35人学級 学校現場に突き付けた2つの課題(斎藤剛史)

教育ジャーナリスト 斎藤 剛史

小学校で「35人学級」が実現することになった。これにより追加される教員は、定数上、合計1万3574人に上る。学校現場としては、これで人手不足が解消されると安心していることだろう。しかし、実際に人手不足が解消されるかどうかは不透明な上に、学校現場はより重い課題を少なくとも2つ負うことになった。

35人学級になっても教員の人数は増えない

文科省の資料によれば、35人学級を2021年度から5年計画で実現するため、合計1万3574人の定数改善をする予定だ。初年度の21年度は744人増にとどまるが、22年度以降は毎年度3000人以上の定数改善が行われる。喜ばしい限りだが、21年度の予算資料をよく見ると、公立小中学校の教職員定数は、3141人増、3615人減で、差し引き474人減とマイナスとなっている。その理由は、児童生徒減少による教職員定数の自然減や配置見直しによる定数減が大きいからだ。

そもそも小学校の35人学級を5年間で実現する計画は、教職員定数の自然減などを活用することで、大幅な教員増を必要としないことが前提となっている。つまり、学校現場にとっては、35人学級の実現で、大幅に人員が増えるという状況は到来しない。都市部の一部の小学校では人員増もあるかもしれない。しかし、ほとんどの小学校現場では、人員は今より「減らない」という程度が実際のところだろう。それでも、教育関係者の悲願であった学級定数の引き下げには、大きな価値があることは間違いない。

問われる探究学習の成果

その一方、学校現場は、35人学級の実現により、大きな課題を負った。その一つは、新学習指導要領の柱である「主体的・対話的で深い学び」(アクティブラーニング)の確実な実施だ。

学校現場は現在、GIGAスクール構想の前倒しによるICT環境の整備に関心が集中している。しかし、オンライン対応に追われ、しかも子供たちの「3密」回避を理由に、探究学習の取り組みがおろそかになってはいないか。3密回避で、グループワークやペアワークなどの学習形態が取れず、探究学習が難しいという話は、コロナ禍以来、よく聞く。

35人学級が実現して、1クラスの児童数が減少すれば、学級経営は楽になる。恐らく、担任の指導もよく通るようになり、授業もしやすくなり、学力も上がるかもしれない。だが、35人学級によって、画一的な一斉授業の効率が上がり、学力テストの平均点がアップしたとすれば、それはたちの悪いブラックジョークだ。

35人学級の目的は、クラスサイズを縮小して、アクティブラーニングや探究学習をより効果的に実施するためであることを忘れてはならない。35人学級の実現によって学校現場は、いま以上に探究学習に取り組み、その成果をあげるという課題を突き付けられている。

働き方改革が学校現場の将来を左右する

2つ目の課題は、学校の働き方改革だ。先ほど、35人学級でも学校現場の人員は増えないと述べたが、実際には、ベテラン層の大量退職が続き、それに35人学級による1万人以上の教員増が加われば、今後、今まで以上に新規採用教員の数が必要となる。

ところが、19年度の小学校教員採用試験の競争倍率は2.8倍で、前年度の3.2倍を大きく下回り過去最低を更新した。競争倍率が2倍を割る都道府県も増加している。また、採用試験全体の応募者も減少の一途をたどっており、このままでは、深刻な教員不足と、新規採用教員の質の低下を招くことになる。

これまでも教員不足を指摘する声はあったが、その実態は臨時任用や非常勤など、あくまで「非正規教員」の不足だった。しかし、35人学級の実現によって、「正規教員」が不足する事態が起こるかもしれない。

大学生などの「教員離れ」の原因は、学校現場が際限のない長時間勤務が横行する「ブラック職場」であることが、社会一般に知れわたったためだ。教員になりたいという意欲のある者だけ来ればよいなどと、もう言ってはいられない状況なのだ。

学校の働き方改革はこれまでも叫ばれてきたが、実際の学校現場では、働き方改革を主張する者を白眼視したり、多忙のあまり、本気で取り組むことをためらう傾向がなかっただろうか。

しかし、働き方改革は、もう自分たちだけの利益のためのものではない。将来の学校現場を救う未来のための課題なのだ。

35人学級の実現に水をかけるようで恐縮だが、「主体的・対話的で深い学び」と学校の働き方改革の2つが、大きな課題として学校現場に突き付けられているといえよう。


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