3.11から10年 「次の10年に向けた宿題」は何か(藤川大祐)

千葉大学教育学部教授 藤川 大祐

突出した被害の後、多くの課題が

2011年3月11日の東日本大震災発生から、まもなく10年となる。日本では、1959年に5000人以上が亡くなった伊勢湾台風まで毎年のように多くの死者が出る自然災害に見舞われていたが、1960年以降は二つの例外を除いて1000人以上の死者が出る自然災害はなかった。二つの例外というのが、1995年の阪神淡路大震災(死者6000人以上)と2011年の東日本大震災(死者・行方不明者2万2000人以上)である(参考:令和元年度版防災白書)。

この10年でも、地震、水害、雪害などの深刻な被害が出ているものの、東日本大震災の被害の規模は突出している。教育に関連しても、「大川小学校の悲劇」と言われる石巻市立大川小学校で多くの児童や教職員が亡くなった件や、市内の小中学生がほぼ全員津波から避難することができた「釜石の奇跡」のように、学校における防災への教訓にしなければならない事柄がある。

また、福島第一原子力発電所の事故は、日本で進められていたエネルギー政策の在り方を抜本的に問い直すものであり、次代を担う子供たちに、エネルギー政策に関する意思決定を行う能力をいかにして付けていくかが課題である。さらに、復興が進む一方で人口減少が続く被災地にあって、どのようにまちづくりを進めていくかも課題だ。

全国の子供たちに震災を学ぶ機会を

東日本大震災から10年となるこの機会に、いまだ解決していない課題をあらためて確認し、次の10年に向けて何ができるかを考えておきたい。本稿では、特に2点について述べたい。

第一に、震災を知らない世代への伝承である。震災から10年が経過し、小学生はもちろん中学生でも、震災当時の記憶がほとんどない状況となっている。学校教育においては、震災を忘れないことでなく、震災を伝承することが課題となっている。

東日本大震災に関しては、東北地方の太平洋側にどのような地理的特徴があるのか、原子力産業や漁業がどのような状況であったのか、地震のメカニズムはどのようなものであるのかなどを背景知識とした上で、大地震によってどのような被害が生じたのか、亡くなった方はどのようにして亡くなったのか、避難生活はどのようなものであったのか、復興はどのようになされているのかなどを子供たちに知ってもらいたい。震災遺構や伝承館などを訪れる修学旅行を、多くの学校で実施してほしい。そうしたことを行った上で、今後の防災や被災地の復興にどのように取り組むのかを考える学習が求められる。

1945年に第二次世界大戦が終結し、戦後から高度経済成長へと時代が進む中で、1970年に発売された「戦争を知らない子供たち」という歌が象徴するように、戦争に関する伝承が問題となった。そうした中でも、学校教育において国語や社会科などで戦争に関する内容が扱われ、広島や長崎への修学旅行がなされるなど、学校教育が戦争に関する伝承に果たした影響は大きかった。家庭や地域社会において、戦争や災害などのつらい事柄については、記憶のある人が話しにくかったり、子供たちが聞きたがらなかったりして、どうしても伝承が難しい面がある。現状では学習指導要領において東日本大震災に関する伝承が十分に位置付けられているとは言えないが、これからの10年の中で、適切に位置付けられ、全国の子供たちに学ぶ機会が設けられることに期待したい。

意思決定を担える主権者の育成を学校教育で

第二に、エネルギー政策に関して意思決定できる主権者の育成に関してである。

東日本大震災における原発事故以降、全国の原発が停止され、新たな基準を満たした発電所のみが再稼働する状況が続いている。新エネルギーへの以降は進まず、日本の電力需要は火力発電への依存が強くなっている。火力発電への依存は、化石燃料の枯渇を早めるという意味でも、地球温暖化につながる二酸化炭素の排出を進めるという意味でも問題である。

他方、原子力発電については、福島第一原発の事故で安全性に関する信頼が大きく揺らいでいる。そして、発電所から出る放射性廃棄物を再処理してプルトニウムなどを取り出すとともに、それでも残る高レベル放射性廃棄物を地層処分することなどの核燃料サイクル政策が掲げられているものの、プルトニウムを発電に使うプルサーマル計画や高速炉の計画は進まず、高レベル放射性廃棄物の最終処分場がなかなか決まらないなどの課題がある。

こうした状況を踏まえると、今後、社会を持続可能なものとするためのエネルギー政策の在り方については、さまざまな困難が予想され、政治的意思決定が重要性を増すものと考えられる。原子力発電が是か非かというような単純化された意思決定ができればよいということではなく、次代に向けてバランスのとれた賢明な意思決定が求められる。学校教育においては、こうした意思決定を担える主権者を育成することが重要だ。エネルギー政策に関して探究的に学び、今後の在り方について検討できるような教育を、これからの10年においては進めることが求められる。


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