少人数学級の推進 根拠は確かなものなのか(妹尾昌俊)

教育研究家、学校業務改善アドバイザー 妹尾 昌俊

「今こそ少人数学級を」との声、多数

少人数学級の実現を求める声が大きくなっている。今回の新型コロナウイルスへの対策としても、1クラス最大40人の、いわば“すし詰め”状態なのは、密につながるとして「今こそ、少人数学級を」という意見は多い。

また、休校明けの5月、6月に分散登校を実施した学校も多くあったが、その中で、大勢の先生たちが、少人数のよさを実感したことも大きい。

本紙の最近の調査によると、実に96.6%の公立学校の教員が少人数学級に「賛成」と述べている(本紙電子版8月13日付。ただし回答者は147人なので、多くはない点には注意)。私が6月に実施した教員向けアンケート調査でも、公立小中高の教員(回答者数679)の96.9%が少人数学級について「必要性が高い」と回答している(「とても高い」と「やや高い」の合計)。

8月25日に開催された政府の教育再生実行会議でも、「少人数学級を進め、30人未満の学級にしてほしい」との意見が出され、これに対する異論や反対意見は出なかった(本紙電子版8月25日付)。

コロナ対策を理由とするのは筋が悪い

少人数学級を求める声には共感できることも多いが、一方で、コロナを理由に「1クラス30人以下、20人以下の学級に」という意見には、私は賛成しかねる。

というのは、3つの意味で事実に反しているからだ。

第一に、少なくともいまの新型コロナの場合、1クラス40人いるからといって、感染拡大が起きているようには見えない。文科省の衛生管理マニュアル(9月3日改訂版)によると、6月~8月までの間「学校内感染」は計180人、事例としては31件発生している。

少子化しているとはいえ、現在も全国には約3万6000校あり、約1300万人の児童生徒がいる。その中で、この数字である。もちろん、油断できるウイルスではないし、学校が感染予防に努めている結果でもあろうが、40人学級だと危ないという主張には、疑問符がつく。

第二に、仮に、それでもやはり子供たちを危険な目にさらすわけにはいかないというのであれば、一刻も早く少人数学級に切り替える必要があろうが、その予算も教室もすぐには準備できない。つまり、少人数学級という対策には、即効性は期待できない。

第三に、1点目、2点目にも関わるが、仮に新型コロナが変異したり、また新しい感染症が生まれたりして、子供たちへの感染力が強いものが現れた場合、いくら少人数学級にしていたとしても、休校や学級閉鎖になるであろう。現に、今回のコロナ禍でも、自治体の独自政策や少子化の影響で、すでに少人数学級の小中学校等はあちこちにあったわけだが、休校は長引いた。

以上の理由から、コロナ対策が目的ならば、オンラインで学習できる環境を整えるなど、別の方策の方が優先度は高いと、私は考える。

きめ細かな指導・学習の効果はあるか

では、「きめ細かな指導・学習ができるようになるために、少人数学級に」という理由なら、どうか。

「きめ細かな」の意味合いにもよるが、これも分が悪いかもしれない。教育経済学者らの先行研究によれば、少人数学級が学力向上や非認知スキルに与える影響はほとんどないか、あっても小さいというものもある。教育効果を認める先行研究もあり、錯綜(さくそう)気味のようにも見えるが、少なくとも、莫大(ばくだい)な税金を投入するのに十二分に効果が大きいというエビデンスは少ないのが実情だろう。

ただし、こうした研究にも弱点と言うか、穴もあると思う。一つは、多くの場合、教育効果を限られた指標とデータでしか測定できていないし、1年から2、3年で現れる範囲でしか評価できていない。「エビデンス」と呼ばれるものが、全ての効果や子供たちの実情を反映できているわけではない。

例えば、理科の授業や夏休みの自由研究について、少人数学級のもと、非常に熱心に先生からフィードバックをもらえた子がいたとする。その子は科学のことが好きになり、本を読みあさるようになる。すぐにテストの成績が上がったりしたわけでもないし、性格も変わったりすることはなかったが、数年後、科学者になったとしたらどうだろうか。

大掛かりな追跡調査をしないかぎり、こうした教育効果を示すことは難しい。ただし、40人学級だからこういうことが絶対できないというわけでもない点には、留意する必要もある。

少人数学級を推し進めたい派にも、ストップをかけたい派にも、丁寧な事実確認や他の政策との比較考慮などがもっと必要であるように思う。


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