GIGAの山を登る② 組織化を図る管理職の手腕(松田孝)

合同会社MAZDA Incredible Lab CEO・東京都小金井市立前原小学校前校長 松田 孝

Mt.GIGAのAttackルートはインフラ論ルート

インフラ論ルートは、「ICTを使うことが当たり前」のMt.GIGAへの登頂ルートである。電気・ガス・水道の生活基盤が整備されたとき、生活は激変した。情報端末の配備と高速通信ネットワークの整備は、その日常化によって「学び」を激変させる。

Mt.GIGAをAttackするのは、子供たちが生きる新しい世界であるSociety5.0をしなやかに生きる資質・能力を育むための「学び」を創造するチャレンジだ。前人未到の頂を目指すのに、従来のアナログ環境下で高度に築き上げられた教科教育研究による指導方法が前提の「ICTはツール」論ルートでは、登頂不可能なことは前回述べた(WEB版2021年1月15日付)。

リーダーの役割

今、管理職に求められているのは、インフラ論ルートを選択して、前人未到のMt.GIGAへAttackする組織づくりであって、その機運を醸成することにある。

リーダーは「ICTの日常化による新しい『学び』の創造」という方針を打ち立て、教育実践の方向性を明確に指し示す。そしてその方向性に照らした時、Attack隊のメンバーの資質・能力は大きく異なっている。このことを筆者は次のような図を描き、前原小学校長時代の3年間、毎年4月には必ず教職員に話をしてきた。

「学校経営方針に向かって、その方向性をしっかりと共有しよう。この時、教員の資質・能力を教職経験とICTスキルの2軸で座標(赤いドット)に表せば、そのポジションはさまざまだ。しかしそれは問題ではない。方向性を共有して、それぞれがそれぞれの理解と個性をもってICTをインフラとして活用した授業実践を推進してほしい。その結果、さまざまな実践が創られるだろう。図で言えば、青い矢印(ベクトル)の向かう方向と長さが成果となる」

「この時、許せないメンバーが一人いる。図の一番下、ICTスキルがマイナスの事象に位置するメンバーではない。黄色のマーカーで囲んだメンバーだ。なぜか。青い矢印が向かう方向が方針に対してマイナスだからだ」

どの学校現場にも、マイナスのベクトルを放つメンバーはいる。それが学校運営の中核を担う年配教員であった時、管理職の対応を他メンバーが見ていることを肝に銘じるべきだ。

推進の組織化

Mt.GIGAの登頂を目指して、多くの学校はそのための組織づくりを始めている。校務分掌への位置付けや、その組織が担うべき役割や範囲などは、それぞれの学校の実態を踏まえ、決定すれば良い。

しかし、ICT活用の方向がマイナスのベクトルを放つ人間を組織メンバーに入れてはならない。推進すべき組織が、停滞する。

講演に訪れた学校で、「若手だけで推進する組織にして良いものか」との不安が聞かれた。構わない。ICTをインフラとして当然に活用することを積極的に推進すれば良い。どんなに推進を促したとしても、現実はそんな簡単に、一直線にICT活用が活性化することなどない。学校に関わるさまざまなステークホルダー(利害関係者)や物理的環境が推進にブレーキをかける。そんな中で、推進の要となる組織が初めから自己規制したらチャレンジなんてできない。

幕末から明治にかけての動乱期、多くの若者がそれぞれが思い描く新しい国づくりを目指し、命を懸けて東奔西走した。それぞれのベクトルが時にぶつかり、時に重なり、時代を変革していった。維新の混乱も相当であったが、今の状況はまさに歴史の動乱期だ。Mt.GIGAの頂をAttackするには、従来の手法にとらわれず、インターネットおよびクラウドネーティブの若手のセンスが必要不可欠だ。

二つの命題 学校の使命と性善説

「学校は子供たちの未来に責任を持つ教育を展開する場」

「教員は子供のより良い成長に関わりたいと願っている」

上記二つの命題が真(しん)であるならば、今の動乱期において管理職がためらうことなくリーダーシップを発揮することで、教員は自ら主体性を発揮する。

エビデンスがある。「教員組織所属意識尺度」(※1)である。これは、QUアンケート(※2)を開発した早稲田大学の河村茂雄教授が考案した尺度だ。

「自主・向上性」と「同僚・協働性」の二つの尺度で、教員が職場でどういう意識で働いているかを捉えていく。 前者では「自律的に学び、教員として成長していこうとする意欲とその行動」を、後者では「教育課題や悩みなどの共有、相互に協力してきた組織的な取り組み」を把握するための質問が16項目ずつ用意されている。

その質問に対して教員は自身の意識を1(全く当てはまらない)から5(とても当てはまる)の5段階で回答する。結果は、各教員のそれぞれの尺度の合計ポイントを求めてグラフ上に点(ドット)で表す。そしてその点の散らばり具合から、学校の教員集団の状況を把握するいわば「教員版QU」である 。

意外な結果 自主・向上性

前原小の校長職にあった最後の最後(2019年3月)にこのアンケートを実施した。筆者の管理職としてのリーダーシップ発揮が所属教員一人一人にどのように映り、その教育実践にどのような影響を及ぼしていたのかを把握したかったからだ。

結果は、「同僚・協働性」が低く、建設的な教員組織の図ではなかった。しかし、教員個々の「自主・向上性」が高い。ということは、教員たちには「意欲がある」「やる気がある」ということだ。

筆者のリーダーシップを知る方の多くは、その経営ぶりから縦型の教員組織図(教員は指示のもとに教育活動は行うが、どちらかといえば「やらされ感」がある、硬さのある組織)になっているのだろうと容易に想像する。「ICTを使え」という締め付けが厳しく、教員はそう思っていないのに「校長が『やれ』といったからやっている」という感じに受け取られてきたと思う。

しかし、結果は予想に反して、横型組織だった。これは教員が自分からさまざまにチャレンジしようという意欲の表れにほかならない。

教育実践の組織化に大きな課題がある一方、「自主・向上性」が高いのはなぜか。

それは、ICTをインフラとして当たり前に活用する教育実践に対する手応えを、教員たちが感じ取ったからだ。最初は筆者からの指示で見当もつかないままICTを活用していたのかもしれない。しかし、そのインフラ化による教育実践を積み重ねることで、少しずつ子供たちの「学び」の変化に気付いていった。その事実が、一人一人の教員に「ICTはインフラ」という方向性において、Society5.0をしなやかに生きる資質・能力を育むための最適解を見いだせると感じさせたからだ。

管理職は今こそ、 学校の使命と性善説という二つの命題を真であるとして、「ICTはインフラ」という方向性を示し続け、教育実践の内実を高めるとともに組織化を図る手腕が求められている。大局観をもった率先垂範がその第一歩だ。

※1 河村茂雄著『学校管理職が進める教員組織づくり』図書文化社(2017)

※2 QUアンケート 標準化された心理検査。子供たちの学校生活における満足度と意欲,さらに学級集団の状態を調べることができる。


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