携帯電話の持ち込み 学校や地域が判断すべきだ(藤川大祐)

千葉大学教育学部教授 藤川 大祐

国が決める必要性はあるのか

本紙7月13日付電子版で報じられているように、文科省の「学校における携帯電話の取扱い等に関する有識者会議」は、小中学校における児童生徒の携帯電話持ち込みを条件付きで容認する方針を示した。文科省はこの方針に基づき、学校における携帯電話の取り扱いについて近く通知するとのことである。

学校への携帯電話持ち込みに関する議論は、2008年に当時の橋下徹大阪府知事が携帯電話持ち込み禁止の方針を出したことに端を発したものである。翌09年に文科省が、小中学校への携帯電話持ち込みを原則として禁止する通知を出し、全国的に小中学校への児童生徒による携帯電話持ち込みは基本的に禁止されることとなった。

その後、18年の大阪北部地震などを踏まえて大阪府教委が小中学校への携帯電話持ち込みを認める方針を発表し、今般の文科省有識者会議の議論に至ったものである。09年も今回も、大阪府での対応を後追いする形で、文科省が学校への携帯電話持ち込みを原則禁止したり容認したりしている。

国が地方の後追いをしてまずいわけではないし、状況の変化を受けて方針が変わることはあり得る。だが、09年も今回も、この問題を国が決めて地方に通知することの必要性については疑問だ。

学校において携帯電話をどのように扱うかについては、地域の状況を踏まえて学校と児童生徒や保護者が話し合って決めればよいことであり、国はもちろん都道府県であっても、一律に決める必要はない。この程度のことも地域や学校に委ねられないのであれば、教育の地方分権などできるはずがない。

新たな持ち込み需要を喚起する可能性

今回の有識者会議の方針は、今後学校にどのような影響を与えるであろうか。

まず確認が必要なのは、今回の方針は基本的に学校現場の取り組みの追認にすぎないということである。文科省が今年5月に発表した「学校における携帯電話の取扱い等に関する調査」によれば、小中学校とも95%以上の教委が学校への携帯電話持ち込みを原則として禁止している一方で、小学校は67.1%、中学校は72.1%の教委が一定の理由・事情がある場合に家庭からの申請により携帯電話の持ち込みを認めている。

携帯電話は原則として持ち込み禁止だが、家庭の希望に応じて例外的に持ち込みを認めている教委が多数なのである。今回の有識者会議の方針は、外形的にはこうした教委のやり方を追認したものだ。

だが、今回の方針にはアナウンス効果がある。文科省が小中学校への携帯電話持ち込みを容認したという報道がなされることにより、あたかも国が学校への携帯電話持ち込みを推奨しているかのような印象が生じ、これまでは特に持たせようとしていなかった保護者までもが、積極的に持たせる方向に態度を変えることが十分に考えられる。

この結果、これまで特に持ち込みの希望がなかった学校で持ち込みへの対応が必要となったり、必要以上に多くの児童生徒が持ち込みを希望するようになったりすることが考えられる。有識者会議の方針が、新たな持ち込み需要を喚起してしまう可能性が高いのである。

今後、これまで携帯電話持ち込みに消極的だった学校ほど、対応に追われることになる。持ち込みに対応することを前提に児童生徒の携帯電話使用に関する対応方針を改めて検討し、盗難や紛失など問題が起きないよう学校で端末を預かるなどの対応をとらなければならなくなる。

文科省が動かなければ必要がなかった対応を学校は強いられるのであり、教員の働き方改革に逆行することは明らかだ。しかも、現在の学校は新型コロナウイルス感染防止への対応で教員の負担が大きくなっているのであり、携帯電話持ち込みへの新たな対応を強いられる学校はつらい。

地方や学校に任せられることは任せる

有識者会議では、PTAや校長会など関係者らから、持ち込み容認に対する反対意見が出されたと言う。不要な持ち込み需要を喚起し、新型コロナウイルスに対応する学校に新たな負担を強いるような策が支持されないのは当然である。こうした反対意見を押し切った文科省のやり方は、強引すぎるように見える。

文科省がこのようにかなり無理な形で持ち込み容認を打ち出した背景には、大阪府教委が文科省の09年の通達に反するように持ち込み容認を打ち出したことを放置できないという考えがあったものと推察される。国の通知がないがしろにされることを、看過できなかったということなのであろう。

だが、既に述べたように、学校や地域で決めるべきことについて国が通知を出したのが間違っていたのである。各地で柔軟な取り組みがなされているのであるから、わざわざ有識者会議を設けて改めて通知を出すことなどせずに、各地の取り組みを静観する姿勢をとっていればよかったのではないか。

文科省には、地方や学校に任せられることは任せるという姿勢をとってほしい。また、新型コロナウイルスで負担が増大している学校現場に不要不急の対応を生じさせることは、厳に控えていただきたい。


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