GIGAの山を登る⑤「自学」と「振り返り」の共有(松田孝)

合同会社MAZDA Incredible Lab CEO・東京都小金井市立前原小学校前校長 松田 孝

Attack開始

前人未到のMt.GIGAの頂(いただき)を目指して、全国各地の学校でAttackが始まった。

ベースキャンプ(学校設置者)を出発したAttack隊(学校現場)は、文科省がこれまでに公表した「教育の情報化に関する手引(追補版)」の第4章「教科等の指導におけるICTの活用」(2020年6月)や「各教科等の指導におけるICTの効果的な活用について」(同年9月)、そして昨年末に新たにオーブンした「StuDX Style」サイトなどの情報を参考に、Mt.GIGAの頂を目指す。

Attack当初は、さまざまな困難に見舞われることが予想されるが、文科省が3月に発出した「GIGAスクール構想の下で整備された1人1台端末の積極的な利活用等について」(通知)にある「GIGAスクール構想本格運用時チェックリスト」を活用して対処したい。そこに記された①管理・運用の基本②クラウド利用③ICTの利用④研修・周知⑤組織・支援体制――の4つの観点を参照しながら、ベースキャンプとAttack隊との密な連携体制の構築こそが、Mt.GIGA登頂の成否の鍵を握る。

Attack隊はベースキャンプの支援に勇気付けられ、いよいよ頂に向けて歩みを始めるが、そのルートは次第に濃霧に包まれていく。

濃霧の原因を探る

濃霧で視界が悪い中、Attackルートを外れないためには、ICTを積極的に活用した「個別最適な学び」の具現化を図っていかなければならない。

中教審答申が述べるように「個別最適な学び」は、「個に応じた指導」(指導の個別化と学習の個性化)を学習者の視点から整理した概念であるなら、授業は子供たちの「自学」に委ねることにチャレンジしたい。しかしこのチャレンジには相当の勇気と覚悟が要る。「指導内容を丁寧に子供たちに教え、理解させること」を指導力向上と信じてきた教員にとっては、「学び」を子供たちに委ねることなど想定もしていなかった事態だ。同時に保護者も困惑する。「子供は先生が丁寧に教えてくれるから、勉強が分かるようになったと言っています」とすぐに苦情を言ってくる。

子供たちが生きるSociety5.0の社会は変化が常態化し、教えられたことを素直に理解する力よりも、変化に主体的に対応して自ら学ぶ力が求められることを粘り強く訴え続けていかなければならない。

従来の指導観の呪縛にもがきながら、「個別最適な学び」に向かうICT活用に取り組み始めるが、Attackルートの濃霧はなかなか晴れない。

なぜか。それは「個別最適化された学び」を実現するために、ICTを活用することが最終の目的ではないからだ。ICTを活用して「個別最適化された学び」を具現化し、さらに子供たち一人一人にSociety5.0の社会の形成者として必須の資質・能力である「学びに向かう力」の育成こそが、目指すMt.GIGAの頂だ。

Attackルートに濃霧が立ち込めるのは、授業における効果・効率的なICT活用ばかりに目が向き、最も重要である「学びに向かう力」の醸成とのつながりを実感できない教員の悶々(もんもん)とする思いや焦燥感がその原因となっている。

「学びに向かう力」については、文科省は「主体的に学習に取り組む態度」として自己調整力という考え方を手掛かりに評価することを述べている。(「児童生徒の学習評価の在り方について(報告)」(2019年1月))

GIGAスクール構想の本質は、ICTを活用してこの自己調整力を子供たち一人一人に醸成することにある。果たしてこれまでの「関心・意欲・態度」評価のように「見取って評価する」ことだけで、必要とされる力は育成できないことを肝に銘じたい。

■濃霧を晴らす手だて

「振り返り」はこれまでも大事な学習活動として学習過程に位置付けられていた。ICTを活用すれば、一瞬にして一人一人の「振り返り」を一覧することができ、学習活動を通して得たさまざまな気付きを友達と共有できる。

しかしアナログ環境下の「学び」では、子供たちに授業の「振り返り」をさせた後に、それを生かした学習展開の場を開く術がなかった。これまで毎時間の「振り返り」の共有など、ほぼほぼ不可能だった。それをするのにどれだけの工数がかかるかは、実施してみればすぐに納得できる作業量だ。「振り返り」をさせた後、ノートを集め、その記述をファクス謄写用紙に教員が書き写し、印刷・配布して初めて可能となる。

「振り返り」の共有は、子供たちに次の3つの教育的価値を内在化させる。

①多様性への気付きと尊重

②知識・技能の習得/キャリア形成/個性伸長に向かう学習方略の獲得

③感情と思考の交流による相互啓発

そしてこの内在化のプロセスが、自己調整力を形成する要素である「メタ認知」「学習方略」「動機付け」を生かした取り組みとなることに着目したい。

「振り返り」は自らの学習活動のメタ認知そのものである。その「振り返り」を共有することで、同じ学習活動を体験してもそこにはさまざまな気付きがあることが分かる。子供たちはお互いの多様性を尊重しながら、自分にとっての新しい刺激的な気付きを得ることができる。知識・技能の習得に関わって「学習効果を高めるための工夫」を得たり、時に友達の「振り返り」に将来の夢がつづられれば、それを読んで自身のキャリアを意識するきっかけとなったりする。

さらに感情と思考の相互啓発(記述に対するコメントや共感)が活性化し、一人一人の承認欲求が充足されれば、学級集団が心理的に安全な「学び」のフィールドとなっていく。

「共有」によって先の3つの要素が有機的に関連し合うことで自己調整力が磨かれ、子供たちの「主体的に学習に取り組む態度」として外在化していく。

頂を仰ぐ

「振り返り」の共有は、Attackルートの濃霧を晴らす。

「自学」と「振り返り」の共有という新しい学習過程において、教員は自らの新しい役割である「子供たち一人一人のニーズを踏まえた学びの環境調整」を自覚するようになる。

そしてもう一つのチャレンジによって、Attackルートの濃霧を晴らし、Mt.GIGAの頂をはっきり捉えることができるようになる。それが、「振り返り」に対するリコメンドであることを次回、紹介する。