進まない給食費の公会計化 働き方改革へ声を上げるとき(斎藤剛史)

教育ジャーナリスト 斎藤 剛史

文科省は11月4日、学校給食費の公会計化推進状況調査の結果を発表した。それによると、全国の教育委員会の74.0%が学校給食費の徴収・管理を学校現場に委ねていることが分かった(本紙電子版11月4日付)。保護者口座からの給食費引き落としなどが普及している現在、このニュースに大きな関心を持つ教員は少ないかもしれない。だが、地方自治法上、適切とはいえない学校給食費の「私会計化」がいまだに主流を占めている背景には、教員勤務の在り方を巡る課題と同様の問題が隠されている。自分たちには関係ないと見過ごしてよい問題ではない。

60年以上もほとんど手つかず

公立学校の給食費(食材費)は、保護者負担が原則となっている。それを地方自体の歳入・歳出に明確に組み入れ、徴収・管理も自治体が行うことを「公会計化」、学校現場で学級担任や事務職員などが徴収・管理することを「私会計化」という。給食は学校教育の一環であり、本来、給食費の徴収・管理は、地方自治法の観点から見ても、地方自治体が公会計として行うべきものだ。にもかかわらず、給食費の私会計化がいまだに主流を占めている。

もともと戦後の学校給食は、食糧不足などを背景に、学校や地域・保護者が独自に取り組んだことに始まる。その後、1954(昭和29)年に学校給食法が制定され、国庫補助金により学校給食は広く普及していったものの、当時から給食費の徴収・管理を誰が行うかが議論になっていた。これについて文部省(当時)は1957年(昭和32)年に、地方自治体からの問い合わせに対して、給食費は校長の私的処理で差し支えないと回答した。これによって、給食費の私会計化が制度的に定着する。当時は、金融機関も未発達で、自治体の財政システムも整っておらず、各学校で徴収・管理するのが、最も現実的な方法だった。

とはいえ、金融機関が発達し、自動引き落としやコンビニからも納税できるようになった最近まで、約60年以上も給食費の私会計化の是正に文科省がほとんど手をつけなかったことは、問題と言わざるを得ない。

進展わずか 大きな変化はなし

そんな給食費の公会計化への移行が問題になったことが過去に2回ある。その一つは、「給食費未納問題」だ。2014年に文科省が発表した調査結果によると、完全給食を実施している全国の公立小中学校の46.5%で給食費未納が発生し、未納金総額は全国で約22億円に上り、未納の最大の原因は保護者の責任感の欠如であるという内容が、マスコミでも大きく取り上げられ社会的な議論を呼んだ。この時、給食費未納解消の方策の一つとして、給食費を学校や教員に代わり、地方自治体が徴収する公会計化への移行の必要性が一部で主張された。

そして、もう一つが、19年1月に中央教育審議会から学校における働き方改革答申が出された時だ。答申は、給食費などの徴収・管理が教員勤務の負担になっているとして、給食費など学校徴収金の業務を「基本的に学校以外が担うべき業務」と明確に位置付けた。答申に先立ち、文科省は、18年7月に「学校給食費徴収・管理ガイドライン」を策定するとともに、給食費の公会計化を推進するよう通知した。裏を返せば、60年以上に及ぶ給食費の私会計化の歴史の中で、文科省がとった具体的行動は、この通知一つだったともいえる。

では、学校の働き方改革が叫ばれる中で、給食費の公会計化は進んだのか。文科省が18年に発表した調査結果によると、給食費の徴収・管理業務を「主に自治体が行っている」と回答したのは公立小中学校の17.8%。今回の調査で、公会計化を「実施している」と回答した教委は26.0%、「準備・検討している」という教委は31.1%。調査対象や質問項目が異なるので直接の比較はできないが、給食費の公会計化は少しずつ進みつつあるものの、大きな変化はないのが実情といえよう。特に、今回調査で教委の42.9%が給食費公会計化の「実施を予定していない」と断言しているのは非常に問題だ。

給食費の公会計化の実施予定がない理由のトップは、「業務システムの導入・回収にかかる経費」(398教委)。次いで、「人材の確保」(391教委)、「業務システムの運用にかかる経費」(351教委)などで、簡単に言えば、「金と人手がないのでやらない」ということだ。自治体の財政システムに関わるので、首長部局と折衝しなければならない。教委としては、現状、大きな問題がない限り、やりたくないというのが本音だろう。「準備・検討中」と回答した教委が、いつ公会計化を実現させるのか疑問も少なくない。

教員勤務問題とも大きく関係

以前は、給食費未納分を校長が自腹で払った、学級担任が家庭訪問して給食費を集めて回ったなどの話が多く聞かれた。しかし、保護者口座からの自動引き落としなどの方式が普及した現在、そういう事例は減少している。教委の7割以上が給食費を私会計化のままにしているということも、現在では、教員などの関心をあまり集めないかもしれない。

しかし、給食費の私会計化は、教員勤務問題とも大きく関係している。例えば、教員には限定4項目以外の時間外勤務を命ずることはできない。そのため、教員の時間外勤務は全て「自発的行為」とみなされている。これは、地方自治法上、給食費の私会計は好ましくないと認識されながら、学校の徴収・管理による私会計化がまかり通っているのと同じではないだろうか。また、公会計化しない理由の「金と人手がないから」というのも、教員の長時間勤務の現状と通じる。

給食費を公会計化しない理由の一つとして、「保護者との信頼関係のある学校が担った方が円滑」という意見も文科省調査であったが、これも「教員は子供のために長時間働くのは当たり前」という理屈と、ある意味、同じだ。

多くの管理職や教員は、学校が給食費を徴収・管理する私会計化に疑問を持っていないかもかしれない。しかし、そこに疑問を持ち、声を上げることが学校の働き方改革につながるのではないだろうか。


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