「聞く力」のある新首相 教育界は積極的に政策提言を(鈴木崇弘)

城西国際大学大学院研究科長・特任教授 鈴木 崇弘

岸田首相の特徴

 岸田文雄氏がきのう10月4日の臨時国会で、第100代総理大臣に選出された。自民党総裁選では、同党では初めて2人の女性候補を含む4人が出馬したが、岸田氏はその中で、政策的にも政治スタンスにおいても、最もエッジの効いていない、ある意味で特徴のない、メッセージの弱い候補者であったといえる。特に教育政策は、独自色をあまり期待できないし、その意欲も感じられない。

 また、末松信介参議院議員が初入閣で、文科大臣に就任した。国家重視の教育観であるようだが、文科政策に関わる経験はほぼなく、首相のウエイトの低さと共に文科政策の停滞が心配だ。

 ではそんな岸田氏が、なぜ総理・総裁に選ばれたのだろうか。それは、自民党は「変化は求めたが、大きな変化を求めなかった」ということだろう。つまり、菅義偉氏の下では衆院選は戦えないし、自民党が大きく負ける懸念があった。だが新しい総理・総裁になれば、特に今回は選挙までの短期決戦なので、ひ弱で期待されているとはいい難い野党という今の政治状況では、獲得議席は減っても負けることはないと、自民党の議員および党員らは考えたのだ。そうであれば、エッジが効いていず、無難で、物分かりのよさそうで、使い勝手のいい候補を選べばいいと考えたわけだ。

 現に岸田氏は、総裁就任後の会見でも自身、国民や相手の意見の「聞く力」を強く主張していた。
 筆者のこれまでの印象でも、岸田氏は人柄も良く、安倍晋三・菅両氏よりは明らかに人の話に耳を傾ける方である。他方、政治家にしては、メッセージ性や言葉の印象が弱く、スピーチを聞いても面白みやインパクトに欠け、言葉が記憶に残らないと感じる。

 現時点では、前二者の総理・総裁が「国民の声を聞こうとしない」という印象が強かったので、岸田氏のイメージはプラスに機能している。しかし衆院選後、コロナ禍がどのようになっているかにもよるが、世界的に見ると日本の政治・政策状況は多くの分野で非常に厳しい状態にあるので、岸田氏は国民の声を聞いた上で、自身の判断・決断に基づいて、この国や社会をどうかじ取りするかのリーダーシップが求められることになろう。

期待されるリーダーシップ

 一方で、昨年および今年の総理・総裁への権限移譲をみると、現在の自民党内では、最近「キングメーカー」といわれる安倍氏らの思い描く方向に、今回の岸田総理・総裁の誕生を含めて、動いているといえる。安倍氏らも、岸田氏なら御しやすいと考えて選んだといえそうだ。

 そうした状況で、岸田氏は独自のリーダーシップを発揮できるのだろうか。保守的で恩を重視するといった自民党の政治風土や、岸田氏のキャラクターなどからすると、かなり厳しい。他方、岸田氏は総裁選の1回目の投票で、予想に反して河野太郎氏を破り、トップに立ち、党内に自身のそれなりの力を誇示できた。

 また党内人事や組閣でも、安倍氏らや派閥の意向、総裁選の結果や論功にも配慮をし、不満を抑え、厳しい対応と選挙戦への対応も踏まえた高等戦術も示した。

 首相就任から短期間で行われる衆院選では、岸田氏のキャラクターを踏まえると、国民の自民党政権への印象はある程度変わると共に、就任直後のご祝儀相場も踏まえると、政治状況が大きく変わるとは考えにくい。そして岸田氏の本格的対応は、衆院選の結果を踏まえてからになろう。

 今後、岸田氏が十二分なリーダーシップを発揮できず、国民の支持が離れれば、2000年代に政権が短命で何度も変わったような悪夢も起きうる。他方、1980年代に成立した中曽根内閣は、キングメーカー田中角栄氏の後押しで成立したために「田中曽根内閣」といわれたが、独自色を発揮し長期政権になった。

 またソ連のゴルバチョフ氏は、組織に取り入り短期間で同国のトップに上り詰めると、一気に改革を行い、同国の終結・崩壊を生んだ。

 このように引き上げられ、後押しされてできた政権などが、独自のリーダーシップや新しい状況を生み出すこともある。岸田政権が、新しい日本の方向性を生み出すきっかけを創るかもしれない。

 筆者としてはそれを期待したいし、教育界は「聞く力」のある新首相に、積極的に政策提言をすべきだろう。

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