「こども庁」の創設 組織の新設が本当に必要なのか(藤川大祐)

千葉大学教育学部教授 藤川 大祐

縦割り行政を一元化するために

本紙4月13日付記事で報じられているように、自民党はこれまで検討してきた「こども庁」の創設に向け、党総裁直属の本部組織「『こども・若者』輝く未来創造本部」を設けた。今後、「経済財政運営と改革の基本方針2021」(骨太の方針)に「こども庁」の創設を含む施策を盛り込むべく、構想を具体化していくという。

「こども庁」創設の議論については、自民党の山田太郎・自見はなこ両議員が2021年2月に「Children Firstの子ども行政のあり方勉強会」を立ち上げ、短期間で10回もの勉強会を実施し、3月19日に「『こども庁』創設に向けた緊急提言」を出すに至っている。勉強会の内容や緊急提言は、「こども庁の創設に向けて」というサイトに全て掲載されており、真摯(しんし)な検討がなされた上で「こども庁」創設が提言されていることがうかがえる。

「こども庁」創設は、子供に関する縦割り行政を一元化するためだと説明される。確かに、幼児教育・保育所において、保育園は厚労省、幼稚園は文科省、認定こども園は内閣府が所管するというのは、いかにも効率が悪そうだ。他にも児童虐待やヤングケアラーなどの問題もあり、一元的な行政組織がこうした問題に対応すれば事態は改善しそうな印象は受ける。

創設が効果的な解決策とは考えにくい

しかし、上記緊急提言における具体的な議論の中で、「こども庁」を新設しなければならないものがあるのかというと、疑問だ。現状でも、内閣府は複数官庁に関わる重要政策について、内閣府特命担当大臣を置いて、政策を推進することができる。現在では、政策調整担当の政策統括官の下、内閣府では子供・若者育成支援推進大綱を定め、関係省庁と連携して青少年関連の政策を推進している。仮に子供や青少年に関する取り組みを強化したいのであれば、子供・青少年担当の特命大臣を置き、大臣を中心に関連の政策を推進する体制をとれば十分ではないか。

仮に、「こども庁」を新設する場合、関連の府省庁を巻き込んだ組織再編を行う必要があり、移行のために膨大な手間と時間がかかる。そして、子供や青少年に関する政策の担当が「こども庁」に一元化されたとしても、今度は子供・青少年に関する政策と他の世代を含めた政策との間で連携が難しくなるのではないか。例えば、初等中等教育を「こども庁」が担当するとして、高等教育や生涯学習は文科省が担当するのだろうか。また、児童虐待や子供のいる家庭でのDVは「こども庁」が担当するとして、子供のいない家庭のDVは厚労省所管のままとするのか。子供の福祉や就労の問題を「こども庁」が担当するとして、中高年でのニートや引きこもりの問題はやはり厚労省担当のままなのか。子供の非行防止や少年犯罪を「こども庁」が担当するとしても、防犯活動や事件捜査はやはり警察庁が行うのだろうか。

Children Firstを実現することの重要性については全面的に同意するとしても、「こども庁」の創設が効果的な解決策であるとは考えにくい。山田・自見両議員らの考えを最大限生かすなら、内閣府に子供担当特命大臣を置くとともに子供関連支出を欧州並みに引き上げることを決め、特命大臣のリーダーシップの下で個々の政策を効果的に実行することを目指すのが適切であるように思われる。

いずれにしても、具体的な政策を進めるために、既存の官庁の業務改善あるいは体質改善は必須となっていくであろう。

既存の組織の地道な業務改善や体質改善こそ

中央官庁は概して、デジタル化などの効率化が進んでいない上に、国会期間中は議員からの質問への対応で深夜までの長時間労働が常態化している。こうした中、優秀な若者がキャリア官僚になることを避ける傾向が強まっている。国会議員と官僚とが協力して官僚の業務改善をしなければ官僚は疲弊するばかりで、優秀な人材が集まらなくなり、実効性ある政策を実施することがますます困難になってしまう。

昨今の中央官庁の状況を見れば、こうした懸念はすでに現実化しているのではないかと考えられる。

文科省においては、現場の教員に負担を押し付けて給特法による働かせ放題を放置した結果、教員の労働時間は世界最悪となり、教員のイメージが悪化し、教員のなり手不足という事態を生じさせてしまっている。厚労省においては、かつての年金問題がありながらも医療や福祉のデジタル化をうまく進められなかった結果、コロナ禍においてもデジタル技術の効果的な活用ができていない上に、自分たちではリモートワークを進められないばかりか旧態依然とした大人数の歓送迎会を行うなど、国民に感染防止への協力を呼び掛ける資格さえも疑われる状況にある。

関係官庁のこうした状況を見れば、派手な組織新設でなく、既存の組織の地道な業務改善や体質改善こそが必要であることは明らかだ。ぜひ、国会議員と官僚とが協力して、新たな時代にふさわしい行政組織を地道に構築する道を選んでほしい。