日本で感染者が増える理由 一人一人の自覚に問題(ウスビ・サコ)

京都精華大学学長 ウスビ・サコ

海外出張で会う相手は全員ワクチン接種済

先日、オランダとフランスを経由して、マリとセネガルに出張してきた。出張先で会った政府関係者や大学関係者は全員ワクチン接種が終わっていて、「まだしていないのか」と驚かれた。

例えば、フランスやオランダでは、ワクチンの数が問題なのではなく、どのワクチンを打てばより効果的なのか、副反応が少ないのかといった話に議論が進んでいる。アフリカの場合、「COVAXファシリティ」(COVID-19のワクチンを複数国で共同購入し、公平に分配するための国際的な枠組み)経由で一部の国と地域には一定数のワクチンがある。ただ、不信感から打ちたがらない人が多いため、ワクチン接種説得キャンペーンをやっている。

イギリスやアメリカで証明されたように、ワクチン接種が進めば、ある程度感染拡大は抑えられる。新型コロナウイルスの感染はまだ完全に抑えられたわけではないが、これらの国々では、希望が見え始めているように感じた。パリもアムステルダムも普通に飛行機が飛んでいて、多くの人が空港を利用している。免税店も開いている。マスクをしないでウロウロしていると注意されるなど、感染防止策は取られている。

日本は水際対策に力を入れている。飛行機の中で書類を書いて、降りてから体温をチェックされて、検疫でPCR検査を受ける。その後、厚労省の人からチェックを受けて、位置確認と連絡用アプリのダウンロード方法や使い方を教えられる。1~2時間後にPCR検査の結果が出て、陰性なら入国手続きに進む。同じようなことを何度も確認される。外国人対応のため通訳らしい人もたくさんいる。乗客は飛行機一機あたり、おそらく30~40人程度しかいないのに、対応のスタッフが多すぎると感じた。

日本のルールは中途半端

水際対策は見えやすいし、分かりやすい。しかし、どの国よりも厳しくやっているにもかかわらず、三度目の緊急事態宣言を延長しなければならないほど感染者が拡大しているのは、どうしてなのか。本当の問題はそこではなく、すでに国内にあるからだ。変異種もすでに国内で広まっている。街中での対策により大きな力を注ぐべきではないのか。感染が拡大している原因は私たちの内側にある。

なによりも、一人一人の自覚の問題だろう。大学でもずっと議論をしてきたことだが、物事を機能させながら各自の意識を高めるということが大事だ。それが全体を守ることにつながっていく。誰かに言われたから何かをやめたとか、不満を抱えながら渋々従うという形では、意識は高まらない。

感染防止というのは、自分をどうやって守るか、身近な人をどうやったら守れるかということ。

日本で感染者が増えているのはルールが中途半端だからだ。トップダウンでやるべき対策に、ボトムアップの協力を求めて、その組み合わせ方に失敗しているのに、学ぼうとしない。なぜ迷走してしまったのかを考えないといけない。ワクチンについても、国民は失望している。これほど経済力があって、研究力も生産力も十分にあるはずなのに、なぜ自国でワクチンが作れないのか。コロナ禍では日本の弱さばかりが見えてしまった。

当事者として考える機会が大切

教育の現場でも、個々の自覚を促すことが必要だと思う。日本の伝統的な教育は、自分のことよりも他を重んじることが大切で、人に迷惑を掛けてはいけないと教える。コロナ対策も、自分ファーストではなくて、他人のためにやるべきだという論調が多いように感じる。確かにそれも間違いではないが、他者との関係性だけではなく、自分自身の問題としてどう物事を考えるかというのが大事ではないか。

特に今回は、当事者として考える機会を作らなければいけない。学生に学校に来てもらうのも、その一つの機会だと考えている。他の人との距離の取り方を自ら身をもって感じたり、考えたりするべきだ。

例えば、電車で学校に来たら、電車の混み具合を体験して、今本当にこれでいいのかと考えるだろう。行政の施策に対して批判するだけではなくて、コロナ禍をどうやって改善していくかについては、一人一人がクリエーティブに対策に参画しないといけない。誰かがガイドラインを出してくれたら従うという態度では何も変わらない。自分で自分の身を守る。そういうふうに変えていかなきゃいけない。

京都精華大学にもキャンパスの1日あたりの滞在人数を50%に減らすよう、地方自治体からの要請があった。その基準を満たしつつ、遠隔と対面の両方で学ぶという基本方針は変えていない。無理に対面でしなくてもいい授業はオンラインにしているが、対面でやるべき授業をオンラインにはしていない。対面授業が同時間帯に重ならないよう時間をずらすなど、いろいろ工夫しながら、キャンバスの人数を50%前後にキープしつつ、学びの質を上げていこうとしている。

一方で、キャンパスの外の公共空間に対してはまったく対策がとられていない。満員電車はなにも変わっていない。街を歩いている人も減っていない。大学生は自宅や学校ではなく、通学時に感染するリスクが一番高い。

解決策を持たない日本 世界は変わりつつある

ヨーロッパの各都市では、ロックダウンで街から完全に人がいなくなった時期があった。日本はそこまでするには法整備が進んでいないという話だったが、この厄災が襲ってきてからもう一年以上たっているのに、解決策をいまだに持っていない。公共の場所に対して対策がとれない。

日本では公共が自分たちのものだと言う意識が少ない。ヨーロッパでは、例えば、みんなが「電車の乗車率を減らせ」と言う権利がある。でも日本ではそういった声は上がらない。誰かが対策をとってくれるのを待っている。コロナ禍の中であんな満員電車に乗ることをおかしいと思うなら、もう自分一人で緊急事態宣言をしてもいいかもしれない。私は今日から緊急事態なので会社に行きません、電車に乗りません、と言えばいい。

そもそもの会社が全然変わっていない。対面が大事だとか、出勤が好ましいとか、せっかく在宅勤務にしていたのを元に戻したり、支社を閉めて東京へ集中させたり、やっていることがちぐはぐすぎる。もっとフレキシブルに考えなくては。夜に出勤して仕事できるようにすればいい。そのためなら鉄道を24時間動かせばいい。本数を増やして、一列車あたりの人数を制限すれば混雑は緩和される。ビジネススタイルを全部変えたらいい。クラシックなスタイルを維持したまま、なんとかしようとするから行き詰まる。すでに世界は変わりつつある。

関連記事