学びのためにヘルシーな環境を作る(中原淳)

立教大学教授 中原 淳
良い研究を生む「6:3:1の法則」

 大学の教員として、「どうすれば良い研究が生まれるか」ということをいつも考えている。私の持論では、良い研究は「6:3:1の法則」で生まれる。今日は、この持論を解説したい。

 まず「6」である。これは「本人の執念」だ。世の中では「良い研究は地頭が良い人にしかできない」と考えられているようだが、20年間、研究指導をしてきた感覚では、それは異なる。大事なことは「才能」ではなく「執念」だ。つまり、どれだけ「考え抜くことができたか」ということに尽きる。

教員の力は1割ぐらい

 では残りの4割が教員の力なのかというと、残念ながらそうではない。おそらく教員の指導が占める割合としては1割ぐらいだと思う。教員がどれだけ関わっても、一人の学生に対する面談時間や接触時間はたかがしれている。それでは残りの3は何か。それは「研究室に、共に学び、共に高め合う研究仲間がいるかどうか」だ。良い人間関係があり、心理的安全性が保たれている「ヘルシーな環境」が、よい研究を生み出す。

 翻って、大学の学部学生たちの学びに目を移す。学生たちを見ていると、「何を学ぶか」というのはもちろん大事なことなのだが、「誰と学ぶか」ということがとても大きく感じる。つまり「ヘルシーな環境」があるかどうかによって、学部生たちの学びの質も、いかようにも変わりうる。

 例えば、大学をレジャーランドと考えて、就職まで4年間遊んでいればいいと考える連中に囲まれるのか、将来のことを考えて何にでも前向きに取り組んでみる仲間に恵まれるのか。同じ人間が、どうにでも変わり得る。朱に交われば赤くなる、というけれども、影響されてしまうのは仕方がない。

 教員の力がたった1しかないというのは、寂しいかもしれない。もちろんいろいろと頑張っている。相手にこの言葉は届けたいとか、こういうふうに変わってほしいとか、こうしたらいいよとか、たくさん声も掛けている。けれども、教員が考えている以上に、教員の思いや願いは、学生たちには届かない。届かないからといって、諦めないのが教員だと私は思う。

子供たちが前向きになれる環境を作る

 「3割のヘルシーな環境」をつくるのは教員の仕事でもある。ヘルシーな環境を作っておけば、子供たちは勝手に動き出す。かつてコピーライターの糸井重里さんが「魚を飼うということは、水を飼うということだ」と言ったことがある。魚を生き生きと育てたいのなら、水質をヘルシーに保つことだ、と。

 メダカや熱帯魚を飼われた方は分かると思うが、基本的に魚に対してやることはあまりない。直接構わなきゃいけないこともたまにはあるけれども、基本はヘルシーな水を飼うと思っていればいい。たぶん教育現場も同じことで、本人に声を掛けてモチベーションを刺激するようなことも大事だけれども、まずは本人がいる環境をヘルシーにしてあげる、前向きになれる環境を作っていくこと。それが大事。

 これは小中学校の先生だったら学級作り、学級運営ということになる。個々の子供を育てるということに加えて、育つ環境を作るという視点がすごく大事になってくる、のだと思う。

 大学のゼミでは良いバランスは「本人の執念6、ヘルシーな環境3、教員の力1」だとしても、自発的に学ぶ姿勢がまだ形成されていない世代では割合は変わってくるだろう。小学校だと「4対4対2」ぐらいになるかもしれない。中学校だとまた違うはず。学年によっても違うかもしれない。ぜひ考えてみてほしい。ご自分の環境でどうだろうかと。三つは決してバラバラなものではなく、密接に関わり合っている。教員が頑張っていることがヘルシーな環境を作ることになるし、環境が良いことが本人のやる気につながっていくのではないだろうか。

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