GIGAの山を登る⑥狙いは「学びに向かう力」の育成(松田孝)

合同会社MAZDA Incredible Lab CEO・東京都小金井市立前原小学校前校長 松田 孝

Attack開始から3カ月

全国各地のベースキャンプからMt.GIGA登頂を目指してAttack隊が出発してから、3カ月がたった。いや全国を見渡せば、さまざまな理由でいまだベースキャンプを出発することもできないAttack隊もあるようだ。

そんな状況に業を煮やした政府の経済財政諮問会議は5月に、「『オンライン教育の日常的な活用』を来年3月末までに開始すべきだとした上で、それができない小中学校のある都道府県・市町村に対して、できない理由と対処方針、いつまでに開始するのかを明記した工程表を年内に公表するよう求めた」(教育新聞電子版5月14日付)。

目指すはコンピテンシーベースの学びへの転換

前人未到の頂へのAttackルートにはクレパスが点在し、いつ天候が急変してもおかしくない。Attackのための必須アイテムであるICTを利用して「個別最適な学び」を実現するも、濃霧に見舞われて方向を見失っているAttack隊もある。

なぜか。それは「個別最適化された学び」を実現するために、ICTを利用することが最終の目的ではないからだ。ICTを利用して「個別最適化された学び」を具現化し、さらにSociety5.0の社会の形成者として必須の資質・能力である「学びに向かう力」を子供たち一人一人に育成することこそが、目指すMt.GIGAの頂だ。

学習指導要領改訂の趣旨であるコンテンツベースの学びからコンピテンシーベースの学びへの転換にこそ、AttackアイテムであるICTを活用したい。

多くのAttack隊が難路に難渋する中、学習の「振り返り」にAIレコメンドコンテンツを活用して濃霧を晴らし、Mt.GIGAの頂(いただき)をはっきり捉えたAttack隊も現れ始めた。

核となるのは「自己調整力」の育成

オーバーハングとは、傾斜角度が垂直以上の岩壁のことだ。濃霧を晴らし、Attack隊が目にしたMt.GIGAの頂はオーバーハングとなっている。この壁を登るには、自身がひっくり返って滑落する危険を感じながらのAttackとなる。まさに戦後、アナログ環境下での従来の授業が築き上げてきた教科教育の指導法の転換を暗示する。一律一斉の指導フレームの中で、いくらICTを利用しても頂には登ることはできない。

2019(平成31)年1月に中央教育審議会初等中等教育分科会教育課程部会は、「児童生徒の学習評価の在り方について(報告)」を公表した。この報告は、新学習指導要領の下での学習評価の在り方について、その基本的な考え方や具体的な改善の方向についてまとめたものである。

そこでは「学びに向かう力、人間性等」については、「主体的に学習に取り組む態度」(観点別評価を通じて見取ることができる部分)と「感性・思いやりなど」(個人内評価を 通じて見取る部分)とがあるとする。果たして「『主体的に学習に取り組む態度』の評価に際しては、単に継続的な行動や積極的な発言等を行うなど、性格や行動面の傾向を評価する」のではなく、「知識及び技能を獲得したり、思考力、判断力、表現力等を身に付けたりするために、自らの学習状況を把握し、学習の進め方について試行錯誤するなど自らの学習を調整しながら、学ぼうとしているかどうかという意思的な側面を評価することが重要である」と明記する。

ここにおいて学習指導要領改訂の趣旨であるコンピテンシーベースの学びへの転換は、「主体的に学習に取り組む態度」の核となる「自己調整力」の育成にあることが判明する。

そしてこの「自己調整力」は、報告書が述べるようにこれまでの「関心・意欲・態度」評価においてその誤解を払拭(ふっしょく)しきれていないとされる、「挙手の回数やノートの取方などの形式的な活動」の見取りでは育成できないことを自覚すべきである。

まさにMt.GIGAの頂はオーバーハングを登り切ったところにある。

「振り返り」活動の有効性は変わらない

「自己調整力」や「自己調整学習」にあっては、2000年前後に教育心理の分野では盛んに研究が推進されてきた。自己調整学習研究会が編んだ『自己調整学習: 理論と実践の新たな展開へ』(2012年、北大路書房)によれば、それは「自らの学習を調整し、維持し、効果的に行うプロセス」と定義され、メタ認知、学習方略、動機付けの3つの要素から成る。

実はアナログ環境下でも大変重要な学習活動として意識されてきた「振り返り」活動が、これら3つの要素を有機的に関連付け、子供たちの「自己調整力」を育む極めて有効な学習活動となることに注目したい。しかしながらこれまでは、その活動はアナログ環境下であるが故に形骸化してしまっていた。

「振り返り」活動は、「自分の学びに対しての充実感や達成度などを自覚させることは、次の学びに向かう意欲等を高める」(「はばたく群馬の指導プランⅡ」)ものであるにもかかわらず、学習過程の終末に位置付くためにそのための時間を十分に確保できなかったり、それを行ったとしても内容に関わって先生や友達との対話や双方向性を保障したりすることは困難であった。

この形骸化していた「振り返り」活動を、Mt.GIGAの頂である「自己調整力」を育む学習活動として新たに組織化することがICT活用の最大の狙いとなる。

ICT活用を「学びに向かう力」につなげる道筋

現在、GIGAスクール構想の本格運用が始まって、さまざまな困難に見舞われながらもICTを活用した教育(授業)実践が活性化してきた。そしてその多くは、図に示したように新しい学習指導要領が3つの柱として整理した資質・能力のうち、①「生きて働く知識・技能の習得」、②「未知の状況にも対応できる思考力・判断力・表現力の育成」に関わるものがそのほとんどだ。③主体的に「学びに向かう力」の育成に関わる実践例は寡聞にして知らない。

だからこそ、③主体的に「学びに向かう力」の育成に直接関与するコンテンツとして、AIレコメンドコンテンツ「Shuffle.(シャッフル・テン)」をArithmer社と共同開発した。

「Shuffle.(シャッフル・テン)」は、授業における子供たちの「振り返り」(文章による自由記述)をAIで解析することによって、一人一人の子供の「学び」の対象に対する好奇心や探究心をさらに醸成するきっかけとなる10本の動画(YouTube)をレコメンドする。

既に学校現場での活用が始まり、そこでは自己調整力を育む新しい「学び」が胎動し始めている。子供たちはレコメンドされた動画の視聴を通して、「学び」の対象に関わるさまざまな知見の入手・獲得、修正・訂正、深化・拡充を図るとともに、自分自身のキャリア形成や個性伸長に資する学習方略をも獲得している。まさに先の報告書が述べる「『学びに向かう力、 人間性等』の涵養(かんよう)を図ることは、生涯にわたり学習する基盤を形成する上でも極めて重要である」ことの具体が描き出されている。