デジタル教材の普及 関連業界の再編成促すか(細谷美明)

教育新聞論説委員 細谷 美明

脆弱なわが国の学校におけるICT環境

来年度から使用される中学校の教科書採択は各自治体でほぼ終了し、教科書会社や関係の出版社は補助教材やその関係資料の作成に追われている時期である。その中で、学校や教育委員会が注目する分野がある。教科書を含めたデジタル教材である。

今年度はコロナ禍、菅新政権の発足といった新たな事象が加わったことにより、にわかに学校教育におけるICT環境への注目度が高まっている。3~4月の一斉休校期間にわが国の学校におけるICT環境の脆弱性が露呈し、昨年OECDから公表されたPISA2018調査の結果、「学校におけるICTの使用頻度が先進国で最下位」が皮肉にも証明された形となった。こうした状況下、菅新政権が9月に発足し、菅首相自身の口からそれまでのGIGAスクール構想に加え、「全ての小・中学生に対して1人1台の端末を整備する」ことがはっきりと述べられたからである。

学校のデジタル化の鍵を握っているのは、子供たちが使用する端末、つまりタブレット型コンピューターとデジタル教材である。デジタル教材といっても、主たる教材である教科書と教科書を補完する補助教材がある。2018年の学校教育法などの一部改正で規制が緩和されたとはいえ、デジタル教科書を使用できるのは授業時数の半分までとなっており、その使用には制限がある(障害のある子供や日本語が不自由な外国人の子供は除く)。そこで学校が注目するのが補助教材のデジタル化状況である。

クラウドが教材供給システムを破壊するか

そんな矢先、文科省が設置する「デジタル教科書の今後の在り方等に関する検討会議」の座長を務める東北大学教授の堀田龍也氏の講演を聞く機会に恵まれた。演題は「教育の情報化の最新動向~本格的なデジタル教材時代に向けて~」で、講演後半のGIGAスクール構想実現後の学校および社会の変化に関する話に、私は大きなショックを受けた。

これまで学校のICT関係予算は国からの地方交付税で賄われる場合が多く、使途先は自治体の判断に任せられることからICT予算として学校に還元されることには必ずしもならなかった。また、使用する教材ソフトの予算負担はほぼ自治体であるため、常にバージョンアップのある教材ソフトは「金食い虫」と行政からは見られていた。

ところが、これからの教材ソフト(デジタル教材)はクラウドシステムを使って関係する教材を教員や子供が自由にダウンロードできるようになるという。そうなれば自治体にとって大幅なコストダウンが可能となり、生徒や学校の個人情報の管理もクラウドで行われることになる。

問題は誰がそうしたデジタル教材を開発、販売、提供していくのかである。というのは、学校が使用する教材について、教科書は教科書会社が、補助教材は教育関連の出版社が作成し、別の販売会社が学校からの注文を受けて直接販売する分業システムが成立していた。ところが、クラウド化が実現すると、それまでの分業システムは不必要になる。学校や教育委員会は、契約した企業のクラウドサーバーから自由に教材をダウンロードすればよいからだ。

適切な教材開発が課題

ビッグデータを所有する巨大企業であれば、あらゆる分野のデータも供給可能となる。さらに、教材の活用法をアドバイスするサービスを付ければ、若手教員が増えている学校にとっては貴重な支援となる。ただ、大企業には教育分野のノウハウがないところが多いため、学校が求める適切な教材供給は果たして可能かという問題が残る。クラウドによるデジタル教材の効率的な運用にはこうした課題がある。

現在、総務省が文科省と連携を図り、2016年から「教育クラウドプラットフォーム」事業を展開し、多くの企業や学校が参加して検証を重ねているが、こうした教材の開発・供給に関する課題をどう分析し、どう提言していくのだろうか。業界の再編か緩やかな改編か、デジタル教材の登場は間違いなく学校にとっても教材業界にとっても「黒船来航」となるだろう。


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