末松文科相への期待 ウェルビーイング実現を最優先に(喜名朝博)

東京都江東区立明治小学校統括校長、全国連合小学校長会顧問 喜名朝博

 理想と現実のギャップを埋めていく役割

 10月初めに就任した末松信介文科相は、就任後初めての会見で、教育現場を積極的に訪れて「見る力」をつけたいと話した。その言葉の通り、精力的に多くの学校を訪問していることに敬意を表する。

 ただ、訪問された学校は最先端を走っている理想的な学校ではないだろうか。それは日本の学校の現実ではない。この理想と現実のギャップを埋めていくことが行政の役割であり、想像力をもって具体的な政策に反映されることを期待したい。

 今年1月の中央教育審議会(中教審)の答申では、日本型学校教育の課題が示された。それを解決することが文科省の仕事であり、令和の日本型学校教育への道筋を付けることにもなる。

 学校現場の構造的な課題にも注目してほしい

 一方、学校現場には、学校や教育委員会だけではどうにも解決できない構造的な課題がある。進まない働き方改革、慢性的な人材不足と教員採用倍率の低下、解決すべき課題の多様化・複雑化と学校力の低下。これらは全て関連し、スパイラル構造となっている。

 学校における働き方改革の遅れはブラック職場というイメージを助長し、職としての教職を選ばない若者を増加させた。やりがいだけで職を選択しない、同じ職を続けることにこだわらないというような職業観の変化も影響している。

 教員採用選考の低倍率化は学校力を弱め、さらに慢性的な人材不足も現場を疲弊させる。学校力の低下は問題解決力を弱め、新たな課題を生み出す。それがさらに教職員を疲弊させ、教職の魅力を下げ、さらに採用選考の倍率が低下する。

 まさに負のスパイラルだ。この構造的課題は、もはや対症療法だけでは解決できない。学校の在り方、システムそのものを再構築するといった思い切った改革が必要ではないだろうか。

 省庁の枠組みを超えた教育施策の推進を

 この議論は省庁を超えたところで、すでに始まっている。内閣府が所管する「総合科学技術・イノベーション会議」(CSTI)の中に設置された「教育・人材育成ワーキンググループ」では、教育・人材育成のための制度や資源配分を議論しており、ここには中教審の委員も多数参加している。教育は学校が担い、教育行政は教育委員会や文科省が担うという枠組みの中で考えることに限界がきていることを示している。

 他の省庁のトップと直接話ができる大臣の立場を最大限に活用し、省庁の枠組みを超え、社会を巻き込んだ教育施策を推進することを期待したい。

 また、すでに役目を終えた教育再生実行会議であるが、新たな会議体を設置するのではなく、ご自身の最高諮問機関である中教審の議論を中核にして施策を判断することをお願いしたい。中教審の自立性を担保し、多様で自由、そして具体的な議論に耳を傾ける「聴く力」も期待される。

 ウェルビーイングの実現には「間」が必要

 末松文科相は「子どもは国の宝、礎だ」とも述べた。国の宝であるその子どもたちが置かれている環境は、年々厳しくなっている。社会全体として子どもたちを守ることは、こども庁に委ねられることになるのだろう。しかし、子どもたちのウェルビーイングを高めるのは学校であり、その学校の環境整備は文科省の仕事だ。

 幸福は心の安定によってもたらされる。その心を大切に育てていくには「間」が大切だと言われてきた。「時間」のゆとりは、人と人が関わり合う時間を保障する。教師にとっては子どもたちと向き合う時間を確保することになる。

 居場所としての「空間」は、子どもたちの生活そのものだ。30人学級になれば空間は広がり、学びやすい空間は学習意欲を高める。昨年の臨時休校明け、子どもたちは「友達に会えたことが一番うれしかった」と語った。「仲間」の存在は子どもたちの成長に欠かせない。

 その触れ合いの中では、失敗やトラブルもある。それを学びに転換し、成長の糧としていくのが教師の役割だ。人間関係の調整の仕方を学んでいく生徒指導は教師の専門性の最たるものだ。また、教師はより良い授業のためにもっと「手間」を掛けたいと思っている。しかし、その時間が確保できず、それが長時間勤務につながっているのだ。

 「間」を確保し、子どもたちと教職員のウェルビーイングを実現するためには、人的配置や給特法改正も含めた学校における働き方改革の推進、さらなる少人数学級の実現、教員の質の向上に向けた新たな養成・採用・研修の仕組み作りなどが必要だ。

 これら喫緊の課題解決を最優先として取り組むことを期待している。それにより「より良い学校教育を通じてより良い社会を創る」という理念は現実のものとなる。

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