あだ名禁止 人権を民主的な解決で守ることが大切だ(藤川大祐)

千葉大学教育学部教授 藤川 大祐

広く生じている、あだ名によるいじめ被害

本紙電子版11月11日付は、「あだ名禁止の校則」に関する日本トレンドリサーチの調査結果を報じている。これによれば、小学校のあだ名禁止の校則について、「賛成」が18.5%、「反対」が27.4%で、「どちらでもない」54.1%が過半数を占めた。

嫌なあだ名で呼ばれることによるいじめ被害は、かなり前から広く生じているものと考えられる。最近でも、いじめ自殺事案において侮辱的なあだ名で呼ばれる被害があったことが指摘されている例が報じられており、あだ名による被害の問題は現在も解決されていない。

最近この話題が注目されているが、きっかけとなったのは、『週刊ポスト』2018年5月15日号の「最近の小学校、『あだ名禁止』や『さん付け』が増えた事情」という記事だと推測される。この記事は、「あだ名で呼ぶことは、いまの小学校では考えられません。それくらいイメージが悪いのです」という埼玉県の小学校教員の話を紹介し、広島県の公立小学校がホームページであだ名禁止の規程を公開していることなどを報じている。この記事はYahoo!ニュースに掲載されたこともあり、本紙2018年6月4日付「鉄筆」欄でも言及されるなど、話題となった。

そして、今年10月19日にNHKが「子供はもう使わない?『あだ名』のメリット生かすには」という話題を報じたことなどがあり、このところ学校でのあだ名禁止規則の是非が話題になり、冒頭で述べた調査が行われるようになった。

一律で禁止する規則を設けるべきか

この問題について整理しよう。

まず前提となるのは、呼ばれる側が苦痛を覚えるようなあだ名で呼ぶのは、許されないということである。児童生徒が他の児童生徒をあるあだ名で呼ぶという行為によって、呼ばれた児童生徒が苦痛を受けたのであれば、この行為はいじめ防止対策推進法が定める「いじめ」に該当するのであって、容認されない。もちろん法律を持ち出すまでもなく、相手が嫌がるあだ名で呼ぶのが許されないのは当然だ。

苦痛を与えるあだ名とそうでないあだ名が明確に区別できるのであれば、あだ名全般が禁止される理由はなく、前者のみが禁止されれば十分である。だが、実際には、苦痛を与えるあだ名とそうでないあだ名との区別は容易ではない。特に否定的な意味があるとは思えないあだ名でも恥ずかしい記憶などと結び付いていて、呼ばれるのが苦痛だということが有り得る。逆に、やや侮辱的に見える言葉でも本人が何も気にしていない場合もある。

あだ名を一律で禁止する規則を設けるのは、苦痛を与えるあだ名とそうでないあだ名との区別が困難であることを踏まえた対応であろう。このような規則を設けることには、次のようにいくつもの問題がある。

第一に、子供たちの自由を過度に制約することとなるからである。私的な会話において互いにどのように相手を呼ぶかは、それぞれが容認している限りにおいて自由であるはずだ。こうした私的な会話での呼び名について学校が制限をかけるのは不当であろう。

第二に、実用上不便な例が少なからず生じることが考えられる。同じクラスや同じ学年に同姓や同名の子供が複数いることは珍しくない。また、長い名前の子供もいる。特に、外国から来た子供の中には、姓に当たる部分だけでも20音くらいになる名前の場合さえある。さすがにこうした場合にはあだ名を使わなければ著しく不便であり、落語の「寿限無」のような状況になりかねない。

そして第三に、規則で決めて守らせるというやり方は、非民主的である。もちろん子供たちだけで解決が困難な問題について、教師あるいは学校が規則を決めて守らせることは有り得る。しかし、子供たちは学校を出れば、自分たちで自分たちの問題を解決しなければならないのであるから、学校にいるうちからできる限り自分たちで民主的に問題を解決することを学ぶべきである。

自分たちで話し合って解決を図らせよう

嫌なあだ名によるいじめの被害をどのように防ぐかという問題は、自分たちで解決を目指すのに手頃な問題であろう。嫌なあだ名で呼ばれても言いにくい場合にはどうするかなど自分たちで話し合って解決を図ることによって、他の問題が生じても自分たちで解決することができるようになるはずである。

「あだ名禁止の校則」について、嫌なあだ名によるいじめの問題を深刻に受け止めながらも、賛成できない人が多いのは、上記のような問題があるからであろう。自由に私的なコミュニケーションをする権利を守りつつ、嫌なあだ名によって苦痛を受ける人権侵害が生じないようにどうするかという問題について、トップダウンでなく民主的に解決しよう。そういう主張であれば、多くの人が納得するのではないだろうか。人権が脅かされることに対してと同様に、民主的な決定を省いてしまうことにも、警戒が必要である。


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