変形労働制で省令改正 「総力戦」のひと弾に(渡辺敦司)

教育ジャーナリスト 渡辺 敦司

1年単位の変形労働時間制の選択的導入を可能とする制度改正作業が、ようやく進む。文部科学省は7月2日に行われた中央教育審議会初等中等教育分科会に省令改正案などを提示し、了承を得た。ただし施行期日は2021年4月1日と、来年度以降の話だ。夏休み中などに休日のまとめ取りができるようになることは、学校の働き方改革を進めるものになるのだろうか。

疑問や批判も根強い中で

「働き方改革の決定打ではないが、変革をもたらすことを期待したい」(全連小会長の喜名朝博・東京都江東区立明治小学校統括校長)、「一歩前進したが、本来的にはまとめ取りをしなくて済むような働き方改革を推進していくべきだ」(戸ヶ﨑勤・埼玉県戸田市教育長)――。初中分科会では委員から、こうした発言が相次いだ。

1年単位の変形労働制の効果を巡っては、高知県土佐町議会(3月17日)をはじめ地方議会が相次いで導入しないことを求める意見書を採択するなど、疑問や批判も根強い。

しかし喜名会長が指摘した通り、1カ月単位の変形労働制を1年単位に拡大する改正給特法(19年12月)は、働き方改革の「決定打」にはならない。そもそも働き方改革自体、文科省が答申(19年1月)の審議段階から繰り返し説明しているように「特効薬のない総力戦」だ。

そうした点で「学校における働き方改革特別部会」委員も務めた天笠茂千葉大学特任教授の「改革の一つの過程として、淡々と進めていただきたい」という発言が、ある意味で本質をよく表している。

賛否を呼んだ1年単位の変形労働時間制も、学校の働き方改革という総力戦の、ほんの一発の弾にしかすぎない――と言っては言い過ぎだろうか。

「教職の魅力」になるのか

今や若い教員には想像もつかないだろうが、ベテラン層なら、かつて夏休み中の勤務は実態として今よりはるかに自由裁量で行えたことを、懐かしく覚えていよう。だから全国を飛び回って、教育研究団体の集会や大会に参加したり、教材研究に打ち込んだりもできた。そうした自主研さんで指導力を高め、授業で腕を試せるのが、教職の醍醐味(だいごみ)だった。

現在では長期休業中の勤務管理が厳格化されただけでなく、こなすべき業務も山積している。各研究団体にとっては日程調整も大変で、参加者の減少が悩みの種になっている。

だから中教審の審議段階から今に至っても「教員も夏休みを取れることが、教職の魅力向上につながる」といった発言がしばしば聞かれることに、いつも違和感を覚える。昔に比べて既に教職が魅力のないものになっているということを、正直に認めるべきではないか。

条件整備が大前提

改正省令などが公布されても、改革はこれからだ。各自治体で条例や規則の改正を行う必要があり、9月議会や12月議会の焦点となろう。「選択的導入」である以上、導入しないという選択肢もあり得る。

その点で、やはり働き方改革特別部会委員も務めた相原康伸連合事務局長が「条件整備が大変重要だ。導入する際には、上限時間や部活動のガイドライン等を順守することが前提になる」と指摘したことを重く受け止めるべきだろう。

善積康子三菱UFJリサーチ&コンサルティング主席研究員も「この制度は、時間の管理がきちんとできるかが非常に大事だ」と述べていた。導入したとしても、しっかり運用できる条件を整えることも不可欠になる。

非常時も想定した議論を

本来は1月に着手するはずだった今回の改正作業が、新型コロナウイルス感染症の影響で遅れたことも示唆的だ。

もともと今年度は対象にならなかったとはいえ、「夏季休業に当たるのは平日10日間しかない」(全高長会長の萩原聡都立西高校長)中でまとめ取りをしようとしても不可能だったろう。

東日本大震災から来年で10年になるように、想定外の事態は近年、しばしば起こる。相原事務局長も「本年のように(勤務時間に)アップダウンの大きい昨今の状況と親和性が保てるか、学校現場では詰めた議論が必要だ」と指摘していた。

過労死ラインに達するほど働かせた分の休業をきちんと取らせるのは、当然のことだ。しかし、机上の計算だけで教職員の心身の健康が保てるわけではない。荒瀬克己中教審初等中等教育分科会長(関西国際大学学長補佐)の「教職員の勤務実態は、子供たちの教育条件に大きく関わってくる」というまとめの発言を、かみ締めるべきだろう。

長期休業中の勤務の在り方を考える上では、「絶えず研究と修養に努めなければならない」という教育公務員特例法の理念をいかに保障するか、という視点も大事にしてほしいものだ。それこそが真の教職の魅力につながろう。


関連

あなたへのお薦め

 
特集