「採用段階で教員免許は不要」 教員志望者を増やす私案(鈴木寛)

東大・慶大教授 鈴木 寛

長年、先送りされてきた教員制度改革がいよいよ動き出した。教員制度改革の最も重要なテーマは、教員志望者が激減しており、それが教員の質の低下に直結しかねない、ということにある。背景には民間企業との採用の競合があるのだから、教員の採用について、もっと根本的に考え直さなければならないのだが、この点で教育関係者の認識はまだまだ甘いと言わざるを得ない。そこで私案として「教員免許を取得する前に、自治体が採用を決める」ことを提案したい。実現すれば、民間企業に流れている優秀な学生たちが学校現場に戻ってくるに違いない。

教員のウェルビーイングを高める道筋

順を追って説明したい。いい先生を集めるためには教員のウェルビーイング(幸福感)を高めないと、当然いい人材は集まってこない。教員の仕事は非常に高度であって、教員本人のモチベーションがなくてはならないし、周囲のリスペクトを得られることも重要だ。これはどうしても「多忙」の話になるが、より本質的に考えると、「多忙」よりも、「多忙感」をどう改善するかが大事だと思う。

教育にはいろいろな立場の人が関わっているが、常に子どもたちの立場で考えることが王道のはず。ところが、教員はいま、子どものため以外に費やしている時間が多い。例えば、教育委員会のための時間とか、いわゆるモンスターペアレンツ問題など過剰な保護者対応の時間があり、これが教員にとって「多忙感」を生む原因になっている。

こうした「多忙感」は学校と教育委員会のマネジメント次第で、かなり改善できる。教育委員会は自己目的化してしまった過剰な制度やシステムをもっと簡素化しなければならない。モンスターペアレンツ問題では特別な対応能力を身に付けた管理職を各学校に配置し、さらに教育委員会がスクールロイヤーとして専門の弁護士などと契約して、学校現場をサポートするのがいい。

子どもたちのために研さんし、子どもたちのために悩み、そうやって子どもたちのためにいろいろな時間をかけるのは、これは教員にとっては喜びだと思う。それはいささか「多忙」であっても、「多忙感」にはならない。あの手この手を尽くして、一般の教員がもっと目の前の子どもたちに集中できるようにする必要がある。

そのために、文科省は「人材確保・質向上プラン」で既存の制度の枠内でできる対応については、ある程度着手しているし、各地の教育委員会の中には取り組みを始めているところもある。さらなる制度やシステムの見直しが必要なところについては、萩生田光一文科相が3月、教員の養成・採用・研修の包括的な見直しを中央教育審議会(中教審)に諮問。中教審は初等中等教育と高等教育を横断的に取り扱う特別部会の設置を決め、教員免許更新制の見直しを先行させようとしている。

これらはどんどん進めればいいことだが、教員制度改革で取り組むべき最大のテーマは教員志望者が激減している現状を食い止め、いかに好循環を取り戻すかにある。そのためには、教員採用の仕組みをもっとちゃんと見た方がいい。結局一番の問題は、教員採用選考試験への応募者数が減っているということ。ここの分析が世の中は甘いと思う。

民間企業との競合を直視せよ

教員採用選考試験の応募者数を回復するためには、詰まるところ、民間企業の採用との競合をもっと意識しなければならない。就職活動はかつて経団連がコントロールできていたけれども、今は外資系企業がある。経団連がいくら就職協定を結んでみても、学生からみれば2年生、3年生から外資系企業のインターンが始まる。外資系が動けば、日本の企業だって、いろいろやらざるを得ない。そうすると、学生はみんな浮き足立つことになる。

こうした民間企業の採用との競合について、いまの教員採用の仕組みは何も考えていない。ここに問題があることを、教育界はちゃんと発見しなければならない。

まず教員採用のスケジュールを考えてみれば、4年生の5月6月に教育実習をやっているが、ほとんどの民間企業では6月1日に内定が出ている。そのときに、教育実習に行く人は、民間企業の内定が出てない人か、あるいは親兄弟や親戚が教師をやってきた教員一家で絶対教員になりたい人ばかりになってしまう。親が民間人だったら、民間企業の内定が出た段階で「それでいいじゃないの」という話になる。

この問題を解決するためには、採用段階での教員免許所持を不要にすればいい。または、教員免許を持っていない志願者のための採用枠を設ければいい。そうすれば、民間企業との採用の競合に対抗できる可能性が増える。これが私の提案だ。

教員免許をなくせといっているのではない。教員免許をもって採用された者はすぐに教壇に立てばいいし、教員免許がないまま採用内定が出た学生は、教員免許取得に必要な単位を4年生の秋から取り始める。4年生の後半から単位を取り始め、採用後1年から2年をかけて必要な単位を取得すればいい。その分、教員免許をもっている同期よりは教壇に立つのが遅れることにはなる。

都道府県の教育センターと教職大学院は共同で、免許をもっていない採用者への教員免許取得プログラムを設置する。採用された者は都道府県の教育センターに身を置きつつ給料はもらいつつ、教職大学院などで免許に必要な単位を取得できるようにすればいい。

2019年度の教員採用選考試験で小学校の採用倍率が2.7倍と過去最低を記録したが、教育に関心のある学生は増えている。教育系のベンチャー企業や教育産業に就職する人たちは決して減っていない。1年生のときには教職を取らないと決めていた、または、1年生のときは教員免許を取り始めたけれど3年生でやめた学生が、けれども、4年生になって「やっぱり、教員もいいかもしれない」と思う人もいるかもしれない。採用段階で教員免許が不要になれば、そういう人も応募できる。同期よりも遅れるのが嫌であれば、4年生で頑張って一気に単位を取得することもできる。

要は、学生に対して、教員になるためのルートを増やしてあげることが大切なのだ。そうすれば、応募者数は直ちに増えるだろう。

中途採用の増加にも効果あり

教員免許がなくても採用できるようにすれば、教員採用選考試験の応募者が増えるだけではなく、ほかにもさまざまなメリットが期待できる。

一つは学校現場の教員たちを悩ませている「実習公害」の改善がある。将来、学校現場で同僚になってくれる人のためなら、教員たちは先輩としてちゃんと指導するし、それを過剰な負担だとは思わないだろう。ところが、現行制度では、教員になるかならないか分からないけど免許だけは取っておこうという学生が多い。そうすると、将来教員になるつもりはないけど、教育実習は受けるというケースが出てくる。それが「実習公害」になって、現場教員たちにとっては負担が大きくなっていく。先に採用を決めて、本当に教員になる人だけが、内定後の秋に教育実習を受けるようになれば、現場教員の負担感はなくなる。

もう一つ、新卒採用だけではなく、中途採用の問題が大きく改善されることも指摘しておきたい。今、学校現場では、どうやって中途採用を増やすかが大きな課題になっている。社会でいろいろな経験をした人たちが学校現場に入ってくると、PBL(Project Based Learning)や教育の情報化にも貢献してくれるだろうし、キャリア教育や保護者対応を考えても、あらゆる意味で中途採用を増やすべき状況になっている。

それなのに、なぜ教員の中途採用が進まないかというと、これも教員免許がボトルネックになっている。

私の周りでも、社会に出て民間企業で5年、7年、10年を過ごし、「教員になりたかった」という志をもう一回思い出して、「民間企業でやったからこそ、もう一回教員を目指したい」として、中途採用で教員になりたいと考える「潜在的教員希望者」はものすごく多い。そういう人が、家族がいる状況でいったん会社を辞め、収入がゼロになった上で教員免許を取ることは、事実上は難しい。

ところが、先に中途で採用して教育センターに所属し、それから教職大学院で免許を取らせてもらえるようになれば、中途採用で教員を目指すハードルはぐっと低くなる。社会人の中途の場合は、免除科目を増やして、1年間で教員免許を取得できるように制度を改正すれば、もう1年後には配属されるようになる。

逆に言うと、新規採用も中途採用も、採用後に教員免許を取得する人は、教育現場を1年間かけて徹底的に見て回ったらいい。教育現場を徹底的に見て、それを分析するのを一つのカリキュラムにするか、プログラムとして教職課程に入れれば、それは可能になる。

そうなると、社会人としてキャリアを積んだ人たちが学校の授業をどんどん見にくるようになる。こうなれば教員は頑張るだろう。プロフェッショナルのモチベーションを上げていくのは、上からの管理強化ではない。後輩から見られる機会を増やすのが一番プロフェッショナルは燃える。社会で活躍してきた中途採用を含め、これから同僚教員になる後輩たちが見にくるとなれば、教員のモチベーションは一気に高まる。

このように、教育免許の取得に先んじて採用することができるようになると、いろいろな問題が一気に解決できる。採用が決まってから教員免許を取得するので、教壇に立つのは1年か2年遅れることになるが、それは38年間とか35年間の教員生活を考えれば、問題にならない。予算上は教職員定数として研修分を確保する必要があるが、ここに投資することは効果的な投資になると思う。

加えて、既存の教員は全員、修士号を取らせることが望ましい。教員が修士号を持つことは、フィンランドではほとんどそうだし、中国でも都市部では、10年くらい前から当たり前になっている。教職大学院はほとんどの都道府県に整備されたから、教員になって10年から15年ぐらいのときに修士号を取り、教員免許更新制の研修に振り替えるのもいい。

教員は修士号の取得を通じてそれぞれの専門性に磨きをかけ、学校のコミュニティーに一層貢献できるようになる。教員として学び直しをしっかりやって、リフレッシュしてまた子どもたちに向き合えるようになってほしい。結果として教員のステータスが上昇し、社会的に一層リスペクトされる職業になる。

そうした好循環を作っていくためには、教員の採用を免許取得に先行させることが突破口になるだろう。今回の教員制度改革を進めていく上で、重要な柱になるはずだ。