直接請求不正署名問題 学校教育に責任はないのか(工藤文三)

教育新聞論説委員 工藤 文三

県知事リコールの不正署名問題

愛知県知事のリコール(解職請求)署名が昨年8月に開始され、11月に署名簿が愛知県選挙管理委員会に提出された。その後、今年2月1日に同選挙管理委員会は、署名簿の調査の取りまとめ状況を発表した。

その結果、調査を行った全43万5334筆のうち、有効と認められない署名が36万2187筆(83.2%)あった。有効でない署名の内訳は、同一人によって書かれたと疑われる署名が約90%、選挙人名簿に登録されていない者の署名が約48%、選挙人名簿に登録されていない受任者によって収集された署名が約24%となった。

その後調査を進めた同県選挙管理委員会は、2月15日に、「本人以外の者によって大量の署名が偽造された疑いがあると判断し」、愛知県警察本部に告発状を提出した。同県選挙管理委員会委員長談話には「こうした行為が実際に行われていたとすれば、民主主義の根幹を揺るがすことにつながりかねず、看過できない」としている。その後、県警は2月24日に地方自治法に定める署名偽造の疑いで、自治体の選挙管理委員会から署名簿を押収している。

また、署名の代筆行為は、広告関連会社を経由して佐賀県内でアルバイトを雇用して行われたとの報道がなされた。

「おかしいとは思ったが」でよいのか

この問題はいずれ県警の捜査によって明らかにされると思われるが、代筆偽造が事実とすれば、委員長談話にあるように「民主主義の根幹」に関わる重大問題と言える。事実の経過は今後の解明を待つしかないが、アルバイトによって代筆偽造をさせようとした者の責任が最も大きい。それでは代筆偽造の作業をしたアルバイトの場合はどうか。「名簿を書き写す」仕事と理解して求人に応じたと思われるが、実際の作業の現場では、それがリコールの署名であることは分かったのではないだろうか。

このようなことは、分業化した今日の社会では、他の分野でも起きかねない事態である。「おかしいとは思ったけれど、仕事として指示に従ってやった」という事柄は、現代社会ではあちこちに存在している。ただ、果たしてそれでよいのだろうか。

学校教育の役割

このような民主主義の原点に関わる問題は、学校における学習で防止できたであろうか。学校における教育に責任はないのであろうか。さまざまな社会問題の責任が全て学校教育にあるとするには無理が伴う。ただ、関連する知識とその意味をしっかり理解させておくことによって、事柄に直面した時に何が問題なのかといった感覚を養うことが可能なのではないか。

直接請求の制度は、代議制を補うものとして、特に地方自治において重要な制度であり、地方自治法で定められている。直接請求の制度には、条例の制定・改廃請求や事務の監査請求、議会の解散請求、議員や長、主要公務員の解職請求が設けられている。『地方自治月報』によると2014~17年度の実施件数は、条例の制定・改廃の直接請求が最も多く、解職請求は計12件となっている。また、住民投票についても、憲法、法律、条例に基づく制度があり、住民の政治参加の形態として役割を果たしている。

学習指導要領では中学校社会科公民的分野の「(2)民主政治と政治参加」において、「地方自治の基本的な考え方」および「地方公共団体の政治の仕組み、住民の権利や義務について理解すること」と示している。教科書においては、中学校社会科、高校公民科とも直接請求および住民投票の制度を記している。

一方、選挙権年齢が18歳に改められて以降、特に主権者教育の充実に向けた取り組みが行われている。社会参加や社会形成の主体の育成、政治的リテラシーを育てることなどが目指されている。

これらを踏まえた時、今回のような事態はどのようにしたら防ぎ回避することができるのであろうか。やはり制度の意義についての知識やそれが民主主義にとって重要であるという感覚であると考える。社会科、公民科を中心に実施されている政治学習や主権者教育において、民主主義を支える制度の意義や価値について確実に理解させることが必要と考える。


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