あらためて機会の平等を目指そう OECD報告書を読み解く(藤川大祐)

千葉大学教育学部教授 藤川 大祐

 本紙電子版9月16日付記事で報じられているように、OECD(経済協力開発機構)が『図表でみる教育2021年版』を公表した。OECDの議論は、日本の教育に対しても影響力が大きい。今回は、コロナ禍での教育における不公平や不平等の拡大を受けて、公平や平等に焦点があてられている。特に日本に関係する部分について読み解き、この報告書を受けて日本で私たちが取り組むべきことについて検討しよう。なお、報告書では教員の多忙の問題も指摘されているが、本稿では他の問題について見ていきたい。

 第一に注目しなければならないのは、日本の教育における男女間の差異について厳しい指摘がなされたことである。

 日本では、教育を受ける権利について男女間の差はなく、高校進学率も大学・短大進学率も男女が同水準となっている。日本における女性の高等教育修了率の高さについては、報告書でも特記されている。

 だが、報告書では、専攻分野別の高等教育入学者の分布における男女間の著しい差異が厳しく指摘されている。他の国にも見られる傾向であるが、日本では自然科学、技術、工学、数学といったSTEM領域を専攻する女性が少ない。特に、工学、製造、建築に関しては高等教育入学者における女性の割合は16%であり、OECD加盟国中で最も低かった。対照的に、教育分野の入学者では女性が71%と非常に高い割合を占めている。

 他にも、日本においては、就学前教育の教員の大部分が女性であることや、学校外における成人教育に参加する女性が少ないことが指摘されている。

 報告書を離れ、他のデータも見よう。男女共同参画白書令和3年度版によると、高等教育進学者において女子は7.6%が短大に進学しており、4年制大学の進学は50.9%と少ない(男子は57.7%)。大学(学部)卒業後に直ちに大学院に進学する者は、女子5.6%、男子14.2%と女子が低い。短大を除く大学・大学院の教員に女性が占める割合は4分の1程度である。

 以上のように、日本の教育には制度的に特段の男女差別はないものと考えられるが、高等教育において、大学院進学者や大学教員、専攻別の割合等において、男女間に著しい差異が生じている。こうした差異は他国と比べても顕著であり、「理系は女子に向かない」、「女子が高学歴になる必要はない」等、日本社会における女性に関するステレオタイプ的な価値観が影響しているものと考える必要があるだろう。日本社会には、女子がSTEM領域に関心を抱いたり大学院進学を希望したりすることが妨げられやすい状況があり、このことによって個人にも社会にも不利益が生じているものと考えられる。

 第二に、社会経済的背景と教育との関係への注目が必要である。

 今回のOECD報告書では、日本において、幼児教育・保育や高等教育における私費負担が大きいことが問題として指摘されている。

 幼児教育・保育については、2018年時点での私費負担の割合が日本ではOECD加盟国中最も高いことが指摘されている。ただし、2019年10月からは幼児教育・保育の無償化が実施され、改善されている。

 また、大学・大学院の年間授業料が高いこと、学費が高い私立大学の在籍者が多いことが指摘されている。ただし、これについても、2020年から新たな給付型奨学金の支給が始まっている。

 以上のように、教育における私費負担の割合については改善が図られてはいるが、日本ではGDP比の教育支出が低く、困窮家庭の子どもへの教育機会の提供という点で課題があることは確かだ。コロナ禍で困窮が深刻化していることを踏まえれば、家庭の社会経済的地位にかかわらず教育を受けられるようにする取り組みは、今後ますます重要になると言える。

 第三に、新型コロナ禍での学校教育の在り方に注目したい。日本では2020年、約3週間、全国の多くの学校で休校措置がとられ、その後も地域によっては1~2カ月の休校措置がとられた。2021年8月以降も一部で休校措置がとられてはいる。しかし、今回の報告書では、日本は2021年時点でほぼ全ての初等・中等教育機関が完全に活動を再開した数少ない国の一つとして評価されている。

 また、日本ではGIGAスクール構想の前倒しによる端末配布や必要とする家庭へのモバイルルーターの貸し出し等、自宅学習への支援も進められており、報告書でも肯定的に評価されている。

 日本の学校におけるコロナ対応には課題も指摘されるが、学校現場や教育行政の努力のかいあって、他国と比較すればコロナによる学校生活への犠牲はかなり小さく抑えられてきたと言えるだろう。

 以上のように、日本の学校教育はコロナ禍にあっても最善の努力をしている一方で、教育における男女間の差異や社会経済的地位の影響については問題を突き付けられている。制度や予算の問題だけでなく、人々の価値観の問題も視野に入れ、教育を受ける機会の平等をあらためて目指すことが必要だ。

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