過去の教育政策をどう評価するのか 衆院選への期待(藤川大祐)

千葉大学教育学部教授 藤川 大祐

 衆議院が解散され、総選挙が公示された。本紙電子版10月14日付では各党の教育政策の比較がなされ、前日に行われた「2021年学校模擬選挙キャンペーン」での各党議員の話の内容も報じられている。

 2012年から2020年まで続いた第2次安倍政権では、首相の私的諮問機関である教育再生実行会議でさまざまな政策が検討され、実際に導入された政策も多い。また、その後の菅政権でも、教育に関するいくつかの方針転換が決められている。今回の総選挙では、本来、こうした過去の政権の政策を評価した上で、政策論争がなされるべきものと考えられる。今回は過去の代表的な政策がどのように踏まえられているかという視点で、各党の教育政策を見ていきたい。

(1) いじめ問題、道徳、教育委員会制度

 第2次安倍政権初期に取り組まれたのが、いじめ問題への対応から発した道徳教育の教科化や、「責任ある体制を築く」ための教育委員会制度の改革だった。現状では、道徳教育の教科化は通知表に所見を書く等の教員の負担を増やしていることは間違いないが、いじめ防止に寄与しているかどうかは不明である。他方で、特にいじめ対応で教育委員会が法令に従わず無責任な対応をしている例が続発している。少なくともいじめ対応の観点から見れば、これまでの政策を肯定的に評価することは難しい。だが、各党の政策でこれらの点に関した言及は乏しく、選挙後の無策が懸念される。

(2) 大学のガバナンス・経営

 安倍内閣において、大学の「ガバナンス改革」として学長の権限の強化が行われ、「指定国立大学法人制度」が導入される等、トップダウンの大学経営や大学内・大学間の競争を志向した改革が進められてきた。しかしながら、大学に与えられる予算は先細りする一方であり、少子化による入学者確保の困難もあって、大学の経営基盤が脆弱(ぜいじゃく)化する中で大学は疲弊しながら競争状態に置かれているのが現状ではないか。各党の政策の中には教育予算の拡充や学生への給付型奨学金の充実等が見られるものの、大学のあり方自体を問うものは見られず、選挙後にさらに大学の疲弊が進むことが心配だ。

(3) 大学入学者選抜

 教育再生実行会議が2013年に出した第四次提言では、大学入学者選抜を、「能力・意欲・適性を多面的・総合的に評価・判定するもの」に転換することが打ち出された。しかし、これを受けた大学入学共通テストの導入は、目玉であったはずの英語外部試験導入と記述式問題導入が中止され、変化が見えにくくなっている。高等学校学習指導要領が改訂され、これまで以上に探究的な学習が強調されるようになっているものの、大学入試との接続が適切に改善されるかは曖昧なままだ。大学入学者選抜のあり方は大学教育にも高校教育にも大きな影響を与えるものと考えられるが、各党の政策では特段の言及は見られない。

(4) 教員の働き方

 教育に関する最近の大きな話題の一つが、教員の働き方改革だ。教育再生実行会議では2015年の第七次提言では「教師に優れた人材が集まる改革」を提唱していたのだが、現実には教員の負担の多さや部活動・校則等のあり方の理不尽さばかりが注目されるようになり、今や教員採用試験の倍率低下が深刻で、これまでと同様の水準の人材を確保することすらおぼつかない事態となっている。菅政権下では、小学校における35人学級導入や教員免許更新制の見直し、部活動の学校外への移行の検討等、教員の働き方改革に関わる政策が進められた。中学校の35人学級導入や小中学校のさらなる学級定員削減も話題となっている。選挙後にこうした取り組みが着実に進められるかは重要であるが、一部政党が掲げる給特法の見直しが具体化されて「働かせ放題」が解消できるかに注目したい。

 以上、過去の代表的な政策について見てきたが、どれも順調に成果を上げているとは言い難いにもかかわらず、こうした政策の問題点を踏まえた上で新たな政策を提示する姿勢は、残念ながらどの政党にも見られない。各政党の政策は、教育予算の増額、子育て世帯への給付金の給付、国立大学の学費値下げ等、金銭的な対応ばかりが目立ち、これでは「バラまき」競争だと言われても仕方がない。

 もちろん教育予算を増額して対GDP比でせめてOECD平均くらいにすることは重要だ。だが、予算をつけるだけで満足してほしくない。近年の政策を評価し、成果が出ていない点を評価して改善策を検討した上で、これからの時代に求められる教育のあり方が見えるような政策を示し、議論を進めてほしい。

あなたへのお薦め

 
特集