非同期型オンラインによる自学と振り返りで自己調整の力を育め(松田孝)

合同会社MAZDA Incredible Lab CEO・東京都小金井市立前原小学校前校長 松田 孝

今、中教審が熱い

令和の日本型教育の構築に向けて、中教審初等中等教育分科会に設置された「新しい時代の初等中等教育の在り方特別部会」が9月28日、答申に向けた「『令和の日本型学校教育』の構築を目指して(中間まとめ(案))」(以下、中間まとめ案)を公表した。

中間まとめ案は、Society5.0の社会を生きる子供たちにふさわしい教育の在り方を、確かな時代認識をもって現状の丁寧な把握と分析によって、そのサブタイトルである「全ての子供たちの可能性を引き出す、個別最適な学びと、協働的な学びの実現」に向けた、まさにグランドデザインを描き出そうとしている。

学校現場に突き付けた課題

中間まとめ案は学校現場に、子供と直接に対峙する教育の最前線にしか解決できない課題、「遠隔・オンライン教育を含むICTを活用した学びの在り方」(各論6)を具体的な授業実践モデルとして構築することを求めた。各論6の基本的な考え方において「発達の段階に応じて、ICTを活用しつつ、教師が対面指導と家庭や地域社会と連携した遠隔・オンライン教育とを使いこなす(ハイブリッド化)ことで個別最適な学びと、協働的な学びを展開すること」を求めている。

しかし、このハイブリッド化はコロナ禍の臨時休校期間にバズワードとなった、オンラインの同期による双方向性の授業を実践することによって担保されるものではない。登校できるときはオフラインの教師の指導で、さまざまな事由で登校できないときにはオンライン(同期)の授業配信で「学び」を保障するという、学習機会に着目したハイブリッド化は、オンライン教育の一側面であって、本質ではない。

中間まとめ案は各論6(2)③において、「児童生徒の学習活動の質を高めるため、学校の授業時間内において、教師による対面指導に加え、目的に応じ遠隔授業やオンデマンドの動画教材等を取り入れた授業モデルを展開するべきである」と訴える。この案には、まさにオンラインの非同期性に着目したハイブリッド化による授業実践がその視野に入っていることを看過してはならない。

オンラインと対面指導の融合

ICTの活用は、オンラインとイコール(=)である。しかし、中間まとめ案は、その各論タイトル「遠隔・オンライン教育を含むICTを活用した学びの在り方」の表記を見る限り、さまざまな事情を鑑みてイコール(=)ではなく、不等号(ICTの活用>オンライン)としたのであろうが、躊躇(ちゅうちょ)はいらない。なぜなら、国(政府)は2018年に各府省情報化統括責任者(CIO)連絡会議において「Cloud by Default」を決定したからである。

オンライン授業には同期性と非同期性とを活かした二つの型がある。そして最大のメリットは非同期性の活用にあることを筆者はこれまでも繰り返し述べてきた。

「いつでも、どこでも、誰とでも」学べる非同期性のメリットを最大限に活かした授業展開の中に、教師による対面指導を取り入れ(融合し)ていくことで、「個別最適な学びと、協働的な学び」を実現する新しい授業モデルが構築できる。

非同期性のメリットを活かす自学

オンラインの非同期性に注目してそのメリットを最大限に活かそうとすれば、子供の「学び」は個別化に向かう。

単位時間の学習のめあてを確認した後に、子供たちはWEB上にある秀逸なコンテンツを活用しながら、まさに自分の理解とペースで内容の理解と習得に努める。課題に一人で取り組む子供もいれば、友達と話し合いながら学習を進めたり、理解がままならないと思えば教師の周りに集まって教えてもらったりと、まさにその子供の状況によった「学び」の姿が描き出される。

ここに中間まとめ案の総論3(1)が述べる、教師による「個に応じた指導(「指導の個別化」と「学習の個性化」)」と子供にとっての「個別最適な学び」が実現する。そしてこのことは基礎的基本的な内容の確実な理解と習得だけでなく、探究的な「学び」においても同じである。

自学による個別化は、孤立化ではない。

個別化を真に推進する自己調整の力が育まれることによって、さまざまな協働が生まれる。個別最適な「学び」が、協働的な「学び」のコア(核)となる。

自己調整は、メタ認知、学習方略、動機付けからなる考え方である。この自己調整の出発点は、個別化した「学び」をしっかりと振り返ること、つまりは自分自身で活動をメタ認知することにある。そしてそれを一緒に学ぶ友達と共有することによって、そこにつづられたさまざまな気付き(=対象や自己に対する知的で情緒的な気付き)や「学習方略」などにお互いが刺激を受け、子供はさらに「学び」に向かう動機を高めていく。

この相互啓発こそが、学習のさらなる個性化を促すとともに、同じような方向性を持ち、興味関心を抱く友達との目的を共有した協働を生み出していく。

ICTだからこそ実現できる振り返りの共有

振り返り活動(メタ認知)は、ニューノーマルな「学び」の様式において自己調整の力を育むために必要不可欠な活動である。子供たちが自由に自身の活動を振り返り、記述するからこそ、その共有が刺激となってさらなる動機が醸成される。

初めは何をどう記述すれば良いか分からない子供もいるだろう。しかしICTがあって、学習支援システムなどに搭載されている一覧共有機能を活用すれば、子供たちは一人一人が振り返りの力を育んでいくことができる。

共有の積み重ねで、さまざまな振り返りの視点があることを知り、記述方法の具体を友達の記述をモデルに学んでいく。アナログ環境では、絶対に実施できない「学び」がICTによって可能となる。「絶対」と書いたのは、アナログ環境で振り返りを一覧共有するためには、多大な時間と労力を必要とするため、継続的な実施は不可能であるからだ。

自己調整の力は、知識や技能の習得のための学習方略だけでなく、一人一人の個性伸長とキャリア形成の方略をも含み、それを動機付ける力だ。とすれば、まさに自学と振り返りのループで育む自己調整の力こそが、新学習指導要領がその実現を目指す「学びに向かう力」の具体である、と筆者は考えている。

自己調整の力を育むオンラインの非同期性を活かした自学と振り返りのループ(松田孝氏作成)
「学びに向かう力・人間性を涵養」するためのICT活用

ICTを活用するのは、授業において「主体的・対話的で深い学び」を作り出し、「個別最適な学びと協働的な学びを実現」した先に、「学びに向かう力・人間性を涵養」するためにある。しかしこれまでICTの活用は、新学習指導要領が掲げる資質・能力の3つの柱のうち「何を学ぶのか」、「どのように学ぶのか」の具現化に、その効果効率性の観点から議論が交わされ、実践が積み上げられてきた。

果たして「何ができるようになるか」の極めて重要な力(コンピテンシー)である「学びに向かう力・人間性を涵養」するICT活用についての事例は、ほとんど紹介されていない。

これまではこの力を「関心・意欲・態度」の評価をもって育もうとしてきた。しかし、中教審教育課程部会が2019年1月に取りまとめた「児童生徒の学習評価の在り方について(報告)」は、「関心・意欲・態度」に代わって「主体的に学習に取り組む態度」の観点を打ち出し、従来の評価活動で指摘されてきた課題を克服して、自己調整の力や粘り強さといった子供たちの「学び」に向かう意思的な側面を捉えて評価する考え方を明確に打ち出している。

今後は、①授業支援システムなどの一覧共有機能の活用と、②振り返りに対する他者からの共感的理解・示唆が、子供たちの自己調整の力を育むものとなることを心理アンケートなどにエビデンスを求め、この場面におけるICT活用の具体的な実践事例を創り出していくことが、中間まとめ案で突き付けられた課題に学校現場が真摯(しんし)に対応している証しとなる。

「オンラインの非同期性を活かした自学と振り返りのループで自己調整の力を育む」新しい授業展開モデルにおいて、教師は「一人一人の子供のニーズに応じた『学び』の環境調整」の役割を担うことも重要な視点であることを、最後に付け加えておきたい。


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