請した。3月2日から春季休業までの期間とされた臨時休校は、4月に緊急事態宣言が発令されることで、その解除まで延長された。解除が最も遅かった東京都などでは、多くの学校が5月末まで臨時休校となった。

このような緊急事態にあって、ICTを活用したWEB会議システムを使い、オンライン授業に取り組む学校や自治体が出始めた。オンライン授業の様子はメディアで紹介され、バズワードともなった。

文科省もその時々の状況を踏まえながら通知を重ね、学校の設置者に対してICTの積極的活用に取り組むための環境整備を急ぐよう促していった。さらに国は緊急経済対策を踏まえ今年度の補正予算において、当初令和5(2023)年の達成を目標としたGIGAスクール構想の前倒し実施を決定した。

全国で学校が再開された6月には、可能な限り感染拡大防止に努めながら、各学校では分散登校などの工夫をもって順次、通常登校による教育活動を模索し始めた。しかし、東京都では早くもアラートが発令され、北九州市では感染拡大の第二波によって再度学校の休校や分散登校などの対応に追われている。学校はいつ何時襲ってくるか分からない第二波や第三波へのリスク対策を講じながら、教育活動を展開していくことになる。

「学びの保障」総合対策パッケージ

そんな中にあって、文科省は6月5日に「学びの保障」総合対策パッケージを公表した。「あらゆる手段で、子供たち誰一人取り残すことなく、最大限に学びを保障」しようとするこのパッケージ内容は、「効果的な学習保障のための学習指導の考え方の明確化」と「国全体の学習保障に必要な人的・物的支援」の二つからなる。

中でも「授業を協働学習など学校でしかできない学習活動に重点化し、限られた授業時数の中で効果的に指導」することを打ち出し、「個人でも実施可能な学習活動等は授業以外の場で実施」するよう求めたことの本質をしっかりと理解しなければならない。

教科書発行者の協力により、学習活動の重点化などによって、授業日数に換算すれば20日程度を捻出できるとし、加えて夏休みの短縮や土曜授業の実施によって35日程度を確保すれば、臨時休校分の授業日数は補えるとした。学校ならではの学びとしての学校行事を実施する可能性も例示した。

PDCAサイクルの前提が崩れた

学校が再開され、子供たちの「学び」を保障すべく、何と言っても授業時数の確保に知恵を絞っていた全国の市区町村教育委員会(地教委)や学校にとって、このパッケージが大きな指針となることは間違いない。地教委や各学校は、これを手掛かりに改めて教育課程を大胆に変更することになるが、この期に及んでこれまで学校経営において有効とされていたPDCAサイクルを丁寧に回そうなどとは思わないだろう。

言うまでもなくPDCAサイクルは、製品管理で有効と認められた手法を学校経営にも援用して、充実した教育活動の推進を図ろうとしたものだ。PDCAサイクルを回し、その継続によってフィードバックを得ながら業務改善を図るこの手法の前提は、状況の安定にある。

Plan(計画)を策定した時のさまざまな状況が安定的に維持される前提が崩れれば、もうこのマネジメントが通用しないことは明白だ。昨年度末に学校評価、新年度計画を経て編成した教育課程は年間200日程度の授業日数が確保でき、子供たちが毎日学校に通ってくるという状況が大前提となっている。

しかし、今は前代未聞の緊急事態であって、状況が刻々と変化している。いつ何時、第二波、第三波がやってきて、状況が大きく変わるかもしれない。加えて学校は、風水害や冬季のインフルエンザによる学級閉鎖への対応も迫られる。

文科省通知にみる戦略的マネジメント

文科省が「学びの保障」総合対策パッケージを公表するに至るまでに初等中等教育局長名で発した、いわゆる子供たちの学力に関わる3度の通知の標題に変化がある。4月10日の通知では、臨時休校中の「学習指導について」と表記されていたものが、4月21日の通知では「学習の保障等について」と変わり、それが5月15日の通知では「『学びの保障』の方向性等について」という標題へと変化した。

臨時休校から学校再開へと状況が刻々と変わっていく中で、それを的確に捉え、その状況下における最適解を探り出そうとする使命感と、そこに新しい「学び」の様式を描き出そうとする担当者の熱い思いを感じ取ることすらできる。「指導」が「保障」となり、「学習」が「学び」に変化したことは、先のパッケージが単に授業日数の確保の例示以上に、従来の履修主義の転換に向かう兆しとみるのは考えすぎであろうか。

求められるOODAでアジャイルな経営感覚

何とOODAでアジャイルなマネジメント感覚なのだろう。

OODAループは、O(Observe:観察)、O(Orient:方向付け)、D(Decide:決定)、A(Action:行動)のループを何度でも回して、先の読めない状況で結果を出していく意思決定手法だ。米空軍のジョン・ボイド大佐によって提唱されたこの考え方は、今のコロナ禍の緊急事態だけでなく、コンピューターの技術革新によって変化が常態化するSociety5.0の社会におけるマネジメント手法として極めて有効だと考える。

そしてこのOODAループに類似するマネジメント手法が、IT関連業界で注目を集めているアジャイル開発だ。小さな単位で実装と試行を繰り返して開発を進める手法の特色は、OODAと同様、その俊敏さ、機敏性にあって、そこで下す判断こそが、自らを変化における主体であるという自覚と覚悟を促す。

今こそ学校のリーダーが、OODAでアジャイルな経営感覚をもってさまざまに重なる通知や「学びの保障」総合対策パッケージに対峙(たいじ)すれば、今のコロナ禍の状況を、新しい「学び」の様式を描き出すチャンスに変えることができる。


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