選挙がきっかけでもいい こども庁創設が必要な理由(鈴木崇弘)

城西国際大学大学院研究科長・特任教授 鈴木 崇弘

自民党議員有志が4月1日に、菅義偉首相に、複数の省庁にまたがる子供に関する政策を一元化する「こども庁」創設に関する緊急提言を出した。実は菅首相はすでに、3月21日開催の第88回自民党大会で「私自身、何としても進めたいのが、未来を担う子供たちの政策です」と主張している。

提案の背景

このように見ていくと、縦割り行政打破という菅政権の重要案件にも合致し、はじめから菅首相と党(特に二階俊博幹事長)からの指示があったか、あるいは連携を取って動いていた節がある(追記1)。

また、この提案の基になった勉強会は、今年2月から始まり、8回の会合(3月16日)を開催して、提言を策定し総理に提案、その後も会合(4月6日に9回目の勉強会を開催)を重ねている。そのことからも、本気度は伝わる(追記2)。

菅政権の目玉である「デジタル庁」関連法案の国会通過も確実となったが、コロナ禍対応などで、支持率は依然として低迷している。東京五輪・パラリンピック大会の開催も、さまざまな問題からいまだ不透明。他方、衆議院選挙は秋までに確実に実施する必要がある。

「こども庁」創設という構想は、以前から何度もあったものの、これまで実現することはなかった。しかし現在の政治的文脈・状況の中で、総裁選の前に選挙に勝って、菅降ろしを封じ込めるための政策アドバルーンとして、総理周辺から急浮上したようだ。

それを踏まえると、来る総選挙の政権公約に必ずなりそうだ。また菅首相は、公明党ともパイプが太いが、公明党もこの政策は内容的に賛成しやすく、総選挙を共に戦えることになるだろう(追記3)。

なお、そのように考える報道や「子供を政争の具にするな」との意見があるのも事実だ。

こども庁創設が必要なわけ

他方、日本は2016年の児童福祉法などの改正まで、子供は親の従属的存在で、その人権が認められてこなかった国だ(追記4)。

だからこそ、「こども庁」創設構想が何度も浮上しながらも、実現に至らなかったといえよう。

また、「子供は日本の未来」というスローガンはよく言われる。だが昨今の、子供の相対的な貧困率増加の問題、少子化問題、子育てや教育におけるさまざまな問題、高齢者増加の中で政治や政策における若い世代への関心・重要性の低さなどを考えると、スローガンや理想と現実には大きな乖離(かいり)がある。

筆者としては、そのギャップを埋めるために、今こそ、子供を大切にする対応が必要であり、それを象徴するとともに、それに対応できる政府機関が必要だと考えるところである。

その考えは、本件に関するEdubate(【教員×投票】「こども庁」の創設 賛成?)で、約半数の方々が、「こども庁」創設に賛成していることとも符合すると感じる。

新しいものを創設するには

しかし日本は、縦割りに機能しがちな行政の力が強く、新しい変化を生みにくい政治制度なので、その創設の実現は簡単でない。その意味で、大義はともかく、タイミングやモメンタム(勢い、はずみ)が非常に重要だ。
今回の創設の動きが、たとえ「政治に使われている側面」があるにしても、今回のようなモメンタムを利活用して、創設させてもいいのではないだろうか。

創設の後の対応と考えておくべきこと

他方、いくつかの気になる点もある。政治家は新しいものをつくることには関心があるが、それを維持・成長させることにはほぼ関心がない。そして、つくられた組織や政策・法律を執行するのは、行政だ。行政の役所は、基本的に「こども庁」のような政策横断的な組織ができることを、自分たちの仕事が奪われる可能性があるので、基本的には嫌がるものだ。または自省庁の権益拡大に利用しようとする。

しかも、新しい庁などができる場合、基本的には関連省庁からの出向者で構成されてつくられるが、その出先組織内での出先元の主導権争いなどが起きる。そして、そのような組織がつくられ、その後プロパー職員の採用が行われるだろうが、その人材は当分(恐らく数十年にわたり)、組織内でマイノリティーであり、主導権はとれない存在だ。

つまり、たとえ新しい庁ができても、実はなかなか、その対象の政策や対応は一元的、主導的にできないのだ。

また、予算や人員を実際に「真水」としてどのくらい持て、その采配権限がどうなるかにもよると思うが、「こども庁」は全国の子供たち全員を見ることになるだろうし、その現場はあくまでも自治体やその関連組織によって対応されることになるだろう。

それを考えると、限られたキャパの中でどれだけの対応ができ、全国の各自治体と相互に連携・協力して、子供の実態などを的確かつ柔軟に、そして具体的に対応していけるかが勝負になろう。そのためには、庁創設の本来の趣旨を理解し、それを柔軟かつ臨機応変に政策的に対応できる出向人材を集結できるかが重要になる。

そのような状況を考えると、その庁や自治体などの動きをモニタリングし、時に促進し、時に抑制したりして、フォローアップしていくことも必要だ。そのような活動ができるのは、政治の力を借りたり、利活用したりして動ける市民なり国民(含む専門家・有識者、市民グループなど)やメディアであることも忘れてはならない。

以上のことからも、この「こども庁」の議論が今後どうなるかと、創設された場合はそのパフォーマンスにも注目していく必要がありそうだ。

(追記1)(追記2)とも関係するが、同提言には若手議員が関わり、その中心の山田太郎議員らは自民党デジタル社会推進本部にも関わるメンバーが多い。もう一人の中心の自見はなこ議員は二階派であることからも、この提案の意味合いが分かるところだ
(追記2)この提案作成の勉強会の中心は、山田・自見両参院議員であり、同提案関連の「こども庁の創設に向けた特設ページ」は自見議員が山田議員と協力して、個人的に運営しているようで、自民党全体の動きにはなっていないようにも感じる。また提案を見ると、全体のメッセージと個別の提案はあるが、社会全体の子供政策を大きく変えていく施策は、「こども庁」創設以外にはあまりないような感じがする。

(追記3)この提案は内容的にも、野党も反対しづらいし、本来なら野党が政策提案すべきもので、デジタル庁創設の次の目玉政策として筋は良いと考えられる。

(追記4)『「真に」子どもにやさしい国をめざして…児童福祉法等改正をめぐる実記』(塩崎恭久著、未来叢書、2020年)参照。

※追記 本稿の執筆において、政策づくりや政治状況にも詳しく、大学で教壇に立ちながら政策コンサルタントも務める黒澤武邦氏にアドバイスをいただいたので、感謝したい。


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