わいせつ教員防止法成立へ 子供を性暴力から守るための重要な一歩(藤川 大祐)

千葉大学教育学部教授 藤川 大祐

免許再交付が認められにくくなる

本紙電子版5月21日付記事で報じられているように、わいせつ行為を行った教員を再び教壇に立たせないことを目指す「教育職員等による児童生徒性暴力等の防止等に関する法律」(以下「わいせつ教員防止法」)案が衆院文科委で可決され、衆参両院の本会議で可決・成立となった。

教員の児童などに対するわいせつ行為に関しては、過去にこうした行為で懲戒処分を受けて教員免許が失効した場合でも、欠格期間である3年が経過すれば教員免許が自動的に再交付されることが問題となっていた。わいせつ教員防止法では、これを改め、免許授与権者に「裁量的拒否権」を与えることが定められている。

この「裁量的拒否権」という方法は、いわば苦肉の策である。立法に関わった議員などの願いは、児童などへのわいせつ行為を行った教員を二度と教壇に立たせないようにすることであった。しかし、欠格期間を無期限にする法改正は刑法の「刑の消滅」(執行猶予付きの懲役・禁錮の場合には猶予期間終了時、執行猶予なしの禁錮以上の刑では刑の執行終了から10年、罰金刑の場合には刑の執行終了から5年で前科による資格の制限がなくなる制度)との関係で、欠格期間を無期限にすることはできなかった。これを受け、わいせつ教員防止法案では、欠格期間を無期限化する代わりに、「裁量的拒否権」によって免許再交付が認められにくくなるようにしようということにされたものだ。

重要なかじ取りを担う文科省

わいせつ教員防止法案では、わいせつ行為などによって免許が失効となった者(特定免許失効者)に対しては、改善更生の状況などによって「再び免許状を授与するのが適当であると認められる場合」に限って、再び免許状の授与ができると定められている。これを決めるのは免許授与権者である都道府県教育委員会であり、都道府県教育委員会はあらかじめ都道府県教育職員免許状再授与審査会(以下、「審査会」)の意見を聞かなければならないこととされている。審査会の組織や運営に関して必要な事項は、文科省令で定められる。

このことは、児童らへのわいせつ行為を行った教員を二度と教壇に立たせないようにする策を実効性のあるものにできるかどうかが、文科省に委ねられていることを意味する。文科省令において、免許再交付のための基準が緩すぎればわいせつ行為の抑止が難しくなり、基準が厳しすぎれば「刑の消滅」との関係が問題となるだろう。また、基準が曖昧であれば、都道府県ごとに再交付の可否が大きく異なり、平等性が疑われることとなりかねない。実効性のある対策がとれるか、文科省が重要なかじ取りを担うこととなる。

このことは文科省も十分に承知しているようで、萩生田光一文科相は4月20日の記者会見で法整備の重要性について述べた上で、「そんなに簡単なルール作りではないのではないかと心配している」と言っている。今後、改善更生の状況をどのように評価するかを中心に、再交付を認める際の厳格な基準を定められるか、注目したい。

実効性ある運用を進めてもらいたい

今回、衆院文科委でこの法案に14件の附帯決議がなされた。特に、以下2点に注目しておきたい。

第一に、保育士についても免許執行者の扱いに関する仕組み作りの検討が求められたり、部活動の外部コーチやベビーシッターなどに関して児童生徒と接する職場で性的な被害を与えた者に関する照会制度の検討が求められたりしている点である。子供に対する性暴力の問題は、保育士やベビーシッターにおいても起こっており、学校の教員だけの問題ではない。イギリスでは子供と関わる仕事をする人は全てDBSという機関に照会して無犯罪証明書を発行してもらわなければならない。学校教員に関して法律ができるのは大きな一歩であろうが、本来目指されるべきは、子供に関する全ての職業を対象とした「日本版DBS」であるはずだ。

第二に、小児性愛の研究に関する支援の拡充検討が挙げられている点である。小児性愛者が子供と関わる職業に就こうとする可能性は高いと考えられ、そうした職業に就けば子供に対する性暴力が起こる可能性も高いはずである。小児性愛者が自らの小児性愛傾向を自覚し、治療を受けたり子供に関わる仕事に就くことを避けたりするようになれば、学校などでの子供への性暴力の防止につながる。現状では、小児性愛者は社会の中で強い非難の的となりやすく、当事者も強い自己嫌悪に陥る場合が多いとされる。小児性愛者が社会から排除されるのでなく、子供に関わる職業から距離を置きつつ適切に治療や支援を受けられるようになることが求められる。この点で、小児性愛の研究を促す施策がとられることに期待したい。

わいせつ教員防止法の成立は、子供を性暴力から守るための重要な第一歩だ。今後、この法律の実効性ある運用を進めるとともに、他の必要な策についても検討が進められなければならない。