再論・教員の働き方(上)問題の根っこは長時間労働(中原淳)

立教大学教授 中原 淳

 教員の働き方について、議論が高まっている。離職の問題、人手不足の問題、長時間労働、いろいろと課題が指摘されてきた。この問題は、本筋ならば、教師を教える専門家や教育現場の労働環境の専門家が、知恵を出し合い、場合によっては学会総出で取り組むべき課題だとも思う。

 私は企業の組織開発・人事開発の専門家であり、このたび、中央教育審議会(中教審)の「『令和の日本型学校教育』を担う教師の在り方特別部会」に特別委員として参加することになった。人材マネジメントの観点からのコメントを求められている、と理解している。

 今年4月から議論に参加していて、返す返す思うのは、「どうして、ここまで、教員の労働環境の悪化を放置していたのか」ということに尽きる。この「労働環境の悪化」こそが、教員にまつわる全ての問題につながっている。このような過酷な労働環境の中で、懸命に働いてくれている先生方に対しては、本当にリスペクトと感謝の気持ちしかない。しかし、リスペクトしているだけでは、事態は前に進まない。人材マネジメントの観点から知見を3回に分けて述べる。

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 全ての問題の根っこにあるのは「長時間労働」だ。国は「令和の日本型学校教育」を打ち出していて、これから学習指導要領や、GIGAスクール構想、個別最適な学びなど、いろいろな面で、さらに現場の変革に取り組むつもりらしい。しかし、それは順番が違う。教員の長時間労働の問題から取り組まないと、現場はもう動かないだろう。長時間労働の問題、働き方の改善なくして、教育改革なしである。もう現場には、物事を変えるリソースがないのだ。

 ご存じのように、給特法(公立の義務教育諸学校等の教育職員の給与等に関する特別措置法)のせいで、現場は「定額働かせ放題」になっている。

 横浜市教育委員会と立教大学中原研究室が行った調査では、教員の労働時間は、直近3日間の平均で1日当たり11時間42分。12時間を超える労働時間に従事している教員は全体の42%だった。このような過酷な環境の中、ストレスを感じている教員は78.7%、健康不安を抱えている教員が51.1%である。長時間労働になればなるほど健康不安の率は上がる。また、長時間労働は、教育改革に向かう教員のリソースも奪っている。「あなたには教材研究の時間がありますか」という問いに、足りていないと答える教員は75.7%。新学習指導要領について理解する時間すらないという教員が65.5%である。

 また、管理職の危機意識の希薄さも深刻だ。現場に行くと、よく校長先生などから「うちの先生たちは熱心ですから」という言葉を聞く。朝6時に来ていたり、午後9時10時まで残っていたりするのを「熱心だ」と褒めてしまうというのは、一般には信じがたい。

 教育の現場には、やった方がいい「ポジティブリスト」がいくらでもある。だからといって、整理しないでどんどん追加していくだけでは、パンクしてしまうのは当たり前だ。

 教育行政にも罪がある。社会の変化に合わせて、英語を導入する、GIGAスクール構想を導入する。必要な教育改革は、ぜひ進めるべきだ。しかし、そこにリソースが付いてきていない。

 民間企業の感覚でいうと、戦略転換には、必ず、リソースが必要である。自分の会社の扱う商材やサービスが変わるときには、当然、それを現場に届けるための資源を獲得して、ヒト、モノ、カネを投入する。必要に応じて設備投資を行い、安定的に顧客に価値を届けられる仕組みをつくる。しかし、学校には、それがない。変革ばかりしているものの、リソースが不足している。

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 長時間労働の是正は「あの手、この手」でなければ進まない。とにかくやれることを全てやるべきだ。

 第1に、とにかく人を増やすことだ。30人学級なり35人学級にして、負荷も減らす。これを積極的に行うべきである。

 第2に、IT化などで生産性を上げる。紙や現金の出納など、デジタル化できるところはデジタル化する。

 第3にやるべきは、労働時間を「厳密に見える化」することだ。入りの時間と出の時間の見える化。これ抜きでは、あらゆる問題は解決できない。

 「#教師のバトン」などを見ていると現場の状況がよく見えてくるが、午後5時になったら、残業する先生方は1回カードを通す、といった信じられないことが行われている。民間企業だったらそんな指示をする管理職は一発解雇。すぐに労働基準監督署が入る。そのレベルのことが、日本各所の学校現場で行われている可能性があることに、危機感を感じる。

 長時間労働が解決しない限り、次に起こるのは「人手不足」だ。長時間のブラックな働き方が横行している職場では、誰も働きたがらない。若手は特に働きたがらない。人が集まらないから、今いる人がさらに働かなければならなくなる。もっと長時間労働になる。負のスパイラルにはまってしまっている。だから、長時間労働をまず最初に解決する。最優先に取り組むべき課題なのだ。

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 長時間労働の是正という一丁目一番地に取り組むことを前提に、以下、教員の人材マネジメントには、どのような問題があるのかを列挙する。

【1】教員の新卒採用をどうすればいいのか?

 教員を新卒で採用することが難しくなっている。ブラックな職場だということが世間に広まって、イメージが低下してしまった。「親ブロック」も働いている。希望しても親に「苦労するからやめた方がいい」と言われてしまう。その一方で、人手不足を背景に、採用は売り手市場になっている。学生はすぐに2社、3社と内定をとってしまう。そこそこ有名な企業に入れてしまうとなると、たとえ教育学部を出ていても、教員を選ぶとは限らない。

 企業の採用の動きが早まっているのも大きい。多くの企業は、大学1年生のときから長期インターンなどの取り組みを始めている。3年生の春には勝負をかけてきて、冬にはもうほぼ決まってしまう。それぐらい早まっているので、4年生の春や夏に教員採用試験が行われても、いい人材はそう残っていない。

 採用の在り方は、いったんゼロベースで見直す必要がある。「教育委員会は、学生を選抜しているつもりでいるかもしれないが、実は、人手不足の時代にあっては、学生から選ばれているという自覚」を持つべきだ。あと、長時間労働の是正こそが「最大の採用対策であること」は言うまでもない。「安心・安全の職場づくり」が、結局は「最大の採用メッセージ」なのである。

 まず、採用は、もっと早くから学生と丁寧なコミュニケーションをとる必要がある。こちらから大学などに出張っていってでも、教員の仕事が魅力的だということをしっかり伝えていくべきだ。場合によっては、インターン採用などもあってもいいかもしれない。

 採用フローをいますぐにでも見直さなければ、優秀な人材を全て企業に取られてしまう。企業もいま、ほんとに必死で採用に取り組んでいて、インターンでいい人を見つけたら、すぐに採用してしまう。そういう社会の変化に、教育界は完全に取り残されてしまっている。

【2】教員の中途採用をどうすればいいのか?

 次に中途採用をどうするか。新卒の雇用が難しくなっていく中で、入り口を増やすには、民間からの中途採用、非正規の採用に頼らざるを得ない。ただし、これは劇薬でもある。教員は、これまでほぼ全員が新卒一括採用で長期雇用という世界。現場は、中途慣れしていない、民間慣れしていない。

 育成の仕組みも全て、新卒一括採用長期雇用を前提にしている。新任研修もOJTも新卒対象。中途や非正規を育てる仕組みがない。これを再構築する必要がある。

 採用ルートの複線化を提案すると、みんなそれはやった方がいい、と賛成するのだが、簡単なことではない。

 採用と育成は「ワンセット」である。採用して終わりではなくて、育成して、成果を創出して初めて、目標は達成される。そこまで考えておかないと、離職にもつながってしまう。キーマンになるのは管理職で、マネジメント能力と育成についてのノウハウは必須。現場だけで支えられるものではないので教育委員会のサポートも必要になるだろう。

 人手不足問題には、3つの取り組みが必要だ。まず「入口対策=入口の量とチャネルを増やす」つまり採用増。そして「出口を減らす」すなわち離職を抑制する。それから「生産性を上げる」。新卒採用、中途採用は「入口対策」だ。この「入口対策」に加えて、離職をこれまで以上に抑えることが重要だ。

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