オンライン授業を阻む学校現場の事なかれ主義(鈴木寛)

東大・慶大教授 鈴木 寛

ノウハウが蓄積されてきた

私は4月から毎週、1000人が参加するオンライン授業を大学でやってきて、だいぶノウハウがたまってきたと感じている。私が勤務する大学では、学ぶ側の学生たちにもオンライン授業が定着してきたと思う。加えて、一部の高校生もZoomを使いこなしている。

例えば、高校生がWEB会議ツール「Zoom」を使って自主的にオンライン学習会を開き、講師として話す機会が2回あった。関東や近畿、東北、九州から高校2年生と3年生が100人くらい参加していて、「一番遠いのは誰かな」と聞いたら、カナダのバンクーバーだった。

オーガナイズしたのは東京の女子高生。直接私にメッセージがきて、「やりましょう」となった。先生が何か教えるのではない。生徒が自分たちから何かを学ぼうとしており、その学習支援を大人が引き受けるというかたちだった。

大学生が主催した高校生との学習会に講師として招かれたこともあった。岩手・大槌高校の生徒が先生と一緒に参加していた。こうした勉強会では、教員は生徒に誘われて参加することもよくある。

多くの高校生にとって、Zoomにプレゼンテーションツール「スライド」を組み合わせたオンライン授業は、もはや定番になっている。Zoomでは、まず全員で誰かの講義を聴き、ブレークアウトセッションでグループワークをやり、スライドで疑問点を挙げ、みんなで学びを深めていく。オンライン学習が始まって早くも3カ月近くがたち、そうしたツールを高校生たちは完全に使いこなしてしまった。

むしろ、この事態についていけていないのは、教育現場の大人たちだ。校舎の中で標準授業時数を履修しなきゃいけないという考えに凝り固まった大人たちの感覚は、インターネット経由でより良い学びにどんどんチャレンジしている生徒たちに、全く追い付いていない。オンライン授業の定着は、地方の生徒たちにとっては特にチャンスになっている。いままで大槌高校の生徒が東京にいる講師の話を聞くのは難しかった。関西だってしんどかった。それが遠隔教育のおかげで簡単に実現している。

人間関係は対面授業で作る

対面授業とオンライン授業のベストミックスも、だんだん見えてきた。教科にもよるが、対面授業は、新型コロナウイルスの感染予防のため3密の回避に配慮しつつ、合宿で集中講義をやってしまうようなかたちがいいと思う。

面白いことに、ベストミックスの授業は二つの方向に分かれていくようだ。一つは合宿による集中講義型のイメージ。従来の教室よりもずっと濃密な人間関係を作ることが求められている。もう一つがオンライン授業になる。

対面授業は机に座ってやるのではなく、もっと現場重視がいい。例えば、理数科だったら、子供たちと一緒に自然観察や理科実験をやる。社会科だったら、商店街歩きや地元の人へのインタビューを一緒にやる。

要するに、対面授業は人間関係を作ることが大切なのだと思う。オンライン授業では、1回も直接会ったことのない人を相手にするのと、すでに人間関係ができている人を相手にするのとでは、だいぶ話が違う。いったん人間関係ができてしまえば、単なる知識・技能の習得はオンラインでかなり対応できる。

そのためには、最初に合宿をやって徹底的に仲良くなってしまうことが大事になる。人間関係ができた後は、オンラインでやりとりしながら、時々会えばいい。人間関係ができないうちに、オンライン授業に入っていくと、生徒によっては孤立してしまう。

言い換えれば、対面授業は、直接会うことによって、生徒たちが学びのきっかけや動機付けをつかむことが狙いになる。生徒には、ロールモデルや憧れの先輩、気の合う仲間ができてくればいい。山極壽一・京都大学総長は「ネットでは信頼関係ができない」と指摘しているが、ネットは予習と復習のメディアだと私は思う。本番はやっぱり会わないと駄目だ。対面とオンラインのハイブリッド型授業では、それぞれの特徴を踏まえた授業のデザインが大切になってくる。

オンラインでのコミュニケーションは、湯沸かし機能のない、昔ながらの魔法瓶を思い浮かべたらいいと思う。熱いものを保温することはできるけれども、冷たい水はいくら魔法瓶に入れても冷たいまま。人間の熱量を上げて沸騰させ、生徒に動機付けをして、信頼関係を作っていくのは、やっぱり対面授業の役割になる。

そうした対面授業をより有効なものにするために、オンラインには準備や予習、フォローアップや復習のメディアとしての役割がある。やればやるほどなるほど、そうだなと思う。

事なかれ主義は大敵

オンライン授業への取り組みについて、学校現場の相談を受けると、残念ながら、事なかれ主義を感じることも少なくない。

1人1台端末の整備が進まず、オンライン授業のカリキュラムも十分に用意できず、「これでいいのか」と思っている教員は全国にいる。

先日、ある高校の中堅教員から相談を受けた。責任感のある人だから、自分の生徒を何とかしてあげたいと思っている。けれども、社会科には教員が10人ぐらいいて、新しいことをやって失敗するのを恐れ、「結局、オンライン授業に踏み込めない」と言っていた。

その理由の一つが、保護者の存在だ。オンライン授業をやると、家庭では生徒たちの後ろに保護者がいて、ずっと見ているという。双方向の授業をやろうとすると、最初は接続がうまくいかない生徒がいたり、不規則発言があったりして、うまくいかない恐れがある。そうすると、保護者からすぐに「不平等だ」というクレームがくる可能性が大きい。

そういう不測の事態が怖いため、その教員は学校から「双方向のオンライン授業はやらず、録画した動画をオンデマンドで見せる一方通行の授業にしてほしい」と言われているそうだ。教員は「これではいかんと思う。自分は生徒と双方向でコミュニケーションしながら授業をやりたい。それ以上に、Zoomのブレークアウトセッションを使い、生徒同士に双方向でグループワークをやってほしい」と嘆いていた。

オンライン授業は双方向でやらないと、良さがなくなってしまう。ブレークアウトセッションによって、従来の授業では黙っていた生徒たちが自分から話すようになる。結果として、双方向のオンライン授業では、通常の授業よりも質問が膨大に増える。オンライン授業の重要な長所だ。

もちろん、最初はZoomをうまく扱えないとか、起こりうるリスクはある。その高校の社会科では結局、「保護者からのクレームが怖くて、双方向は諦めた」そうだ。ここで一人の教員が抜け駆けすると、「何だ、あの先生は」となる。とにかくリスクを最小化しようとして、横から同調圧力をかけ、結果として低い方に合わせる。こうやって学校現場が萎縮していく。

事なかれ主義の問題は、この3カ月近く、全国あちこちの学校でずっと続いている。「最善を尽くしたい」という何割かの人と、失敗とその結果による保護者からのクレームを恐れて、低い方に合わせようとする人がいる。この2つでは、後者の人数が多いので、後者が前者に対して同調圧力をかけるという構図だ。

いまのような危機の状況はイノベーションのチャンスでもある。ピンチをチャンスに変え、対面授業とオンライン授業のベストミックスを実現するためには、事なかれ主義に甘んじて低い方に合わせようとする学校現場の同調圧力は大敵だ。

解決の道筋は、学校現場の大人たち一人一人が「自分がなんとかする」と思うしかない。これはマインドセットの問題だ。自分の学校の生徒だけは、自分が絶対に守ると覚悟する校長。自分が担任しているクラスの子供たちの幸せだけは、全て関わると自覚する教員。それぞれの学校が自衛して、子供たちを守っていけるかどうかが問われている。


関連

あなたへのお薦め

 
特集