スローガンを変えよう 「学びを止めない」はもうやめたい(斎藤剛史)

教育ジャーナリスト 斎藤 剛史

猛威を振るった新型コロナウイルス感染の第5波もようやく減少傾向が見えてきた。しかし、これからも年末・年始の感染再拡大が予想されるなど、学校現場では気を抜くことが許されない状況が続く。その一方で、学校現場には「GIGAスクール構想」によるICT化の推進という大きな懸案も残されている。そこで提案だが、コロナ禍で「学びを止めない」というスローガンをやめてはどうだろうか。

持ち帰りOKの学校は25.3%だけ

「ばかなことを言うな」「オンラインは、学びを止めないための有効な手段だ」と批判する関係者も多いだろう。実際、コロナ禍の中でも「学びを止めない」というスローガンによって、「GIGAスクール構想」が早期具体化した。少なくない学校が、オンライン授業など教育のICT化に取り組み、その成果も上がっている。誰も予想しなかったコロナ禍という災害の中で、「学びを止めない」というスローガンが有効だったことは間違いない。

しかし、コロナ対策のためのICT化という受け止め方が、本当の意味での学校教育のICT化を阻害する原因になっている。例えば、今年度からほとんどの小中学校で子供に1人1台の情報端末の配置が実現し、学習活動に端末が利用されているが、平常時での情報端末の家庭への持ち帰りを認めている学校は25.3%と、全体の4分の1にとどまっていることが、文科省の端末利活用実態調査の結果(本紙電子版8月30日付)で明らかになった。

新型コロナ感染の第5波の影響による夏休みの延長、新学期開始早々の分散登校などの実施により、情報端末の持ち帰りを認めていなかった学校の多くが、改めて情報端末を家庭に持ち帰らせるための対応に追われたことだろう。

GIGAスクール構想はコロナ対策ではない

ここで思い出してほしいのが、GIGAスクール構想は、コロナ対策として創出された施策ではないということだ。もともとGIGAスクール構想は、2019年に政府の総合経済対策の一環として打ち出されたもので、それがコロナ禍により、急きょ具体化が前倒しされたにすぎない。つまり、GIGAスクール構想による1人1台端末の整備と新型コロナウイルスの感染拡大は、本来、全く無関係なのだ。

ところが、コロナ禍によりGIGAスクール構想が突然前倒し実施されることになったことにより、多くの学校が困難な対応を迫られることになった。その一方で、財政部局から反対も出ずに整備が進んだというメリットもあった。

仮に、GIGAスクール構想の本当の狙いが、全ての子供に「個別最適な学び」を保障することにあるとするなら、現在の学校のどの程度が、それにふさわしい情報端末の活用を実現できているだろうか。授業中に教員の指示通りにしか端末を使わせない、平常時に端末の家庭への持ち帰りを認めないなどの扱いは、情報端末整備の本当の目的から外れているといえる。

教育のICT化は「学びを変える」ためにある

恐らく、多くの学校がこんな状況に陥っているのは、コロナ禍によって、GIGAスクール構想による情報端末の整備が急激に進んだせいで、学校や教員の意識や体制が追い付いていないことに加え、学校のICT化がコロナ禍により子供たちの「学びを止めない」ための手段であると認識されていることが大きな原因だろう。

多くの学校や教員は、対面による一斉授業を実施するべきだと内心では強く思いながら、コロナ禍の中で「学びを止めない」ために、仕方なくオンライン授業などを実施しているのではないか。言い換えれば、コロナ禍が終息し、社会全体や学校が元に戻れば、オンライン授業などの教育のICT化はもう必要ない、もしくは必要最低限で済ませたいというのが、学校現場の本音ではないか。

しかし、人工知能(AI)が普及し、情報化が一段と進むこれからの時代を生きることになる子供たちを育成するために、それでよいはずがない。教育のICT化、デジタル化はコロナ禍を契機に実質的にスタートしたのは事実だが、「学びを止めるな」というスローガンが、教育のICT化に対する学校や教員の意識や姿勢を、単なる「一時しのぎ」に陥らせている。

だから、教育のICT化やデジタル化の受け止め方について、コロナ禍の中で「学びを止めない」ではなく、コロナ禍の中で「学びを変える」へ変更すべきだと提案したい。

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