書籍『北欧の教育最前線』 海外から貪欲に学ぼう(鈴木崇弘)

城西国際大学大学院研究科長・特任教授 鈴木 崇弘

教育新聞の人気連載「世界の教室から 北欧の教育最前線」で、絶えず興味深いレポートを書き続けている「北欧教育研究会」が、それら連載記事を核にした興味深い一冊『北欧の教育最前線-市民社会をつくる子育てと学び』(明石書店)を出版された。同研究会と本紙との関係を構築するきっかけをつくった者としても感無量だ。近年は北欧(同書では、北欧は主にスウェーデン、フィンランド、ノルウェー、デンマークを指している)の教育が、その大きな成果とユニークさから、日本でも教育における目指すべき理想として注目を集めていることもあり、本書は非常に興味深い。

北欧の教育から学べること

本書がユニークなのは、単なる北欧における教育研究者による記事の集大成ではなく、メンバーの多くが現地で子供たちと生活を営み、現地の教育を体験していることにある。実体験を織り込みつつ、簡潔に3~5ページでまとめていて、一味も二味も異なるスパイスが効いている。

本書では、北欧の教育における次のようないくつかの特徴を論じている。

  • 必ずしも理想的なものとはいえないが、絶えず理想を目指し、議論し、実践し、改善し続けている
  • 国々によって異なっていて、一様ではない
  • 民主主義や個人主義が貫徹され、個々人への対応が重視されている
  • 教育のステークホルダー全体への最適解を求めようとしている
  • 子供の視点につながるという一貫性がある
  • 教育者は、プロフェッショナルの仕事である
  • 社会には学校以外にも、さまざまな教育の社会インフラや仕組み・人材(例えば、メーカースペース、ユースセンターなどのインフラや、教育に関わる多様な専門家)が存在し、教育が学校の教師に丸投げにされてはいない
  • ICTやテクノロジーなどが、教育の中で多様に生かされている(例えば生徒個別対応や学校と保護者とのコミュニケーション、ネットワークの仕組みなど)
北欧も試行錯誤

本書を読んでみると、北欧の教育も決して完璧なわけではなく、試行錯誤し、悪戦苦闘していることが分かる。また逆に、スウェーデンからの教員団が2019年6月に訪日し、日本の算数・数学教育から多くを学び、自国の教育に生かそうとしているというエピソードもある。このように、本書は北欧の教育を単に礼賛しているものではない。

やや蛇足になるが、同研究会には、若い教育研究者の方々が多いので、老婆心ながら申し上げたいことが2点ある。まず本書は、北欧の国々のさまざまな記事が教育項目別に分類されているので、国々間での教育事情や状況における共通部分と相違部分が見えにくくなってしまっているように感じる。

もう一点は、1つの項目が短い記事にまとまっているのは利点だが、深掘りしたい際の参考文献などのリストがあると、さらに良い書籍になるだろうということだ。

とはいえ本書は、日本にはなく、北欧に存在するさまざまな教育インフラ・仕組みや試みが、簡単に分かるようになっている。しかも、そのうちのいくつかは、各学校や各自治体などが今すぐにでも参考にできそうだ。

日本は歴史的にも何度も、海外の仕組みや知見を貪欲に学び、社会を発展させ、国際社会の中で生き残り、他国に伍して発展してきた。しかし近年は、国際社会における存在感が急速に低下してきている。

その意味からも、日本は今一度、海外から貪欲に学んで、今後の教育や社会の可能性を模索すべきだ。本書は、そのことも私たちに問い掛けているように思う。

日本社会も学ぶことができる

北欧の国々はたくさんの移民や難民などを受け入れて多様化し、多くの問題・課題も生まれているが、多様性があるゆえに国際社会において、その存在感を発揮している。そこで重要な役割を果たしているのが実は教育であることも、本書から理解できる。

コロナ禍でやや半端な状況にあるが、入管法の改正で今後、より多くの外国人が日本社会で生活する可能性が高まっている。これは日本が再びダイナミックに発展できるチャンスだ。その可能性を生み出していく上で、教育がどのような役割を果たせるか、北欧の先例からいろいろ考えられる。

このように本書は、教育ばかりでなく、社会の在り方についても多くのことを学べる。ぜひ多くの方々に読んでいただきたい。お薦めである。


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