時間外の授業準備や部活動等は「労働」ではないのか(妹尾昌俊)

教育研究家、学校業務改善アドバイザー 妹尾 昌俊

 埼玉超勤訴訟の争点

 「1日8時間を超えて労働させてはならない」という労働基準法(労基法)の規制(第32条)は、公立学校の教員にも適用されるのか。

 この点を含めて、埼玉県の公立小学校の現役教員(田中まさおさん、仮名)が訴えていた裁判の判決が10月1日にあった。

 さいたま地方裁判所は、公立学校教員にも労基法の適用は認めた上で、校長の職務命令に基づく業務時間が「日常的に長時間にわたり、時間外勤務をしなければ事務処理ができない状況が常態化しているなど」、時間外勤務命令を超勤4項目に限定して、教員の労働が無定量になることを防止しようとした給特法の趣旨を没却するような事情が認められる場合には、校長は「違反状態を解消するために、業務量の調整や業務の割振り、勤務時間の調整等などの措置を執るべき注意義務がある」とした。

 その上で、こうした措置を執らずに法定労働時間を超えて教員を労働させ続けた場合には、国家賠償法上違法になるとした。

 ただし、本件では給特法の趣旨を没却するほどの事情には当たらないとして、賠償責任はないと判断し、原告の訴えを退けた。

 本判決の概要や意義については、本紙電子版10月1日付「ある小学校教員の問題提起 埼玉超勤訴訟が示した意義」などに詳しい。判決の問題点については、おそらく今後研究者の解説が出てくると思うが、私もYahoo!ニュースで書いているので、よかったら参照していただきたい。

 勤務時間外の業務は「労働」か、自発的なボランティアか?

 この裁判を参照しつつも、もう少し全般的に、改めて考えたいことがある。教師の仕事は、どこからどこまでが「労働」なのか。

 普段、毎日の仕事で忙しい先生は多い。これは「労働」に当たるか、当たらないかなど日常の中では気にしたことはないかもしれない。

 だが、公立学校の教員については、とてもややこしい制度となっているし、深刻な問題が横たわっている。

 埼玉の裁判でも問題となり、またこれまでもさまざまな訴訟でも争点となってきたのが、勤務時間外に先生たちがこなしている、さまざまな業務についてだ。

 他の先進国と比べても、日本の教師の業務量は多いし多岐にわたる。勤務時間内では終わらないことは多く、どうしても勤務時間外にはみ出すわけだが、これは労基法上の「労働」に当たるのだろうか。

 最高裁判例をひもとくと、京都市立の小学校と中学校の教諭が訴えた事案(京都市事件)がある。この件では、研究発表校になったことなどから発生した授業準備や新規採用者への支援・指導、テストの採点、部活動指導等の過重な時間外勤務が、校長の安全配慮義務違反に当たるかどうかが問題視された。最高裁の見解を以下に要約する(最三小判平23・7・12)。

 校長は「個別の事柄について具体的な指示をしたこともなかった」のであり、「明示的に時間外勤務を命じてはいないことは明らかで」、「また、黙示的に時間外勤務を命じたと認めることはでき」ない。「強制によらずに各自が職務の性質や状況に応じて自主的に上記事務等に従事していたもの」と考えられる。

 このように、授業準備やテストの採点、部活動などは、教師の自発的、自主的なもの、つまり校長の指揮命令の下での「労働」には当たらない、という判断をする裁判例はこれまで多い。

 言い換えれば、勤務時間外の業務の多くは、先生たちが自分の判断でやっているボランティア的な活動ですよ、というわけだ。

 本当に自発的と言い切れるのか

 だが、おそらく常識的な見方、あるいは多くの教員たちの感覚からすれば、こうした判断は納得しかねるであろう。こと細かく校長がこの時間には何々をせよと命じていないとはいえ、学校の業務、仕事として従事していることなのに、「労働」ではないなんて。

 例えば、直接授業には関係しないかもしれないテーマについて、自己研さんを兼ねて、教材研究を時間外にしているとしよう。これは自発的な活動であると言われても、「まあ、そうかもしれないな」と思う人はいるだろう。現に、先生たちの自主的な学習会(いわゆる官制研修ではない、自主開催のセミナーなど)は各地で活発だが、学校の業務とは見なしていない。

 だが、翌日の授業準備やテストの採点、事務作業等は、自発的というよりは、必要に迫られて、学校の業務としてやっていることだ。

 裁判例は個々の具体的な事案についての判断であるが、立法論、政策論としては、時間外の業務の位置付けについて、今一度、考え直す必要があるのではないか。

 とりわけ部活動については、整合性のある説明をすることは、おそらくできない。今回の埼玉県の訴訟では小学校教諭が原告となっていたので、部活動は争点となっていないが、中学校、高校などでは、勤務時間外に部活動指導が及ぶことは日常茶飯事だ。例えば、定時が17時の学校の場合、17時までの部活指導は「労働」で、17時以降は「労働」ではなく、ボランティアだというのは、おかしな話だろう。実態としては17時前後で何も変わらないのに。

 それに、校務分掌の一環として「〇〇部の顧問は誰々先生にお願いします」ということは職員会議等で確認している学校は多い。しかも、部活動のガイドラインやコロナ対策の影響もあって、月間の活動計画を校長に提出している学校も多いことだろう。校長は、勤務時間外に部活動が展開されていることは百も承知のはずだ。これまでの判例でも、指揮命令とは黙示的なものも含まれている。なのに、時間外の部活動は校長の指揮命令の下の業務ではない、と言えるのだろうか。

 さらに、休日の部活動指導には、特殊勤務手当の一つが支給されている。なぜ、労基法上の「労働」とは言えない自発的なことに、公金を支出するのか。

 このように、部活動指導の法的な性格は矛盾だらけ、あるいははなはだ曖昧なのである。

 時間外の業務を真正面から「労働」と認めると、全国各地の学校が労基法違反となってしまうだろうし、時間外勤務手当をどうするかといった問題も生じてくる。教育に追加的な予算はなかなか付かない中で、どうしていけばよいのかは難題だ。

 こうした現実的な問題が大きいのは確かだが、だからといって、働いているのに「労働」とは見なされないというのは、納得がいくものではないだろうし、大問題である。こんな制度のままでは、教員志望者をさらに減らしてしまうかもしれない。

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