GIGAの山を登る④「朝ノート」:学級作りの効用(松田孝)

合同会社MAZDA Incredible Lab CEO・東京都小金井市立前原小学校前校長 松田 孝

StuDX Styleの「朝ノート」

「朝ノート」の実践は文科省のStuDX Style(1人1台端末の活用方法に関する優良事例や本格始動に向けた対応事例などの情報発信・共有サイト)にも紹介されている。そこでは「教師と子供がつながる」事例として掲載され、アドバイザーからは以下のコメントが付されている。

「朝の健康観察の場面で活用することで、毎日自分のIDでログインし、情報端末を操作する機会ができます。各種ソフトの操作方法や文字入力に慣れる機会としても有効です。仮に、オンライン授業など、家庭からアクセスする場合でも同じ方法で実施できます。」

果たして「朝ノート」は操作スキルなどの習得以上に、「主体的・対話的で深い学び」の基盤としての学級集団づくりに極めて有効な教育活動であることを、以下に紹介したい。

そしてその教育的効果と価値を読者の方々と共有して、この4月から、GIGAスクール構想の具現化のための第一歩として多くの学校現場で実践されることを切望する。

「朝ノート」実施のきっかけ

「朝ノート」は筆者が東京都小金井市立前原小学校の校長職にあった時、学習支援システム(schoolTakt)の一覧機能を活用することで行った「朝の会」の取り組みそのものである。「朝ノート」はICT活用の日常化を促すのみならず、子供たち相互の豊かな関係性を構築するものになると考え、職員会議で教員に伝えたところ、この考えに共感、賛同した教員たちが推進していった取り組みである。

 

その動機となったのが、2018年6月に行った心理検査「WEBQU」の結果だった。全学年17学級中、「不安定」や「ゆるみ」の状態を示す学級が半数近くあった。中には「学級の荒れ」を示すプロットも見られた。

「WEBQU」は、標準化された心理検査「Q-U」アンケートのWEB版である。「Q-U」はいじめ・不登校への対応、そしてインクルーシブ教育の推進など、今の教育課題解決の糸口になるものとして全国の多くの学校で実施されている。

現状を改善しなければ、という危機感が「朝ノート」の取り組みにつながっていった。

「WEBQU」結果の分析

所属教職員の様子を見れば皆、一生懸命に教育活動を推進している。にもかかわらず、この結果。改めて「WEBQU」の質問項目を読み直してみれば、そこには「クラスには」とか「クラスの人は」という文言を含んだ質問項目がいくつもあって、クラスという範囲の中で、子供たち同士の関係性を尋ねる質問から構成されていることが分かる。

新年度当初、多くの教員はクラスを集団としてその統率(もしかすれば統制)を最優先に教育活動を進めている。学習指導要領に定められた教育内容を、各学校が編成した教育課程にのっとり確実に、そして集団として円滑に実施することが最優先される。

年度初めの学級集団づくりは、第一に集団統率のためのルールの徹底が優先され、子供たち相互の関係作りが不十分なままに展開されるという問題をはらんでいることに気付いた。

ひらめき

ならば、学習支援システム(schoolTakt)が活用できる。その一覧機能が子供たち同士の関係性の構築に活用できる。そしてその場は「朝の会」。

一日の学校生活の始まりの時間として特に学習指導要領上の定めはないが、特別活動や生徒(活)指導の側面から重要な時間として全国の学校で行われている。この時間にschoolTaktの一覧機能や「コメント」機能、「いいね」ボタンを使って、子供たちの体調や気分を記入させ、お互いに励ましあったら面白い、すてきな関わりが生まれるとひらめいた。

「朝ノート」が描く朝の教室風景
8時15分
  • 児童が登校し教室に入る
  • ランドセルなどから学習用具を机にしまって、情報端末を準備する
  • 情報端末を起動、ログインして、schoolTaktを開く
  • それぞれの体調や気分、今日の学校生活に対する期待、近況などを書き込む
8時30分
  • schoolTaktの一覧機能で、相互の状況を共有し交流
  • 友達の記述内容を読み、コメントを書いたり、いいねボタンを押したりする
8時35分
  • 担任が子供たちの「朝ノート」の記述内容を基に、1日の予定を確認
  • 学校生活に対する見通しと意欲を喚起
8時45分
  • 1時間目の授業開始
エビデンス1(学級状況の変容)

12月、2回目の「WEBQU」を実施した。「朝ノート」は基本文字入力で行うため、3年生以上の学級で実施してきた。11学級中「WEBQU」結果が向上的に変容した学級が5学級あったが、そのうち4学級は「朝ノート」に取り組んだ学級だった=表1参照。

朝ノートを実施したにもかかわらず、学級状況が向上的に変容しなかった学級が3学級あるが、その実施回数(4月~12月)を比較すれば「向上的変容」が見られた学級との実施回数の差が30回以上あったことが分かる。(+群:96.3回、±/-群:63回)

エビデンス2(児童の変容)

また朝ノートを実施した学級群と実施しなかった学級群とでは、満足群、要支援群、不満足群に所属する児童の割合変容が、真逆の結果として表れている=表2参照

朝ノートを実施した学級群では満足児童の割合が向上し、要支援群および不満足群に所属する児童の割合が減少するという好ましい結果を示している。これに対して実施しなかった学級群では全く逆で、その変容を見れば明らかに好ましくない傾向が表れている。
これは「朝ノート」の実施が児童相互の関係性を築き、一人一人が安心して学校生活を送ることができるようになった証左であると考える。

エビデンス3(相互交流で関係性を築く)

表3は朝ノートを積極的に実施した2学級の1学期と2学期の児童相互のコメント回数、いいね回数、閲覧回数を示している。

この表を見れば 、A 組では1学期にコメント、いいね、閲覧の回数が合計212回であったものが、2学期は取り組みが活性化して総計6416回行われたことを示している。

朝ノートにおける児童のコメント、いいね、閲覧回数は間接的ではあるが、まさに児童相互の関わりの事実である。

朝の会の時間わずか15分程度の時間で、直接的には実現不可能な数多くの関わりの事実を築くことができる。従来 ICT を活用しない朝の会で果たしてこれだけの関係性を量として築くことは不可能である。

そしてこの行為は単なる表面上の関わりではなく児童一人一人が友達と関わりたいという意思を持った行為であり、それは閲覧行為にその意志を如実に読み取ることができる。

「朝ノート」の教育的価値

この年の3学期、1カ月間行った「朝ノート」を児童に読み返させ感想を記述させた。すると「普段話さない人とも喋ることができた」「コメントをもらうと、めっちゃうれしかった」などという直接的な感情を吐露する振り返りとともに、ソーシャルスキルの配慮に関わる振り返りもたくさんつづられていた。

「元気のない人にコメントしたりして、交流を深めようとした」「皆の様子を聞かずに把握できるから、具合の悪い人に気を使ったりできる」

さらにはリーダーシップの萌芽(ほうが)を感じさせる振り返りを読んだ時は、「朝ノート」の効果を確かに感じることができた。

「3学期はクラスを盛り上げる発言をして、いろんな人の良いところを見ていきたい」

「朝ノート」は、人間の基本的な欲求である承認欲求が動機となり、その実践が継続されることによって児童相互の関わりを生み出し、その関係性構築によって集団づくりを促す極めて教育的価値の高い実践である。

本実践の詳細については、『早稲田大学大学院教育学研究科紀要』別冊27号-2に「『主体的・対話的で深い学び』の基盤としての学習集団づくり」として論文が掲載されている。


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